スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命 シーズン2”第一回 「さようなら、ソーシャルゲーム。」

2013-03-06 17:00 投稿

●第一回 「さようなら、ソーシャルゲーム。」


みなさん、しばらくの御無沙汰でございました。
ヘビーメタルサンダー!(お久しぶりです!)安藤武博です。

シーズン1の最終回からの3ヵ月間だけでも、いろいろなことがあったスマゲ業界。例えば『パズドラ』はこの間に累計登録者が400万人から900万人(!)に増えています。のんびりしている場合ではないですね。早速、本題に入りましょう。

シーズン1では、スマートフォン向けのゲーム創りのおもしろさをお伝えするのが目的でした。また、ゲーム全体の中でもスマゲがかなりの存在感になるので、それを実際に自分でも作品をリリースしながら、現場レポートすることにチャレンジしました。

連載開始の2011年秋頃は、ケータイのゲーム自体まだ「もしもし」とバカにされていましたし(いまでもまだあるかな)、『パズドラ』も『ミリオンアーサー』もリリース前でした。あれから1年足らずしか経過していませんが、2013年初春の現状を鑑みるに、ほとんど上記の目的は達成されたように思います。あの頃に比べれば、みんな普通に創って、遊んでいますよね。

シーズン2は、完全にゲームのプラットフォームになったスマートフォン、そしてそこで展開されるスマゲが、どうなっていくのか? 引き続き現場から作品をリリースしながらレポートしていきます。また私が個人的に考えている、スマゲは「どうあるべきか?」も問いかけて行きたいと思います。これはまだ見ぬ未来に向かって各人が意見をぶつけ合いながら、 お客様におもしろいゲームをお届けするにはどうしたらいいのか? を模索するということですからシーズン2は、そのために“対談”を充実させていきます。

まず今年、我々スクウェア・エニックス特モバイル二部がやろうと思っていること。それは表題にもあるように「ソーシャルゲームを無くしてしまうことです」。私は、2010年初頭から開発をスタートさせたFacebook向けアプリ『Knights of the Crystals』を皮切りに、GREEのオープンプラットフォーム化に伴って、前述作品をケータイ向けにアレンジした『ナイツオブクリスタル』のリリース(現在はともにサービス終了)からソーシャルゲームを創っています。ほぼ日本のソシャゲの歴史と同じくらいの期間、当事者として関わりを持っているわけです。でも、これから“そういうの”は終わり。なぜならば、あまりにも似たようなゲームが、相変わらずリリースされ続けているからです。

ここでは、そういうの=『ドラコレ』を源流にしたカード+ガチャガチャの組み合わせによるソシャゲのことを指しています。自戒も込めて書きますと、同じ内容のゲームシステムを、寄ってたかって狭いところで切磋琢磨しまくった結果として、ゲームの“おもしろさ”を 磨くよりも、いかにしてお客様からお金をいただくかといういわば“集金の仕組み”を磨くことに重きがおかれることが、よくありました。マネタイズはこれからのゲームのおもしろさをささえるために大事なことですが、そればっかりだと“そういうの”が、ゲームのおもしろさ自体を愛している人たちから疎まれるのは当然のことですね。いまや“ソーシャルゲーム”という言葉自体が、本来あったソーシャルネットワークサービスの機能を活用して遊ぶゲームという意味合いから、「カードとガチャで搾取する、似たような内容のゲームたち」として捉えられ、忌み嫌われていることに危機感を持っているのです。

ようやくゲームプラットフォームとして市場が成立したのに、ゲームファンから距離が遠ざかっているのはなんとも皮肉なことです。むしろ、この市場でのお客様は従来のゲームファンでは無く“そういうの”を好む新しい人たちだから、このまま発展させていけば良いんだ。という、現在の路線に対する自己肯定すら、日々流れ続ける、同じようなパターンのCMなどを見ていても感じてしまいます。

ですが、断じてそんなことはあり得ません。ゲームのようなエンターテインメントの世界で、同じようなもの“だけ”が、中長期に渡ってお客様に愛さ続けることは、まず無い。飽きられます。これまではブラウザベースの内容でWEBサービスとしての側面だけでもなんとかなったかもしれませんが、アプリがネイティブアプリ(詳細はシーズン1 第七回に記載)のように凝った内容になると、それはもう、どういった形であれ“ゲーム”なのです。WEBサービス事業者も完全に、ゲーム製作者と同じ土俵に上がっているのです。

この2年間の“カード+ガチャ”の遊びはいちジャンルとして、良いものは発展して残す。その一方で、それよりも、新しいおもしろさにたくさん挑戦して行くというのが、今年の我々がやることです。そういった中で創られていくものは、スマートフォンで動くとにかくおもしろい“ゲーム”ということになるでしょう。場合によっては、ソーシャル性が低かったり、あるいは全くないものもあると思います。これからはケータイとゲーム機の垣根も無くなります。その積み重ねが続けば、もはや“ソーシャルゲーム”と言う呼びかたは無くなるだろう。ということなのです。最近の作品で最も優れたソーシャル性を持っているゲームは『とびだせ どうぶつの森』だと思っているのですが、これを“ソシャゲ”と呼ぶ人はいませんよね。ゆえにもう、おもしろければ“ソシャゲ”も“ゲーム”でいいんじゃないかと思いますし、新しく素敵な呼びかたが出来ても良いですね。そのくらい“ソーシャルゲーム”という言葉に悪いイメージが付きすぎてしまいました。

ちょうどゲーム業界は20年以上前に似たようなことを経験しています。当時、“ゲームセンター”という言葉と施設へのイメージが薄暗い不良の溜まり場として社会悪になった時代がありました。風営法の規制が入り24時間営業が禁止になったことも、昨今のソシャゲ業界と消費者庁の問題を想起させます。そんな中、業界が一丸となってオープンなアミューズメント施設を標榜し、『UFOキャッチャー』のようなマニア以外でも楽しめるものや『ハングオン』のような家庭では楽しめない大型マシンによる遊園地的な新しい遊び、ゲーマーもそうでない一般プレイヤーも大熱狂した『ストリートファイターII』などの登場で危機を乗り越え、さらに『甲虫王者ムシキング』以降、現在のキッズ系ゲームの全盛を迎えています。もはや、ゲーセン改めアーケードないしはアミューズメント施設に、当時のような悪い印象はありません。(※このあたりの昔話は、最近刊行された、さやわか著『僕たちのゲーム史』 (星海社新書)に詳しく載っていますので興味のある方は是非ご一読されることをお勧めします。ゲーム史だけでなく、ゲーム全体を取り扱った書籍の中でも屈指の名著だと思います)

さて閑話休題。ですので、我々とともにスマゲを良質なエンターテイメントとして盛り上げるためにも、是非“そういうの”を創ってこられた新興SAPの皆さんにも新しいチャレンジをして欲しいと思っています。もう真似はやめましょう。新しいものの創作は失敗もすれば時間もかかりますし、いろいろリスキーですが資金力がある今こそがチャレンジのしどきだと思います。この2年間でゲーム創りのおもしろさに目覚めた、才能ある若者の挑戦に期待しています!

また、今回の“あたらしいおもしろさに挑戦していく”というお話は従来の ゲームクリエイターの方にとっては、当たり前のことだと思います。2013年というのは、実は国内メーカーからコンシューマーゲームの大作や有名作が続々リリースされる年です。作品を作り終えた有力クリエイターが次回作のプラットフォームの“ひとつ”としてスマゲを選び始めています。私もそういった筋金入りの名クリエイターの方とスマゲについてお話する機会が増えてきました(たまたま私がこの分野で先行していたので状況を良く聞かれます)ので、スマートフォンでほんとうの“ゲーム”が百花繚乱する時代がいよいよ来ますね。

さようなら、ソーシャルゲーム。
シーズン2は、そんな革命闘争の物語になります。

次回は、スマゲ業界の重要人物のひとりとみっちり話し込んだ“濃ゆーい対談”を数回に渡ってお届けする予定です。今シーズンもよろしくお願いいたします! それでは。

つづく

 

安藤武博
スクウェア・エニックス 特モバイル二部 ジェネラル・マネージャー兼プロデューサー。ゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。
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≪シーズン1≫

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