【OGC 2013】gumi國光氏が語る、日本のモバイルゲームは世界で勝ち切れる!
2013-03-16 10:56 投稿
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●gumi ~新時代のエンターテインメントを実現するために設立~
一般社団法人ブロードバンド推進協議会(BBA)による、ブロードバンドコンテンツの総合カンファレンス“OGC 2013”が東京・ベルサール神田にて開催。ここでは、gumi 代表取締役社長 國光宏尚氏による“大予想!2013年モバイルゲーム業界はこうなる!”と題された講演をお届けしよう。いつも刺激に富んだコメントで聴講者を楽しませてくれる國光氏だけに、本講演も大盛況となった。
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▲gumi 代表取締役社長 國光宏尚氏 |
GREEプラットフォームを中心に、『任侠道』シリーズや『幻獣姫』、『青春姫』など、数々のヒット作を飛ばしているgumi。國光氏はまずは、gumi設立に至るまでのみずからの経歴を説明。海外の高校を卒業し、上海の大学で4年間を過ごした國光氏。卒業後はバックパッカーとして中国、チベット、インド、東南アジア、中南米を2年ほど見聞し、その後は学校や仕事でロサンゼルスに4年間在住したという。
國光氏が日本に戻ってきたのは約10年前。アットムービーという会社でTVや映画のプロデュース業に携わっていたが、保守的な映像業界ゆえに新たな挑戦を認めてもらえずに退職。gumiを設立するに至る。gumiという社名は、もともと同社が展開した携帯のSNSサイトに由来しており、会社の設立当初から、モバイル×ソーシャルを追いかけてきたという。いまとなっては、SNSサイトのオープンプラットフォーム化は自然の流れだが、その当時は極めて稀。SNSサイトのgumiは、mixiの約1年前、グリーの約2年前、Facebookモバイルの約3年前と他社に先駆けてオープンプラットフォーム化を果たすも、あまりにも時期尚早だったために不発に終わったという。
仕方なくみずからコンテンツを作りはじめるも、社員5名ではあまりにもリソース不足。それが、1年後にmixiのオープンプラットフォーム化に併せて、それまで作っていたコンテンツをmixiに提供。これが先行者メリットとなり、大人気を博することに……。以後、GREEなどのオープンプラットフォーム化でトントン拍子に展開。いまは従業員数約600人(東京、福岡、海外子会社)を擁するに至る。その内訳は、東京が約300人、福岡が約70人、海外が約200人とのことだが、設立年数を考慮すると、驚異的な成長というほかない。
▲先見の明がありすぎたのか、設立当初は苦戦したgumi。現在は従業員数約600人と凄まじい成長を見せている。 |
●大予想! 2013年 モバイルゲーム業界はこうなる!
みずからと会社の概要を説明したあとは、いよいよ本題へ。「いまソーシャルゲームというと、事実上モバイルゲームを指します。ネイティブアプリとか、そういう垣根はどんどんなくなってきていますね。Facebook上で出たゲームという感じだったので、“ソーシャルゲーム”という名前がつきましたが、事実上は“ネットワークにつながったモバイルでやるゲーム”という定義のほうが正しいかなと思っています」と國光氏。
2013年は5766億円と予想される日本のソーシャルゲーム市場は、映画(2011年:1800億円)やコンシューマーゲーム(2011年:2700億円)など、ほかのエンターテインメントに比べても屈指の規模に成長。一方で、大きなテーマであった海外展開でも大きな成果を残すことができた。当初は、「日本製のゲームが海外で通用するのか?」が問われていたが、Mobageの『Rage of Bahamut(日本版タイトル:神撃のバハムート)』の大ヒットなどを契機に、「日本のカードバトルゲームも意外に通用する」という見解が、昨年の夏くらいにでてきたという。
だが、昨年の夏以降は、微妙に失速感がでてきたという。「世界戦でいうと、“北米で勝ち切る!”というのがプラットフォーマーの大きな目標でした。実際確かに伸びていますが、2015年に55億ドルまで成長する、というのが最近言われていることです」という。けっきょく、日本の市場規模とたいして変わらないというのだ。むしろ伸びで言うと、北米はかなり遅いという。翻るにアジア。いま、アジアの伸びはすさまじく、とある資料では188億円まで成長する見込みだという。Google Playストアに限れば、日本と韓国で世界市場の半分を占め、もともとオンラインゲームに強い台湾や中国も市場として大きいというから驚きだ。
「欧米の伸びが遅く、アジアの伸びが圧倒的に早い」。これは、ITやサービス業界でよく言われるが、一般的にユーザーの生活行動や習慣を変えるのはメチャクチャ難しいからだ。たとえ使いやすい商品でも、変わった瞬間は使いづらい。「汚い部屋を母親や彼女が片付けてくれても、最初はだいだい居心地がよくないですよね。慣れた行動を変えるのはすごく難しいんです」と、國光氏は独特の比喩を用いて説明する。
ここで國光氏は、Twitter創業者のひとりであるジャック・ドーシー氏の逸話を披露。ドーシー氏はスマートフォンにガジェットをつなぎクレジットカード決済を可能にする新サービス“Square”を作り大成功を収めた。当初はブルートゥースによる非接触型を採用していたが、一般消費者は非接触型になじめず「やったことがないお客さんはたぶん怖い。ピッってやってどれだけとられたかわからないし、行動的にも怖い」(國光氏)ということで、わざわざガジェットを装着する使用形態になったという。
ドーシー氏は、その成功理由を「一般消費者の消費習慣を変えなかったのが大きい」と話していたという。國光氏は、欧米とアジアの伸びの違いにも同じことが言えると指摘し、「その差は消費習慣にあるのではないか。欧米はパッケージや月額定額制が基本。アイテム課金モデルに欧米の一般ユーザーは慣れていないから、なかなか馴染めない。日本のユーザーはフィーチャーフォンでアイテム課金に慣れているから、スマートフォンが立ち上がっても一気に来た。韓国、中国、台湾も慣れているから、同じようなビジネスモデルで成功する」と分析する。
これに基づき、國光氏は「F2P(フリー・トゥ・プレイ)型はアジアが先進している。モバイルゲーム市場は、アジアを制したところが世界を制するのではないか。実際これは、すでにオンラインゲームの分野では起こっていて、こちらもアジア市場が圧倒的に大きい。日本、韓国、台湾、中国を制したところが世界ナンバーワンになるのではないか」と言う。
▲一般消費者の習慣が大きな要因と分析する國光氏。「アジアという大市場を制したところが世界ナンバーワンになるのではないか」とコメント。 |
●新興産業の成長カーブ ~導入期、成長期、成熟期~
ここで國光氏は、gumiならではの戦略を説明する。提示されたのは「いろいろな産業で使えるので、覚えておいたほうがいいかなと思います」という成長カーブ。新しく立ち上がってくる産業は、導入期、成長期、成熟期……衰退期と成長カーブを描いていく。導入期から成長期に入るキッカケは、画期的なサービスやプロダクトの登場。國光氏は、Facebook上のソーシャルゲーム、日本のWEBソーシャルゲームとネイティブアプリのソーシャルゲームで、それぞれ実例を提示。だいたい2年半で勝負がつくという。
この過程で重要になるのが、導入期と成長期の境。それぞれ“ステージにあった別々の戦略が必要”だという。「市場が立ち上がったばかりの導入期は激しい競争もなく、そこそこよくできていれば、だいたい流行る。成長期に入ると競争が激しくなり、ある程度しっかりしたローカライズやカルチャライズをしないと戦えない」と説明した。例として出されたのがmixiで大ヒットした『サンシャイン牧場』。
『サンシャイン牧場』は中国のRekooが開発した農園系アプリ。「デザイン、翻訳のどちらもかなり変でしたが、それでも日本で大流行しました」と國光氏。理由はわりと明確で、中国のオープンプラットフォーム化が日本より半年早かったから。いわゆる先行者の利益だ。gumiも早い段階から参入していたが、gumiが漢字クイズや検定アプリを展開していたときに、『サンシャイン牧場』など、それらしいゲームが出てきて、市場で圧勝したというのだ。「ただ僕らもバカじゃないので、彼らのよいところ悪いところを徹底的に研究し、日本人にあったコンテンツを追求しました。その結果、中国だけでなく米Zyngaなどの海外の会社も日本市場から一掃されたんです。これが成長期ですね」と当時の状況を解説する。
成長期の戦略として、「ローカライズとカルチャライズは必要か?」とよく聞かれるという國光氏だが、それは「したほうがいいに決まっている。ただ、経済的合理性から考えて、しなくても勝てるところある、というのが正解かなと感じている」と國光氏。成長期において、レベルの高い“地元企業が出てくる国”では、海外メーカーはローカライズやカルチャライズをしないと勝てないが、そんな地元のライバルが存在しない国では、ローカライズはしなくても勝てると断言。つまり、“よければ流行る”というものではなくて、「お客様の可処分所得の奪い合いです。どれだけおもしろいTV番組を作っても、たとえば裏にジブリ映画がきたら負ける。ライバル関係は重要で、地元に強い会社が出てくる国では、(ローカライズやカルチャライズを)やらないと勝てないんです」というのだ。
では、そうした地元企業が出る国とはどこか。「ある程度の経済規模、起業家やVC(ベンチャーキャピタル)のコミュニティー、エコシステムがしっかりしていないとベンチャーは出てこない。これはいつも同じで、日本、韓国、中国、ロシア、欧州、アメリカ。この6ヵ国はローカルチームを作るのが絶対的に必要。それ以外の経済が大きそうな国、たとえばブラジル、インド、トルコあたりからベンチャーは出てきていない。起業家のエコシステムは一朝一夕ではできないです。(逆に前述の)6ヵ国では、ローカライズに強い会社が絶対に出てくる」と具体例をあげて説明した。
gumiが海外に子会社を設立しているのは、こうした理由に基づいた戦略の一環だ。当然簡単にはいかず、「1本目ができるまで、ある程度人を送ってから福岡で8ヵ月、海外は10ヵ月かかっています。それだけチームワークは大変なんです。うちはようやく今月、来月と海外チームの制作コンテンツがリリースできる体制になりました」という。
成熟期には“二極化”が進むという國光氏。何百億も制作費をかけたハリウッド映画やコンシューマーゲームは「ローカライズやカルチャライズは基本的にいらない。その時点でコンテンツのクオリティーが圧倒的に違う。ただ、そういうコンテンツだけが流行るかといえばそうではなく、その国でしか流行らないコンテンツも存在する」といい、いくつかのお国柄コンテンツを実例にあげた。
これはモバイルゲーム市場も例外ではなく、成熟期に入るときは「グローバルでメガヒットを作れる体制、ローカルのニッチなコンテンツを作れる体制」を作る必要があるという。なぜ膨大な予算でグローバルなコンテンツを作れるのか。導入期や成長期における制作費は勢いで決まるところもあるが、成熟期は“将来の収益見込みの逆算”になるからだという。
日本では、国をあげてコンテンツを“クールジャパン”として世界に売り込もうとしているが、「あれは100%コケます」とバッサリ。「官僚はコンテンツをまったくわかっていない。というのも、アメリカと日本では考えがまったく違う。日本は“いいものを作ったら売れる”と勘違いしているか、希望的観測を持っている。アメリカは、作る前から“売れる体制”を作っている。ハリウッドはそれが顕著」だというのだ。ハリウッドの映画会社の強さは、「全世界同時公開が実行できること」だと國光氏は言うが、これがけっこうたいへんなことなのだという。たとえば、日本で同時公開しようと思っても、各地域の劇場ごとにオーナーが違うし、“ここからここまで(スケジュールを)同じように空けてくれ”という交渉は凄まじく難しかったと、國光氏は映画産業に関わっていた当時の経験を披露。これが世界中同時となると、その難しさたるや倍増で、「世界中まったく習慣が違うところをスケジュールを空けて、なおかつ宣伝する体制を作り、タイアップなどをまとめてやり切る」力技たるや想像を絶するものがある。「彼らはやる前から回収するモデルを作っている。日本のコンテンツ業界は、作ってから売りに行く。これでは、入り口からしてまったくもって勝負にならない」と國光氏はきびしく指摘する。
続けて國光氏は、「今後、モバイルゲーム業界でもまったく同じことが起こるだろう。必要なのは、作ってから売るのではなく、作る前から全世界で売れる体制をしっかり築いておくこと」という。具体的には、成長期の各エリアでユーザーベースを各国ごとに確立し、そこでマーケティング、PR、タイアップをしっかりできる体制を作る。ここでコンテンツを出せば全世界にネットワークを使って売れる体制を築けるかどうかが勝負。それを築けたところが、制作費の見込みがあがり大作が作れるようになる……と筋道立てて語る。「けっきょく、コンテンツは金があればいいものができるわけではないが、金があるに越したことはありません。仕組みがあるところに人、モノ、技術が集まってくるんです」と結論づけた。
▲導入期と成長期の境に、それぞれの局面に適した戦略を容易する必要があると國光氏は説明。クールジャパンに関してはシビアな意見が述べられた。 |
●クリエイターのグローバル化 ~二極化の時代を勝ち抜くには?~
ここから講演は、グローバル時代のクリエイターにテーマがシフト。國光氏は「ハリウッドの映画監督や有名なプロデューサーの収入は、1本あたり10億、20億、30億。家庭用ゲームでもそういう感じです。翻るに日本はほとんどサラリーマンの延長線上。ただ、完全にグローバル化された時代は来るし、実際に優秀なタレントには引抜きがきている」というのだ。「日本で1000万、2000万払っていて、海外から1億円のオファーがきたら断れるか?」と、國光氏は語りかける。けっきょく、この戦いについていけないと、日本のタレント(才能)が草刈場になり、彼ら(海外)の仕組みに飲み込まれるというのだ。その現象はすでに野球やサッカーでは起こっていて、「いい選手はどんどん海外に行き、日本は彼らより下のレイヤーで勝負するしかなくなる。そういう意味では、日本から海外展開というのは、けっこう重要な勝負かなと思っています」とコメントした。
制作が二極化するなかで会社として重要なことは、“トップラインを上げる”ことと“ボトムラインを下げる”こと。“トップラインを上げる”というのは、出すプラットフォームを増やすという意味。これはワールドワイドに販売地域を増やすことも含まれており、特定地域に依存するのではなく“広く浅く”でトータルの売り上げを補う戦略を指す。一方の、“ボトムラインを下げる”は、コストの最適化を指す。全工程を日本で行なうのではなく、高く支払うところには支払い、安く抑えられるところは徹底する。
ここで國光氏は、日本の賃金を100とした場合の人件費の比較を提示。國光氏は「アウトプットされるプロダクトに、そこまで差があるのか」を考えるべきだという。「コアになるアイデアや技術について、日本はレベルが高い。ただ、細かいところを作っていくとなると、同じことをできる人は海外にたくさんいる」というのだ。たとえば、いまイラスト制作のコストが凄まじく上がっているが、いい絵になると20万~30万はざら。それがいまgumiでは、「いま、うちの発注イラストの8~9割がたは海外製」だという。gumiにしてからが、ここまでアウトプットが進んでいるというのは、少々ショッキングだ。
gumiの戦略をもとにした“濃い”講演。國光氏はまとめとして“グローバル時代のキャリア戦略”に言及する。「Webはある程度“踊り場感”は出ているが、スマートフォンやタブレット、モバイルオンラインゲーム市場は日本やアジアはまだまだ伸びます。競合企業で言うと、アメリカはSupercellが1位だが75人くらいの体制で、 Zyngaさんもまだまだ苦しんでいます。ほかにたいした会社はなくて、中国、韓国もとりたてて大きい会社はありません。このポジションで日本はかなりいいところにいるのではないか」と現状を分析する。
「成長期にしっかりとしたチーム/開発体制を作れるか」、「成熟期に入って大作を作れるか」……世界中で売れる仕組みと生産体制を最適化していく過程で、こういう会社が増えてくると「日本のクリエイターにとってラッキーなシチュエーションになってくるのではないか」と國光氏。クリエイティビティーの高い人は世界中でそんなにおらず、コンセプトやUI、ストーリー、世界観など、トップクラスのコンセプトを考えられる人は近い将来(2、3年以内)には引く手あまたとなり「給料ベースは確実に1億を超えるだろう」と予測する。ただし、それには英語力が前提となるようだが……。
日本勢は、かなり有利な位置にいるという國光氏は、「今回の今回だけは、真剣に勝ち切れるのではないかと思います。うちもがんばっています!」と熱く講演を締めくくった。 (取材・文/豊臣孝和)
▲日本を100とした人件費の比較では、これまで控えめだったスマートフォンやカメラのシャッター音が会場内に鳴り響く。 |
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