スクエニ安藤ブログ“スマゲ★革命 シーズン2” 第八回 「奇跡の対談 最終章 ”ゲームの未来”を語る」

2013-06-19 16:10 投稿

●ゲームハード戦争終結は近い!?

▲対談の開催地である”16 shot”の店内に配置されたレトロゲームグッズにご満悦のお二人

 

第六回第七回とお送りしてきた安藤氏と『僕たちのゲーム史』(星海社)の筆者・さやわか氏による対談も、今回で最終回! この最終回では、『僕たちのゲーム史』では語られることのなかった”ゲーム業界の未来”に関するお話を掲載。さやわか氏が見据える業界の未来とは? 乞うご期待!

 

[関連リンク]
第六回 「奇跡の対談 第1章 『僕たちのゲーム史』著者が語る”ゲーム”とは」
第七回 「奇跡の対談 第2章 物語性の大切さ」

 

【まとめ】スクエニプロデューサー安藤 武博氏のブログ“スマゲ★革命”

 

安藤 今回、対談という席を設けたのは、この本を勧めたかったからという想いもあるのですが、それとは別に、この本ではスマートフォンのゲームまで取り扱われていないので、その辺の話を聞いてみたいと思いまして。

さやわか 携帯電話向けのゲームについては簡単に書いてあるのですが、ソーシャルゲーム、スマートフォンゲームについても書きたい想いはありました。ただ、紙幅とページ数がそれを許さなかったので、そこまで書けなかったのです。それと、スマートフォンゲームに関しては、まさしく激動の最中ですから、 これについて中途半端に書いてしまうと、本全体とのバランスが取れなくなってグチャグチャっとしたまま終わってしまうと思ったので、書かなかったというところもあります。

安藤 ジオングみたいな感じですね(笑)。

さやわか あはは(笑)。そうですね、そんな感じだと思います。

安藤 僕は、今ちょうど、本書に書かれなかったジオングの脚の部分にあたるスマゲを作っているわけですが、さやわかさんは「脚なんて飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ」と思っているのかどうか。それが分からなかったのでこの機会に是非聞いてみたかったんです(笑)。

さやわか この本に書かなかったのは、スマートフォンゲームの話と、これからはマルチプラットフォームになりますよというような、この先何が起こるのかという話になります。ですので、まずはマルチプラットフォームの話をしてみますね。僕は、任天堂やセガ、ソニー、マイクロソフトが起こしていたハードの戦争は大きな意味ではもう終わると思っています。なぜ終わるのかというと、もはやどのハードでも同じゲームが遊べるという現実があるからです。これは、海外でPCゲームが強くなったこととiPhoneのようなスマートフォンがゲームのプラットフォームとして現れたことが壊した壁だと思います。スマートフォンの場合は特にそうですが、まさに「動けばハードはなんでもいい」という思想が大きくなってきたわけです。その考えが定着し始めると、当然ながらユーザーの多いスマートフォンが主力になってくると思います。なので、従来のハードウェアメーカーによる対立は重視されなくなっていくはずですよね。

安藤 僕もマルチプラットフォームについては『スマゲ★革命』でもよく取り上げています。最近では、近いうちに畳み掛けるように実現してしまうのではないかと思っています。久々に、新型ゲーム機であるPS4やXbox oneが発表されたりして、また縦割り構造になるのかなとも思ったのですが、実際はメディアやお客様が思っているほどの縦割りにはならないと感じています。

さやわか そうですね。今の状況は、Windowsが流行ったことによって、NECや富士通が起こしていたパソコン戦争が大きな意味では終わったのに近い状況にあると思います。あくまで、中で走るものが重要で、ガワはなんでもいいのだと。Androidなんかは、とくにそれを加速させていますよね。これまでのフィーチャーフォンは「このメーカーの携帯電話には、こんな機能があってスゴイ」といったような端末ごとの個性がありましたけど、今はAndroidとして中身が統一されつつありますから。

安藤 2012年の4月にスマートフォンでサービスをはじめた『拡散性ミリオンアーサー』を1年後の2013年4月にプレイステーション Vita向けにリリースして、おかげさまで好評をいただいています。もともとiOS向けに作ったゲームで、開発当初は専用ゲーム機で動かすことなんて思ってもみませんでした。いま考えればありえる流れとはいえ、実際にプレイステーション Vitaで動いているのを触ったときに「あれ、いつの間にかハードの垣根がなくなっている」と、そこではじめて腹に落ちました。こんな感じで、今まさに急激な変化が来ていることを実感しているところです。

さやわか iPhoneも、Apple TVやAirPlayを使うことでテレビに出力できるので、家ではテレビに出力して遊んで、外で遊ぶときはスマートフォンで遊んでという形がすでにできる状態にあります。これからは、ハードを選ぶのではなく、環境の変化に合わせてスタイルを変えるというだけの時代になりそうですね。

安藤 とはいえアクションゲームなどコントローラーでやったほうが面白く感じるゲームは、そう簡単に垣根を越えないのではないか? という問題もあります。コンソールゲームの開発者からは「スマートフォンはアクションゲームに弱そうだよね。物理コントローラーが持つ、ボタンの押し込み加減による差異や、ボタンを叩き込んでいる感覚とかは味わいにくいと思う」と言われます。僕も最初はそう思っていました。でも、実際にはiPhoneでリリースされた『ストリートファイターIV』は、そのあたりを解決してフルタッチインターフェイス向けにすごくよく出来ています。それに、iPhone、Android用の物理コントローラーもいまは少しではあるけれど、リリースされつつあるので、物理コントローラーで遊びたい人には、そういった人向けにセットパックなんかを作って提供していけばいいのではないかと思います。ですので、スマートフォンがすべてのプラットフォームを飲み込んで起こるクロスオーバーは、理詰めで考えると、すぐに訪れるように思えますね。

さやわか パソコンもそうですけど、同じ環境で利用している人なんてほとんどいないわけですよ。スペックの差もありますし、導入しているソフトウェアも違います。でも、みんなはまったく同じもので遊んでいると感じられている。なので、スマートフォンもそうなりますよ。「俺はスマートフォンだけで遊べるなら、それでいいわ」という人と「俺は物理コントローラーを使って遊ぶわ」という環境の違いが生まれるだけです。ニンテンドー3DSの『モンスターハンター』も、拡張パッドの有無という棲み分けがありますし。今後は、環境によっての棲み分けが普通になってくると思いますよ。なので、「俺はこのハードで遊んでいるから偉いんだ」という不毛な戦いはなくなっていく……と思いたいです(笑)。

安藤 そうですね、あの戦いは早くなくなって欲しいと僕も思っています(笑)。

さやわか いまだにその話をしている人は、本当に大丈夫なのかと心配になりますからね(笑)。

安藤 人間は本能的に急激な変化を嫌うようにできていますから。でも、その変化は確実にヒタヒタと近づいていますね。

●ユーザーが増えた今こそターゲッティングが重要

安藤 『パズル&ドラゴンズ』のヒットが、この業界に大きな影響を与えています。今、おびただしい数の人が遊んでいるわけじゃないですか? 1400万人(※6月19日現在)がダウンロードして、アクティブユーザーが600万人を超えて、この瞬間にもさらに増え続けている。つまり数的には『スーパーマリオブラザース』や、社会現象になったときの『ドラゴンクエスト』と同じか、それ以上の人数が遊んでいるわけです。でも、家庭用ゲーム機のファンや社会全体が、それをどう捉えているのかを見てみると、そこまでのインパクトでヒットしているとは思っていない人が多いのではないでしょうか。昔は徹夜でゲームを買い求める人の行列がニュース映像で流れていたり、絵的にもパッとわかりやすかったというのもあります。現在はダウンロードコンテンツなので目には見えません。しかし、数字だけを見るとゲームの歴史に名を残すようなことが静かに、また確実に起こっている。

さやわか 『パズル&ドラゴンズ』は去年、CEDECアワードのゲームデザイン部門で受賞をしましたよね。で、そのニュースを見たときに、インターネット上では同部門のノミネート作品であった『GRAVITY DAZE』について「いいゲームだったね」と評価している中、『パズル&ドラゴンズ』に関しては「なにそれ?」という感じになっていたんですよね。コアなゲームユーザーのところには、なぜか十分に届いていなかったんです。これは面白い現象ですよね。

安藤 そうですね。クロスオーバーの時代になっても、プレイヤーの層が縦割りであるというのは事実として変わりなく存在するというのが分かった、ひとつの事案ですね。『GRAVITY DAZE』を楽しく遊んでいる人たちは『パズル&ドラゴンズ』のことをあまり知らず、逆に『パズル&ドラゴンズ』を楽しく遊んでいる人たちは、コンソールゲームの現在をよく知らないということが起きている。

さやわか 現在は、一方では、スマートフォンを中心としたマルチプラットフォーム化を進めてユーザーの垣根をなくしつつ、もう一方ではユーザーの細分化が進んでいるという状態になっているのでしょうね。

安藤 今まではこんなことありませんでしたよね。

さやわか セガハードで遊んでいる人、任天堂ハードで遊んでいる人といったような、ゲームハードによってユーザーが縦割りされた時代はありましたけど、ゲームソフトによってユーザーが縦割りされる時代というのは記憶にありません。イメージ的には、インターネットそのものに近づいていると感じます。昔は、パソコンの機種によってユーザー区分が付けられていたけれど、今はそんな区分は存在せず、みんな同じ環境で利用していると錯覚しながら、それぞれが別々のコンテンツを見ているんですよね。

安藤 そうですね。とても複雑な状況が、おそろしいスピードで進行しています。それゆえ、そのような現実を的確に捉えている人はゲーム業界でも意外と少ないのかもしれません。たとえば基本無料のフリーミアムアプリをリリースすれば、タダなので老若男女みんながみんなダウンロードするようになるだろうと考える人はまだ多いです。実はお客様はタダでも興味の無い物は受け取りません。ゆえにタダになっても、いや、タダになったからこそターゲットを絞って、そこに向かって濃い世界観を作り出さなければならないこともある。「無料だから、誰しもが遊ぶはず。ならば、誰もが受け入れやすいポップな世界観にしよう」と単純に考えるのは間違った選択です。クロスオーバーにすると、ユーザー数の分母が増えるので、物理的にというか数字的には裾野が広がるような印象を受けるのですが、プレイヤー層の縦割りを乗り越えることはありません。だから、僕たちクリエイターはお客様に向けて「俺は、あなたに向けてゲームを作るぞ!」という明確な意思がないと、無料だろうが有料だろうが、ハードが何であろうが、売れるゲームにはならないと思います。

さやわか 『パズル&ドラゴンズ』が、老若男女のユーザーを抱えていますからね、その錯覚をしてしまう気持ちもわからなくもないです(笑)。

安藤 『パズル&ドラゴンズ』を作られた山本さんは「世界観がポップだから、子どもも対象と思われがちだけど、課金の仕方などはやはり大人向けに作っている」というようなニュアンスの事を、はじめてお会いしたときに言われていました。なので現在、ニンテンドー3DSでパッケージ販売予定の『パズドラZ』を子どもメインに作られているのはないかと思っています。

さやわか きちんとターゲッティングされているわけですね。結局、クロスオーバーになって間口が全部に広がったからこそ、どこを狙っていくかが重要になるってことなのかもしれませんね。

安藤 はい。濃い世界観が好きだというゲーマーも数は十分にいるので、ちゃんとターゲットを作って、その人たち向けのコンテンツを作っていくのが重要です。たとえば『コール オブ デューティ』シリーズも、数的にはかなりの本数を売り上げていますけれど、内容は全然老若男女向けじゃないじゃないですか?(笑)。

さやわか 『Skyrim』もそうですよね。世界的ヒットになって、スゴイ数字を出したけれど、コアユーザー向けのゲームですものね。

安藤 今、みんながみんな「無料だー、スマホだー」って騒いでいますから、そんな時期にコンソール向けにハードな、コッテコテな濃いゲームを出したら逆に売れそうですよね。ゲームっぽいゲームをやりたいと思っているプレイヤーは思いのほか多いと思います。

さやわか クロスオーバーだからこそ、ユーザー層のニーズを受け取って、その層に適したコンテンツを届けていくというのは大事だと思いますよ。

安藤 僕は、スマートフォン向けのゲームをメインに作っているわけですが、もともとは家庭用ゲームからスタートして、今はこの立ち位置にいる。だからこそゲーム専用ハードでゲームが出にくくなっている状況を見ると理屈抜きで、寂しさを感じます。ゲーム業界全体を見て考えていきたいです。早く、低予算で作れるからと、みんながみんなスマートフォンゲームを作っていたら、つまらなくなります。料理でも、フランス料理からラーメンまで色々食べたいじゃないですか? ゲームもそうだと思います。

さやわか 本当にそうですね。なんでスマートフォンでのゲーム制作が流行ったら、「これからはスマホ一択でしょ!」みたいになるんですかね。それこそ、世界に目を向けるとコンソールで売れているタイトルはたくさんあるのに。

安藤 海外を見ると今年はコンソールゲームの大豊作なんですよね。『The Last of Us』『Watch_Dogs』『バトルフィールド4』『コール オブ デューティ ゴースト』…どれもスゴイ売れるだろうし、圧倒的に面白そうですからね。

さやわか 日本人がそういうゲームをやらないから売れない、だから作らないというのは残念ですよね。でも、そこには結構誤解があると思います。おそらく、FPSやTPS、洋ゲー全般を食わず嫌いしている人たちは、難しそうという印象を持っているのだと思います。確かに、昔の洋ゲーは難しかったですけど、最近のものは結構適当に遊んでいてもクリアーできるようになっていますよね。

安藤 そうなんですよ。プレイ時間で見ても、ストーリーを追うだけなら7~8時間くらいで終わるので、余暇にする事が増えたこの時代にも、ちょうどいいサイズになっている。

さやわか その誤解が生じている部分を越えられれば、みんな遊んでくれると思うのですが。

▲XE-1APを発見して大興奮の安藤氏

 

●なぜ日本のゲーム業界は衰退し、海外が興っているのか

さやわか それに、今はFPSでもストーリー性が豊かになっていますよね? 日本人が好きで、日本人が得意だったはずの、ストーリー性が豊かなゲームを、今は海外メーカーのほうが作っている。逆に日本のメーカーたちは、ストーリー性が排除されたソーシャルゲーム作りに走ってしまっている。ストーリー性のあるゲームを欲しているユーザーさんはたくさんいると思いますし、複雑なゲーム性を持ったゲームを欲している人もたくさんいると思います。昔はそういったゲーム作りが苦手だったはずのアメリカが、今はそういったタイトルをバンバン出して売れているという現実を見たほうがいいですよね。去年、Steam(注1) で流行ったインディゲームの中には、『To the Moon』『Hotline Miami』みたいに、ストーリーがスゴイ豊かなものが多かったですし、絶対みんな面白いと思ってハマれると思うのですが。

安藤 そうですよね。欧米のゲームも物語性が強まってきている印象を受けますね。最近だと『コール オブ デューティ』シリーズのワールド・アット・ウォー →ブラックオプス→ブラックオプスIIの重厚な物語の流れには、心底痺れました。

さやわか 昔は「まぁ、こんなもんか」とか「いかにもアメリカ人が考えるようなゲームだね」と感じることが多かったのですが、今は複雑になってストーリーも豊かになっていますね。

安藤 『HEAVY RAIN』を遊んだときに「これは本来日本人が作るものだろう」と思いました。あれは、アドベンチャーゲームの新解釈じゃないですか。あれをフランス人にやられたのは悔しかったですね。

さやわか たぶん、FPSライクな3Dグラフィックスによるゲームで、物語性が豊かなものを作るという文化が日本には根付かなかったんですよね。僕の本でも、そういった部分を意識しながら書いた部分があります。特に日本では、MOD(注2)遊ぶという文化が根付かなかったという話は重視していますね。ファンがノベルゲームを改造して、同人作品としてリリースしていたという文化はそれなりにあって、それによって一時期はノベルゲームのクリエイターが増えたりもしましたけどね。ただ、そこからノベルゲームが衰退したのと、クリエイターの育成の失敗が重なり、クリエイター自体が減ってしまいましたが。

安藤 ノベルゲームというジャンルが一度衰退してしまいましたからね。でも、一度衰退したからといって、もうそれ以降盛り返すことはないということはないと、僕は思います。時代や環境が変われば再ブレイクもありえますよね。

さやわか 最初の話に戻りますが、僕たちがBASICプログラムをいじっていたように、ゲーム作りに関われたり、ゲーム作りに人が流れるような動きがあったりしたらいいと思うのですが、なかなか難しそうですね。ワンダースワンとかP/ECE(注3)とか、時々そういう動きが生まれかけましたけど、残念ながら大きな盛り上がりにはなりませんでしたね。

安藤 この本にも書かれていますが、Unreal Engine(アンリアルエンジン)を使ったMODの発生とか、その発展の仕方は面白いものがありますね。『Oblivion』のMODを作っていた集団が本家に買収されて、『Skyrim』を作ってしまったとか。海外はベースにある自由度が高いからこそ、そういった文化が生まれ、根付いたのでしょうね。一方で今の日本のゲーム業界は、カードとガチャを使ったゲームばかりが作られています。僕も『サガ』シリーズをテーマにした『エンペラーズ・サガ』というソーシャルゲームを作っていますが、現状だとケータイのブラウザ形式とカードとガチャのゲームシステムでサガを表現するのには、限界があります。当たり前の話ですがUnreal Engineと比べると、技術的な自由度も全然違う。現環境でのベストまで作りこんだ自負はありますが、『サガ』の良さを限界まで引き出すためには、改めて家庭用ゲーム的な自由な発想が必要になってくると思います。

さやわか なるほど。先ほどおっしゃられていた、ユーザーの動向がゲームに変化を与えるという点では、今流行りの『Minecraft』も、すごくハッカー的な思考から生まれた作品ですよね(笑)。日本でも、あのような流れがくればいいんですけどね。

安藤 日本人のクラフトマンシップは、本質と違うところに発揮されますよね。『Forza Motorsports』で痛車を作ってみたりとか。外国人もビックリしていましたよね。「レイヤーを切り貼りして、よくそこまで作ったな」って(笑)。MODにいかず、このようなクラフトマンシップを発揮するというのは文化的なものなのでしょうか?

さやわか MODは、ゲームの中身の揺らいではいけないところまでを揺るがすという一面がありますけれど、日本人はそこを揺るがさずに、物語のレイヤーをいじったり、できる範囲内で何かを作るというのが好きなのでしょう。だから、ノベルゲームのテキストを改造してみたり、『どうぶつの森』で衣装をデザインしてみたりとかに強みを発揮するのだと思います。同人誌などの二次創作文化が流行ったのも、そういった背景があるからではないでしょうか?

安藤 なるほど。ハリウッド映画の『トランスフォーマー』の変形構造を考えているのは日本人スタッフらしいですからね。根本的に違うものを作り出すのではなく、あるものを組み替えて作り直すほうが、日本人にはあっているのかもしれませんね。

さやわか 『初音ミク -Project Diva-』からも、その一面が見られますね。初音ミクの見た目を始めとする、キャラクターの表層部分をいじるのが好きで、そこを若い子たちが遊んでいるわけですよね? あれによって、曲とか絵の発展には通じると思いますが、ゲームの発展にはあまり貢献してこないと思います。次代のゲームのための人材が育っていかない。

(注1)Steam:パソコンゲームのオンライン販売サービス。及び、そこで購入したゲームを一括管理するプラットフォーム。
(注2)MOD:ファンメイドによる、非公式なゲーム拡張プログラム。
(注3)P/ECE:アクアプラスによって発売された、一般ユーザーでもソフト開発が可能な携帯ゲーム機。


●枯れた技術の水平思考を再び

安藤 やっぱり、民族性による得意不得意がゲームにもあるんでしょうか。

さやわか でも、70~90年代は日本ゲームが頑張って世界をリードしていたので、ひとりのゲームファンとして、僕は今の業界にも頑張って欲しいですね。

安藤 横井軍平(注4)さんが仰っていた「枯れた技術の水平思考」のような感じで、諦めずにしつこく続ければ、日本発のものづくりも復活しますよ。

さやわか 今、日本で昔のものをオマージュしたり、再利用したりすると「懐古主義者」とか「劣化リメイク」とか言われてしまいがちですけど、僕はそういうのも面白いと思いますよ。

安藤 そうですね。最近、クリエイターからは「ドットを使った作品が作りたい」という話を良く聞きます。日本人は、俳句のように制限がある中で行間を読ませるのが得意だと思いますから、ドット絵のように脳内補完の余地を持たせた表現が生きるものがあるはずです。

さやわか いいじゃないですか。今までは単純進化で進んできて「次はポリゴンでしょ」「次はもっとテクスチャ貼ってリッチにしよう」となっていましたが、これからもそうである必要は一切ないと思います。今はたくさんの選択肢がある時代ですから、いろいろなものがあっていいと思います。ドットだけでなく、90年代前半のFM音源やローポリゴンを使ったゲームを今作るのも、いいと思いますよ。

安藤 『世界樹の迷宮』は、それをいち早くやった作品ですよね。古代祐三サウンドの音源もそうだし、プレイヤー自身がマッピングをしていくというシステムもそうです。昔の技術やシステムを演出として使えば、きっとショッキングで新しい組み合わせのゲームができそうです。

さやわか ただ、昔の技術やシステムを単純移植するだけでは、何も面白くないと思うので、今の技術も取り入れつつ、しっかりと1から作ったほうが面白くなるかと思います。

安藤 なるほど。『僕たちのゲーム史』に続き、今日の話の中でもたくさんの発見や楽しさが味わえて、非常に楽しかったで。それにしても、プロ向けのめちゃくちゃ濃い内容になりましたね! 未来のスマゲにとってのヒントが沢山出てきたので、こういう回もたまには良いかなと思います。なにより私が一番勉強になりました。本当に今日はありがとうございました!

さやわか いえいえ、作り手でないのにいろいろ口を出してしまいましたが、僕も楽しかったです。僕の周りには、こうやってゲームについて語れる人がいないので、今まさにこの本を書いてよかったと心から思っています(笑)。

(注4)横井軍平:任天堂開発第一部部長として『ゲーム&ウオッチ』『ゲームボーイ』『バーチャルボーイ』などの開発に携わったクリエイター。

 

全3回でお送りした今回の”奇跡の対談”はいかがだったでしょうか? 安藤氏が偶然手にした本から端を発して開催された本対談。今まではゲームクリエイターの方々との対談を通じて業界を切り取ってきましたが、今回は”作家さんが見たゲーム業界”というふだんとは異なる意見が加わったことで、ゲーム業界のまた違った側面を垣間見ることができたと思います。安藤氏同様、さやわか氏の話を通じて“感じるもの”があった、クリエイターの方々や読者の方がいたら、ぜひ『僕たちのゲーム史』を手にとっていただきたい。

次回は再び安藤氏のブログを掲載! 今後も数多くの対談が控えているのでお楽しみに!

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■著者紹介

安藤武博(あんどう たけひろ)
スクウェア・エニックス 特モバイル二部 ジェネラル・マネージャー兼プロデューサー。ゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。

 

 

【まとめ】スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”

 

スマゲ★革命 出張版を掲載!
今回の対談相手は、『ドラコレ』の生みの親である兼吉完聡氏!
ファミ通App NO.007 Androidとファミ通App NO.008 iPhoneにはスマゲ★革命の出張版を掲載! 気になる対談のお相手は『ドラコレ』の生みの親として名高い、コナミデジタルエンタテイメントの兼吉完聡氏。業界の未来を担うふたりが見るスマゲの未来とは? 本記事のテーマにもなっている海外市場に関する話も掲載されているのでお見逃しなく!
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