ヤマハの最先端ボーカロイド技術を搭載したゲームアプリ『ボカロダマ』について聞いてきた

2013-09-30 16:43 投稿

ヤマハ125年の歴史に革命

楽器や音楽、音響機器などの製造で知られるヤマハが世に贈る歌声合成技術“VOCALOID(ボーカロイド)”。その技術を進化させ、リアルタイムに歌声合成処理を行うゲームアプリが『ボカロダマ』だ。『ボカロダマ』は、フリックで音程を変更しながらボーカロイドを使った楽曲を演奏する楽しさが味わえる。そんな画期的なアプリを生み出した、プロデューサー兼ディレクターの松澤健氏(ヤマハ)に本作にまつわることをいろいろと聞くため、インタビューを敢行。ここでしか聞けない情報満載でお届けしていく。

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▲ヤマハ 『ボカロダマ』プロデューサー兼ディレクター 松澤健氏

――まず、ヤマハさんがゲームに興味を持たれたキッカケを教えてください。

松澤 まず初めに言っておかなければならないのは、我々ヤマハがゲーム業界に参入していくということではありません。iOS端末上でリアルタイムにボーカロイドの歌声合成処理を行うことができる技術を開発したことが始まりで、この技術を何かに活かそうと思って作られたものが、たまたまゲームだったというだけなんです。やはり我々は楽器メーカーであり、ボーカロイドを生み出したメーカーなので、いままでゲーム業界でやられてきたメーカーさんには到底敵いませんし……。ヤマハの歴史125年の中で、ゲームを出すこと自体おそらくですがこれが初めてだと思います(笑)。

――もともとゲームのために作ったわけではなく、ボーカロイド技術の進化の過程として『ボカロダマ』が作られたと?

松澤 そうですね。我々はこれまでもボーカロイド関連のアプリをいくつか出しているのですが、それはリアルタイム処理を必要としていないものでした。あるとき、浜松にいる社員のひとりが、最新のリアルタイム歌声合成処理技術を応用した、いまの『ボカロダマ』の原案を作ったのです。そして、試作段階のものが上の者の目に留まり、「おもしろいから、もうちょっと発展させて音楽ゲームとして作ってみたらどうか」という話になりました。そして、当時iOS端末のアプリを担当していた私に話が回ってきて、本格的に『ボカロダマ』を作り出すために動き出したのです。リアルタイム性を活かすという意味では、いま考えるとゲームがいちばんジャンルとしてはよかったと思いますね。

▲この写真は試作段階の『ボカロダマ』の映像。初めは、オタマジャクシが川を泳いでいるイメージで作られたという。自分と同じ色じゃないところを泳いでいるオタマジャクシを、同じ色の川に動かして揃えてあげることで歌う、というコンセプトだったようだ。また、試作段階では上から下に玉が流れていた、という開発の裏話も聞かせてもらえた。

――ではちょっと話をもどしますが、そのボーカロイドのリアルタイム処理というのを簡単に教えてください。

松澤 ボーカロイドという、いわゆるボカロPさんに使用していただいている楽曲制作ソフトは、歌声を出すのに1回“レンダリング”という合成処理の工程が必要なんです。たとえば1曲打ち込んだら、それを再生するときに1回オーディオに変換して、時間をおいてからようやく歌声として流れるんです。

――なるほど。ということは、「ボーカロイドで作った曲というのは、内部的な処理がされたあとに歌声として流れる。それを一瞬にして歌声にすることがリアルタイム技術」ということですか?

松澤 簡単に言うとそうです。これまでの音楽制作ソフトのボーカロイドでいうと、ほんのちょこっと待たされるくらいはまったく支障がなかったんですが、そこにリアルタイム技術を足してみたという感じですね。

――大まかに理解できました(笑)。話を戻して、ボーカロイドというといまや世間一般では『初音ミク』や『Megpoid』のような、キャラクター性の強い電子アイドルのイメージがあります。ですが、このアプリはそういった特徴を一切使わず、逆にレトロでスタイリッシュなデザインに仕上がっています。そうしたことに何か理由はありますか?

松澤 ボーカロイド文化の魅力のひとつには、キャラクター設定での見た目のかわいさや萌え要素などがあり、非常に多くの人にご支持をいただいているものではあるのですが、その一方で、抵抗感がある方もいるんですよ。たとえば、電車内でプレイしているときに、画面にかわいい女の子キャラクターが写っていることが恥ずかしいって人も少なからずいるんです。そうした先入観や偏見を持たないよう、フラットにゲームとして遊んでもらうために、いまのデザインにしました。あと、『ボカロダマ』にも使用されている“VY1”という歌声があるんですが、これもまさに同じコンセプトなんです。ボーカロイドってキャラクター設定がついているものが多いんですけど、この“VY1”はキャラクター設定がつかない、純粋な楽器のひとつなんです。そもそもが、キャラクター設定を出さないということをコンセプトのひとつとして作られた歌声なので、この『ボカロダマ』もキャラクター路線ではないゲームになりました。

――つまりは、ボーカロイドキャラクターに抵抗感がある人やボーカロイドに興味がなかった人を『ボカロダマ』に引きこみたかったと?

松澤 そうですね。これまでボーカロイドというのを自主的に使うのは一部の人で、音楽制作などの知識を持った人しかできなかった。そういうものを、もっとライトユーザーの方に遊んでもらえる、いちばん簡単なところでボーカロイドを自分で操作しているという楽しみを伝えたくて『ボカロダマ』は生まれました

――本来は楽器メーカーであるヤマハさんなら、音に関してのこだわりが強いかと思います。ゲーム制作に当たって音に関する苦労した点などがありましたら教えてください。

松澤 弊社のリアルタイム歌声合成エンジンを積んだアプリって、もちろん『ボカロダマ』が初なんです。リアルタイムにすることで、やっぱりこれまでの合成エンジンに比べると、どうしても品質的な部分でちょっとクオリティーが下がってしまうところがあります。最初聴いたときは「これ、世に出すのはヤバイんじゃないか」というくらい、試作段階では聴くに耐えないものでした。

――「聴くに耐えない」とはどういった点でしょうか?

松澤 たとえば、「アイウエオ」という音のつなぎは、「これはアイウエオで、それぞれの音程はこうだな」とボーカロイドのシステムが判断して、言葉と言葉のあいだを滑らかにつなごうとしてくれるんです。これが、さきほどお話しました“レンダリング”の過程で行われる先読み処理です。『ボカロダマ』では、ユーザーがつぎにどの音をつなげるか、システムは先読みできないので、その場で瞬時に決めなければなりません。だから、音のつなぎ目がかなり不自然になったりするんです。そこを開発チームにがんばってもらって、また、ボーカロイドの打ち込みファイルも本合成エンジンに合わせて修正して、何とか不自然ではないところまで調整しました。音楽屋として苦労したのは、ここですね。

――まさに職人技ですね。今後についてですが、Android版のリリース予定はありますか?

松澤 Androidユーザーの方には申し訳ありませんが、現在のところその予定はありません……

――それは残念ですね~。では、今後目標とする楽曲数と追加パックの配信ペースを教えてください。

松澤 皆さまの反響が多ければ、どんどん楽曲は増やしていきたいです。現状の予定では、少なくとも今後半年間は追加パックを配信していきますよ。

――それではズバリ、つぎのパックはいつ出るのでしょうか?

松澤 1ヵ月以内に出るとお伝えしておきます。内容は、ゆずの『夏色』やWhiteberryの『夏祭り』、AKB48の『ポニーテールとシュシュ』といった夏曲パックです(笑)。じつは当初予定していた8月中のアプリのリリースが遅れてしまって……、用意していた夏曲パックを秋に配信することになってしまいました。ぜひ夏を思い出しながら遊んでみてください(笑)。

――そうだったんですか! ボーカロイドというだけに、ボカロPと言われる人たちのボカロ曲は続々と追加されていきますか?

松澤 配信開始と同時に導入したボカロ曲の追加パックにご好評をいただいていますね。今後、そういった要望に応え、ボカロ曲シリーズは強化していきたいと思っています。

――『ボカロダマ』のために、ボカロPにオリジナル曲を作ってもらったりということは?

松澤 ボカロPに関わらず、アイデアとしてはあります。自作のボカロ曲がゲームで使用できるという要素は、以前行ったニコニコ生放送での視聴者のコメントでもけっこう出ていました。まだ全然仮なんですけど、たとえばコンテストを開いて「あなたの曲が『ボカロダマ』で使われます!」といったことを募集して、優勝した曲がアプリのバージョンアップ時に同梱曲として使われます、といった展開はアリなんじゃないかと考えています。

――ボーカロイドというものをもっとカジュアルに楽しんでいただくために、今後ヤマハがゲーム寄りに進んでいくという考えかたはあるのでしょうか。

松澤 アプリケーションとしては、可能性があります。僕自身ゲームが好きというのもあって、個人的にはやりたかったりはしますし(笑)。やっぱりゲームって取っつきやすいですからね。また、本技術を用いたSDK(開発キット)は、法人向けに提供予定なので、他社様からゲーム、あるいはまったく別のアプリケーションを展開していただくことも期待しています。

――個人的に『ボカロダマ』は、今後大きな展開がありそうな気がします。それでは最後に、ユーザーに向けたメッセージをお願いします。

松澤 現状では、我々が痛感しているユーザーの意見の「難しい!」という言葉に対して、絶賛対応中です。「タッチの反応が悪い」、「玉がつかみづらい」、「無料曲が少ない」といった言葉にもバージョンアップで対応して、もっと遊びやすいようにしていきたいと思います。とりあえずこれだけは言わせてください! 10月中には、操作性を改善し、簡単なチュートリアル的な曲をアプリ同梱曲として1~2曲追加して、バージョンアップを行う予定です! なので、もう少しだけお待ちください!!

――本日は、ありがとうございました!

ボカロダマ

ジャンル
ミュージック
メーカー
ヤマハ
価格
無料(アプリ内課金あり)
対応機種
iOS 6.1 以降。iPhone、iPod touch および iPad 対応。 iPhone 5 用に最適化済み

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