【海外メーカーインタビュー第2回】『インフィニティ・ブレード』誕生秘話、そして『ギアーズ』はiPhoneに来るのか!?

2012-10-20 00:00 投稿

●モバイルゲームとしてのAAAタイトルとは?

AAA(トリプルエー)タイトルを輩出するEpic Gamesのアンリアルエンジンを使って、Chair Entertainmentが開発したiOS向けアクションゲーム『インフィニティ・ブレード』。スマホゲーマーの度肝を抜いたこのタイトルは、いかにして生まれたのか、そしてモバイルゲームとしてのAAAタイトルとは何なのか? 両社のキーマンふたりを取材した。

※【遅くなってごめんなさい】ファミ通Appのアプリがやっとできました
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Epic Games
CEO
Tim Sweeney 氏
Chair Entertainment
アニメーター
Scott Stoddard 氏

●『インフィニティ・ブレード』の始まり

――『インフィニティ・ブレード』誕生の経緯について教えてください。

ティム iPhone 3GSが発売されたときに、やっとiPhoneデバイスでAAAレベルのグラフィックが表現できるようになりました。そこで、デモアプリとして『Epic Citadel』を作って公開したんですが、マスコミやユーザーからのリアクションがとてもよく、AAAのゲームをモバイルでも作れるのではないかと考えました。当時、Chiarでは、『Shadow Complex 2』を開発中だったんですが、『Shadow Complex』の1作目がXBLA(Xbox Live Arcadeの略)で高いランキングになっていたし、評価も高かったんですけど、収支的にはとんとんといった状況だったので、ある日のビデオ会議でChiarのスタッフに、「悪いけど『Shadow Complex 2』は中止して、iPhone向けにアンリアルのゲームを作ってほしい」という話をしたんです。最初はChiarのスタッフもびっくりしていたんですけど、1週間後にはブレストして、すばらしい企画を持ってきてくれた。それが『インフィニティ・ブレード』(以下、『IB1』)の始まりです。

▲『Epic Citadel』は中世風の町を散策するデモアプリ。いまプレイしてもそのグラフィックに驚く。

――その話を聞いたときはどうだったんですか?

スコット コンソールの仕事しかしていなったので最初は驚きましたよ。『Shadow Complex』の1作目をプレイして、すごくすばらしいゲームだと感じ、『Shadow Complex』に携わりたいと思ってChiarに転職してきたので、やっと『Shadow Complex 2』に関われることになって喜んでいたら、突然キャンセルになって(笑)。ただ、やはり『Epic Citadel』の実物を見て、iPhoneはおもしろいデバイスだし、十分クールなゲームを作れるだろうということが確信できました。実際にプロトタイプを作り始めて、タッチスクリーンで作るゲームの可能性に気づいたので、作り始めたあとは非常に楽しんでやれましたね。

――怒涛の展開だったんですね(笑)。『IB1』でいちばんこだわったポイントはどこだったんでしょうか?

スコット 最初にEpic GamesからiPhone向けにゲームを作ってほしいというミッションがあったときに、Epic側から求められていたのは、アンリアルを使ってモバイルデバイスでもAAAクラスのグラフィックを実現することでした。開発を始めた時点で、iPhone 3GSというかなりパワーのある端末はあったんですが、まだ開発スタジオで真剣にiPhoneに投資をしていたところはほとんどなかったので、当時ではいちばん予算がかかったアプリだったと思います。『IB1』は結果的に200万ドル(1億6千万円)以上かかりました。もちろん、いまのコンソールと比べると、すごく小さなバジェットなんですが、当時のスマートフォン向けゲームにかけた予算として抜きにでていたんじゃないかと思います。

▲強大な力を秘めた“インフィニティブレード”という剣を携えた、世界の支配者“ゴッド・キング”に立ち向かう『Infinity Blade』。

――いま聞いても驚きの金額ですが、iPhone 3GS当時にそれだけ投資していたとは。開発費はどれくらいで回収できたんでしょうか?

スコット たぶん、リリースして最初の1週間くらいで100万ドルは超えていたので、すごく早かったと思います。いままでの『IB1』のトータルの実績で見ると、開発者ひとり当たりの利益がEpic Gamesの中でいちばん高いタイトルです。

■モバイルゲームだからこそのこだわり

――『IB』の開発で影響を受けたゲームはありますか?

スコット タッチポイントのナビゲーションシステムという意味で言うと、『ソード&ポーカー』がすごく参考になりました。戦闘システムに関してなら、『パンチアウト』や『ストリートファイター』、『カラテカ』が参考になりましたね。全体の雰囲気とかアートスタイルという意味だと、『ワンダと巨像』や『ICO』から影響を受けていると思います。

――意外なタイトルも(笑)。操作にビジュアルパッドを使わなかった理由は何だったんでしょうか?

スコット モバイル向けにゲームを作ると決まって最初に行ったのが、チーム全員でそれまでに出ていたモバイルのゲームをできるだけ遊んでみるということでした。そのときに感じたのは、バーチャルスティックはイケてない。これだと『IB1』を十分に楽しめないという結論に達したので、それだったら指1本でスワイプするような形にするのが向いているんじゃないかと思いました。もうひとつあったのが、『IB1』のそもそものコンセプトとして、すごく美しい、コンソールレベルのグラフィックを実現したいというのがあったので、バーチャルスティックで両親指を画面にもってきてしまうと、せっかくの綺麗な画面が見えなくなってしまう。1本指でスワイプするだけで、なるべく画面を自分の指で隠さないようなゲームデザインを実現したかったので、ああいった操作系になりました。

▲『インフィニティ・ブレード』シリーズでは、ドッジ、ガード、パリィのいずれかで敵の攻撃をいなし、フリックで敵を叩き切る。画面は、『インフィニティ・ブレード2』。

――ゲームバランスの調整はどうやって行っていたんでしょうか?

スコット 『IB1』の開発段階では、当然、まだ何のデータもなかったので、内部でプレイテストをして調整しながら進めていったんですが、1回リリースしたあとは、ユーザーがどういう遊びかたをしているのかという統計データが取れるので、それを見ながらアップデートで調整をかけていきました。いい例があるんですが、『IB1』を作っていたときに、制作チーム側で考えていたこのゲームのいちばんウリは、“パリィ”という受け流しだったんです。あれが気持ちいいから、いちばんのウリになるだろうと思っていたんですが、実際にリリースしたあと統計を取ってみたら、みんなブロックするか、ドッジするかで、だれもパリィを使っていない(笑)。初期のパリィは難しすぎて、誰も使っていなかったんです。それからバランスを調整して、パリィをもっと簡単にできるように調整したら、つぎの統計データではパリィがすごく使われるようになっていたので、開発側としてはお客さんのニーズに応えて、それが結果として現れたのですごくうれしかったですね。

スコット もう少しゲームデザイン的な部分について話をすると、敵と戦うときのあり方として、勝つか、圧勝するかという形になるように調整しています。負けた画面を出さずに、勝って、もう一戦、もう一戦と続けてプレイしてほしいので、勝つか、もっとよく勝つかというバランスを心がけました。

――なるほど。連勝させることでゲームへの没入感を高めていくわけですね。

スコット 勝つか、もっとよく勝つかというバランスにすることで、勝ったけど、もっとうまく勝つには、どうしたらいいかというのめり込み方ができるようになりますよね。

――『IB1』は世界中で配信されている思うんですが、国で難易度を変更したりするのでしょうか?

スコット 地域ごとに変えるとういうことはしていないので、難易度は世界共通ですが、システム側でプレイの進行状況に応じてバランスが変わる仕様にしています。例えば、プレイヤーのレベルであったり、決闘が何回目か、ブラッドラインが何回目かというところでボスの強さが変わったり、進行状況に応じて敵の強さを変えることで、カジュアルユーザーでも楽しめるし、ハードコアなゲーマーにもチャレンジングなものを提供できるようになっています。

■AAAタイトルの意味

――AAAタイトルの条件とは何だとお考えでしょうか?

スコット グラフィックも重要ですが、ゲームプレイが圧倒的に優れていないとなりません。我々が気をつけているのは、先ほども言ったように、タッチスクリーン専用のゲームデザインを心がけたというところです。その意味でコンソールのAAAとモバイルのAAAは別なものだと思います。むしろ我々としては、モバイル向けのAAAとはこうあるべきだという定義を、我々自身で作るつもりで制作しました。

――『IB1』は、日本のApp Storeのランキングでも上位を獲得していましたが、日本市場については、どう考えているのでしょうか?

ティム 『IB1』の販売価格は600円ぐらいだったと思いますが、我々にとってアンリアルを使ったハイエンドなゲームを売り切りで出して、しっかりと儲かるだということを示せたことは、価値のあることでした。フリーミアムモデルというのは、マイクロトランザクション(個別課金)が基本になってくるので、ソーシャル要素のあるゲームと非常に相性がよく、ほとんどがそういう形になっていると思います。そのいっぽうでシングルプレイヤーで、マイクロトランザクションを必要としない、ひとりで楽しめるゲームも成立しうるんだというのを示せたのは、我々にとって非常に大きなことでした。

――売り切り型でも勝負できるというわけですね。Epic GamesとChair Entertainmentの考え方としては、アプリを連発するよりも、しっかり1本を作り込んで出していくという方向性なのでしょうか?

ティム はい。その通りです。Chairだけじゃなく、エピック全体のフィロソフィーとして、1本をしっかり作って最高のものを出すというのが我々の考え方です。一部のパブリッシャーは、モバイルマーケットを宝くじのように、いっぱい出してどれか当たるだろうと捉えているところもあるかもしれないですが、我々のやり方は真逆です。予算も大きいですし、しっかり作り込んで最高のものを出していくというのが、モバイル、コンソールを問わず、Epicグループのやり方なんです。

スコット いままでのマスコミやファンからの信頼が非常に重要だと考えています。いままで積み重ねてきた『Shadow Complex』であったり、『ギアーズ』であったり、『IB』であったり、マスコミやファンも、EpicやChairが作るものはいいのものに違いない、ベストなものに違いないという信頼を築いてこれていると思っているので、今後もそれを維持していく、それに応えていくのが重要だと考えています。

■次回作『インフィニティ・ブレード:ダンジョンズ』について

――2作目の『インフィニティ・ブレード2』(以下、『IB2』)のコンセプトはなんだったんですか?

スコット 『IB2』にとりかかるときのコンセプトとして、ボリュームは2倍にするけれど開発期間は同じ、というのを設けました。1作目を仕上げたことでチームとしての自信はつきましたし、これくらいはできるという目処はついていましたし、チーム自身のモチベーションを維持するためにも、あえてハードルを高くして、すべてが前作を超えているというのが最低条件。結果として、ユーザーやマスコミにも評価されましたし、ビジネス的にも成功しました。

――『インフィニティ・ブレード:ダンジョンズ』(以下、『IBD』)は、どういった経緯で開発が始まったんですか?

ティム 『IBD』の開発には、非常にユニークな流れがあります。じつは去年、Epicの本社で、『ギアーズ オブ ウォー 3』の開発が終わったあとに、ゲームジャムをやりました。通常のチームをいったんバラバラにして数人ごとのグループに分け、1週間でプロトタイプを作るというイベントをやったんですが、その中で上がった企画のコンセプトのひとつに、『ディアブロ』のゲームプレイに『Fruit Ninja』の要素を加えるというアイデアがあったんです。それが非常にポテンシャルが高いということで、ゲームジャムのプロトタイプから制作を続けることになったんですが、ユーザーへのフックになる部分として、『IB』のIPを乗せるのがいいんじゃないかというアイデアが出てきて、作りつつあったプロトタイプを『インフィニティ・ブレイド』のユニバースの中にいれていこう、ということになったんです。

――ゲーム内容的には『ディアブロ』っぽくなるのでしょうか?

ティム 『ディアブロ』は見下ろし型の画面で、アイテム収集がゲームプレイのコア部分になると思いますが、『IBD』の作り自体は、『ディアブロ』とはまた違いますね。

▲シリーズ最新作『インフィニティ・ブレード:ダンジョンズ』。これまでのシリーズとはゲーム性が大きくことなるようだ。

――操作系についてはこれまでの『IB』とは違うのでしょうか?

ティム 移動のコントロールに関しては、基本的に移動したい先をタップするという形です。ジョイスティックは、『Epic Citadel』で試したんですけれども、社内の誰もがアレがいいとは思わなかったので、タッチパネルの操作方法としてはよくないものだと思っています。なので、今回も行き先をタッチするシステムにして、カジュアルプレイヤーも簡単に遊べるし、ハードコアなゲーマーも楽しめるものが作れると思います。

――装備に経験値が入る仕組みは継承するんですか?

ティム 『IBD』では入れていません。『IBD』は、Chiarではなく、インポッシブルスタジオという開発スタジオが作っているんですが、刀を鍛える、鍛造するというシステムが入っています。刀を水につけて、溶鉱炉にくべ、真っ赤になっている刀身をゴシゴシとスワイプして、あとはリズムゲームみたいにタイミングよくハンマーで叩くといい武器ができる、みたいなシステムです。

――『IBD』で目指しているものを教えてください。

ティム 当然ですれども、ゲームが違えば、目標も変わってきます。『IB1』の場合は、モバイルでAAAのゲームが実現できることを証明するというのがゴールだったんですが、それはすでに達成されたと思ってます。『IBD』とか、今後我々がモバイル向けに作るゲームは、圧倒的に優れているものを作ることが目標になります。例えば、『ギアーズ』の1作目を出したときは、当時次世代機だったXbox 360で、これだけのビジュアルクオリティーを実現できるんだ、ということを証明するというのが目標だったんですが、もうそれは実現できているので、『2』と『3』に関しては、とにかくすごいゲームを作るという流れでやってきました。モバイルゲームでも、同じアプローチだと思っています。

■ハイエンドゲームを開発するのは正しい方向性

――世界のマーケットで勝つためには何が重要になるのでしょうか?

ティム やはり、グローバルなマーケットでモノを売っていくことを考えると、新しいお客さんやカジュアルプレイヤーにアピールするというのが、非常に重要だと思います。世界中には何億台もの端末が出ていますが、その中でハードコアなゲーマーが占める割合というのはすごく小さいものです。とくにワールドワイドで何百万本も売ろうと思うのであれば、大衆、一般層へのアピールというはすごく大切になってくると思います。

ティム モバイルマーケットを見渡すと、カジュアルなゲームというのは何万本も溢れているので、これ以上は必要ないと思います。その中に埋もれてしまうと目立たないので、ハイクオリティーだったり、ハイエンドな方向に行くというのは正しい方向だと思いますし、アンリアルを使って大型のハイエンドなモバイルゲームを作るというのは正しい方向だと思います。

スコット 『IB』に関して言うと、すばらしいグラフィックとすばらしいゲームプレイという柱があります。このふたつというのは、iPhoneをもっているユーザーが友だちに見せびらかしたいという欲求を促進するものだと思っています。スマートフォンマーケットというのは、これまでのコンソールビジネスのような従来型の広告というのはほとんど効果がなく、大事なのはソーシャル的な部分で、友だちに見せたいからクールなものを最初に見つけたい、という欲求を満たしてあげるというのが大事だと思っています。その意味では、『IB』というのは、人に見せたくなるゲームとしてうまくできていると思いますし、ティムも言っていたように、小さなカジュアルなゲームを人に見せびらかしたいとは思わないと思うので、その辺は大事だと思います。

■やっぱり気になること

――『ギアーズ』シリーズがiPhoneで出る可能性は?

ティム 実際にそういうアイデアは我々も時々考えるんですけれど、まだ現実化はしてないです。『ギアーズ』のウリというのは、シネマティックも含めて、ものすごく没入感のあるなかで、本物の戦場に立っているかのような感覚で何時間も続けられるというのがウリだと思うので、モバイルでプレイすることを考えると、それはいちばん相性の悪いものになるのではないかと思ってます。

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