スクエニ安藤ブログ“スマゲ★革命 シーズン2” 第十三回 「スマゲは音楽をナメてはいけない」

2013-09-09 15:15 投稿

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スマゲは音楽をナメてはいけない

今回はスマゲにとって音楽はすごく大事だよ。という話をしたいと思います。家庭用ゲーム機の世界ではゲームBGMやSEの重要性は改めて語る必要がないほど、作品作りにおいて重要度の高いものです。SAPもゲーム会社も一斉にアプリを作るようになってきた2013年、意外と音楽を大事にしていないスマゲが多いように感じられるので、問いたいと思います。

・あなたのゲームはサントラが販売できますか?
・あなたのゲームでコンサートが開催できますか?
・またそれをプレイヤーから望まれていますか?

多くの人気ゲームは上記のようになっていますよね。我々スクウェア・エニックスにおいても音楽はゲームや漫画とならんで重要な事業のひとつになっています。

※SQUARE ENIX MUSICのサイトへはこちらから

それはひとえに私たちのゲームが上記の条件を満たし続けてきたからでもあります。スマゲに限定しても、私がプロデュースした『ケイオスリングス』シリーズのサントラは全三作品すべてiTunes Storeで配信しています。

ケイオスリングス オリジナル・サウンドトラック
ケイオスリングス Ω オリジナル・サウンドトラック
ケイオスリングス II オリジナル・サウンドトラック

 

スマートフォンは音楽プレイヤーをかねていることも多いですから、ヘッドフォンでBGMを聞く機会が専用のゲーム機よりむしろ多いように思います。一方で、電話機から音が出る事が多くの場所でマナー違反になる日本においては、意外と音を消してアプリを遊ぶプレイヤーも多いと思います。それでもスマゲにおいて音楽は重要なのです。なぜか?

それは、プレイした後も音楽はゲームプレイの思い出を語り続けてくれるからです。音楽は時間を越えてファンに愛され続ける。遊び終えたゲーム。様々な理由によってもはや遊べなくなってしまったゲームも、音楽がすぐれていれば、そのフレーズを思い出したり、サントラを聴くだけでプレイの思い出が蘇ってくる。その思い出は良いものであることが多く、ゲーム体験を色褪せることなく彩ってくれる。すぐれた音楽は、数度聴いたら忘れられないフックをもっていますので、アプリであまり音楽を聴かないからといって、製作における優先順位を下げるようなことがあってはいけない。いつどこでBGMを聴く環境がプレイヤーにやってきて、いつ心に刷り込まれるのかは、わからないですからね。その一瞬を大事にすべきだと思います。むしろアプリであっても熱心なプレイヤーの多くはゲーム音楽を楽しんでいるはずです。

音楽がもたらす効果はKPIでは計測できませんから優先順位が低くなりがちだとは思います。だったらなぜTVゲームがファミコンの時代から、たった三音しか出ないハードでも音楽にこだわってきたのか? 実際に一音は効果音に使用される事が多かったと思うので、BGMに使える実際ので同時発音数は二音だけです。それでも豊かな創造性を駆使して音楽を創り、作品を盛り上げてきたのか? それは歴代のクリエイターの人たちが音楽の重要性を十分にわかっていたからの証左に他なりません。

少ない音数でも、ゲームファンの誰もが『ドラゴンクエスト』の序曲や、『ファイナルファンタジー』のレベルアップ音を鼻歌で歌えると思います。これが今後10年20年とゲームを運営製作していく上において、どれくらい凄まじい力を持っていくか。すぐれた映画やドラマにも同じことが言えますし、芸能でも楽曲によってアイドル本人の人間的魅力が更に増すことがあります。ミュージカルやレビューなどは、まさに音楽の魅力が結集したエンターテインメントです。このように娯楽の歴史全体が証明しているともいえる音楽の力を、当然スマゲもナメてはいけない。特に売り上げばかり見がちで、売れそうなシステムからアプリをデザインする人は考え直したほうがいいでしょう。ゲーム音楽はゲームデザインと同等に価値のあるものなのです。

ゲーム音楽はただ鳴らせばいいってものではありません。映画や演劇音楽の事を「劇伴」と呼ぶくらいですから文字通り作品に寄り添い、魅力を増していくように構築しなければなりません。そのために製作者は作曲家とイメージの共有や説明を徹底的にします。私は売り上げの最高責任者であるプロデューサーですが、詳細はディレクターを信頼して任せ、ゲーム音楽に関しては以下の二点しかリクエストしません。

(1)よりドラマチックであること
(2)鼻歌で歌えること

(1) に関しては感覚的な概念ですが、たとえばRPGのコアとなる戦いのシーンであれば、できる限り劇的にアプローチしてほしいとリクエストします。その結果としてクラシックやオペラ、ヘビーメタルなどの、言わばおおげさなモチーフや、それらの融合ができる作家を希望することが多いです。泣きであれば、より泣けるように、コミカルであればより軽快に。ドラマチックとはそういった意味合いです。このことでプレイヤーの皆さんの印象に刷り込まれ、長い時間語り継がれるとことを狙っています。

(2) は厳密にはどれだけ複雑な音楽アプローチをしてもよいが、かならず鼻歌で歌えるようにしてくださいね。という言い方をしています。たとえば映画『Mission: Impossible』(スパイ大作戦)のテーマ曲は、専門的にいうとリズムが4分の5拍子といわれる変拍子です。大雑把に言ってだいたいの曲(特にロック)が4拍子<1,2,3,4の繰り返しでとれるリズム>のところ<1.2.3.1.2>で繰り返さないとズレて気持ち悪くなるような、ちょっと音楽的には複雑な事をしています。

リズムの勘定が奇数になるとズレて聞こえやすく、普通にはノリにくい(実はノレると超気持ちいい)のですが、これには不安定な分、緊迫感がでるという効果があります。でも難しいことはおいといて、この曲の冒頭は誰もが「ジャッ、ジャッ、ジャージャ」と歌えますよね。ちなみに『ゴジラ』のテーマは<1.2.3.4.1.2.3.4.5.>の9拍子で、これにもまったく同じことが言えます。「ゴジラ、ゴジラ、ゴジラとメカゴジラ」の節で、鼻歌で歌えますよね。

ゲームにも変拍子は数え切れないほどあり、『スーパーマリオブラザーズ』の1-2は4分の3拍子です。この拍子は、ちょっとだけ人工的な感じがあって、メロディによっては焦燥感を感じるようにできています。正確なメロディになるかは別として、これもゲーム好きなら見よう見まねで、鼻歌で再現できるはずです。

このように音楽理論やアプローチは作家性に関わるところですから、そこは自由にのびのびとやっていただき、一方でプレイヤーに強い印象を残すために、鼻歌で歌えるくらいフックのあるメロディをリクエストします。音楽といってもきちんとすべてに意味があるので、音楽理論をしらなくても、どのような効果があるのか、プロデューサーやディレクターは本質的なところを理解して、狙えるようにする必要があると僕は思います。

狙いをもって依頼をしないと、場合によっては著名な作曲家であっても、耳に残らないものになりますし、ゲームに寄り添わないものになってしまいます。最初に指示が明快であれば、それほどリテイクもありませんし、あっても「もっとドラマチックにしてほしい」、「まだ鼻歌で歌えないのでもっとフックをつっくてください」。こんな感になるのが私のゲーム音楽との向き合い方です。

またBGMといっても、最近では「歌モノ」も当たり前にアプリでは再生ができます。江戸時代からも流行歌は世相を反映し、「ええじゃないか」のように歴史的な出来事になることすらありました。校歌や国歌や軍歌、などを見ても、歌のパワーや伝播力は、ものすごいものがあります。故に歌の底力を重視する我々特モバイル二部では、原則すべてのタイトルに主題歌を採用するようにしています。『拡散性ミリオンアーサー』の主題歌『Million of Bravely』は、日本語バージョンそのままで海を越えて中国でこんな感じで愛されています。

 

『拡散性ミリオンアーサー』オープニングアニメ

 

中国の動画サイトにアップされた『Million of Bravely』のダンス動画

※動画が見れない場合はこちらから(スマホの場合、リンク後に表示される「播放」をタップすれば再生可能)


▲画面左下の三角形の”再生ボタン”を押すと再生できるぞ。「弾幕で見づらい!」という人は、音量調整の横にある吹き出しマークをクリックしよう。

このように、歌の力は作品とともに国境をも越えていきます。

スマゲ界を見ても、今年の4月に開催された「パズドラファン感謝祭2013」でも伊藤賢治さんのライブが大盛況でしたね。もっとライブイベントができるようにみんなで良い音楽を作っていきましょう。おもしろいゲーム体験とともに、必ずプレイヤーの皆さんの心に残っていってくはずです。それではまた!

次回につづく

 

今回は“音楽”に対する造詣の深さとを見せた安藤氏。実は安藤氏自身がアルバムをリリースするミュージシャンであることを読者の方々はご存知だろうか!? 氏がメンバーであるハードコアバンド”ヤルタ会談”の4thアルバム「R.P.G.」は『ファイナルファンタジータクティクスアドバンス』などでおなじみの伊藤龍馬氏がアートワークを手がけ、『ファイナルファンタジーXI』などの作曲で知られる水田直志氏が編曲で参加しており、安藤氏のプライベートの活動でありながら、スクエニのビッグネームが名を連ねている。安藤氏いわく、このアルバムは「公私混同の一枚」にして、「もうひとつの隠れたスクエニR.P.G.」とのこと。興味のある人は下記をチェックしてもらいたい。氏の違った一面に出会えるぞ!

ヤルタ会談『R.P.G.』の購入はこちらから

■著者紹介

安藤武博(あんどう たけひろ)
スクウェア・エニックス 特モバイル二部 ジェネラル・マネージャー兼プロデューサー。ゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。

 

 

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