「VR版『乖離性ミリオンアーサー』は酔い対策に重点を置いた」スクエニによるVR知見共有【CEDEC 2016】

2016-08-27 11:55 投稿

スクエニもVRに参入中!

今年のCEDECは、当然だが昨年以上にVR熱が盛り上がった。その熱の一端を担ったのが、これからリポートをまとめる“VRカードゲーム開発事例 『乖離性ミリオンアーサー』VRデモ”というセッションだ。

講演を行ってくれたのは、スクウェア・エニックスの第10ビジネス・ディビジョンでプロデューサーを務める、加島直弥氏。

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内容は、タイトル通り『乖離性ミリオンアーサー』のVR版開発から得られた知見のまとめである。では、どのようなことが発表されたのだろうか、さっそく紹介していこう。

商用ではなくファンサービス

まず加島氏はVR版『乖離性ミリオンアーサー』を制作した意図を説明。

「VR版は、ファンサービスの一環として制作しました。ファンの方に『乖離性ミリオンアーサー』をもっと好きになってもらえたらなぁと」(加島氏)と、どうやら商用に作ったものではなく、実験目的として作ったもののようだ。

ところが、その熱量がユーザーに伝わったのか、イベントでプレイした人たちは、ただただ興奮して「スゴイスゴイ!」としか言えなくなるほど喜んでくれたという。

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ポジティブな意見が集まったのとは裏腹に、やはり企画を通すのはかなり難しかったと加島氏。この企画の難しさは、認知度やHMDの装着から想像される鬱陶しさ、収益性の有無などの課題が、どれもまだクリアーできていないからこそ生まれるのだと加島氏は分析している。

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加島氏がVR版『乖離性ミリオンアーサー』をプロモーション用にと定めたのは、この課題のうち、認知度と収益性の問題をクリアーするためだったと想像するのは比較的容易だろう。

事実、加島氏は企画書ベースで話をしてもVRの魅力はわかってもらえなかったと振り返る。

「あまりにもわかってもらえないので、自費で開発環境を整えてデモを作って上司に体験してもらいました。そうしたら、「すごい! これは来る!」と面白いように手のひらを返してくれた」(加島氏)

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やはりVR開発者の多くが語るとおり「VRはやってもらわないとわからない、わからせるにはやってもらうのがいちばん」という言葉の通りなのだということが、また新たに証明される形となったようだ。

やはりネックはVR酔い

VRソフトの開発において、必ず話題に挙がるボトルネック。それがVR酔い問題だ。氏もこの問題にぶち当たり、いくつかの対策法を見つけたという。

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この点に関して加島氏は「私自身がそもそもVR酔いをしやすい人間なので、本当に注意して作りました(笑)」と語る

語られたVR酔いへの対策法は、以下の3点。
・視点を移動させない(立ち位置を同じにする)
・視点ができるだけ正面に固定されるような演出にする
・HUD(ヘッドアップディスプレイ)を視界前面に固定しない

視点を移動させないという対策法は、ほかでも語られている通り。VR世界では移動しているのに、自分が移動していないという違和感が酔いにつながるからだ。

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視点を正面に固定されるような演出という対策は、文字通りの手法。人はVR世界に入ると、ついつい「すごいなぁ!」と周りを見渡してしまうもの。この周囲を見渡すという動作が頻繁に起こるような演出は、酔いを加速させるという。

最後のHUDを貼り付かせないというのも文字通りの内容だ。HUDとは、視覚情報にインターフェイスを付加させるような表現手法。FPSなどの一人称視点のゲームで、視界に表示されるHPゲージや残弾数などがそれに近いものである。

これをつねに視界(画面)の同じところに置きっ放しにすると、なぜか酔いが発生。これを緩和するために、VR版『乖離性ミリオンアーサー』は、HUDの視界追従性能をわざと遅らせるような作りにしているという。

酔い対策を徹底しつつも、加島氏はVR版開発に関してこう振り返っている。

「そもそも『乖離性ミリオンアーサー』にはカメラ移動もないし、システムもカードゲームというシンプルなもの。それに画面にカードが浮いているというHUDはアニメなどで見慣れているので、VRとは相性がいいんです。そのお陰で、体験した人のほとんどは酔いを感じていなかったようです」

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実在感を増すための手法

続いての話題は、こちらもVR系カンファレンスでは毎度話題の中心となる実在感(プレゼンス)について。

VR版『乖離性ミリオンアーサー』は、実在感を高めるために、プレイヤーの腕をVR世界に表示させるといった定番手法のほか、立体音響を忠実に設定したり、VR世界内にいるキャラクター自体の実在感を高めたりと工夫したという。

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ゲームである限り、効果音やBGMは必要不可欠なもの。VRでは、プレイヤーが現実世界とは別の世界に入り込むため、効果音は通常のステレオでは物足りなさにつながるという。

『乖離性ミリオンアーサー』では、これを払拭するために、モンスターの足音はちゃんとモンスターの足から、咆吼はモンスターの口から発せされるように立体音響で忠実に設定したという。

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キャラクター自体の実在感を高めるというのは、要するにプレイヤーとキャラクターとの間でコミュニケーションを取らせるということ。バトルが終わったらハイタッチをしてみたり、味方をサポートしたら味方から感謝を述べられたりといった具合だ。

すごくシンプルな発想だが、これがあるのとないのとでは体験にかなりの差が生まれるのだそうだ。

モバイルから移植するなら注意!

その後、話題はモバイル版から移植するにあたっての工夫に。

VR版『乖離性ミリオンアーサー』では、じつはモデルなどはほとんどモバイル版のデータを流用して使っているという。

モバイル版から作り直した部分と言えば、コミュニケーションツールとなり、目線が送られがちな手のモデリングと、ステージのモデルだという。

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通常、スマホゲームのバトルステージの背景は、1枚絵か複数レイヤーの重ね合わせで描かれる。

しかし、このとき描かれるのは2Dとしてだ。3Dとして描かれるものではないので、遠くにあるものを小さく描くだけで遠近感を演出できるのだが、VRではそうはいかない。

スマホ版と同じ要領で、遠くにあるものをただ小さく表現するだけでは「なんかあそこに小さいものがある」程度の認識にしかならない。

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VR世界でしっかりと距離感を演出するには、オブジェクト自体を実際に遠くに配置しなくてはならないのである。「VRで大事なのは縮尺」という話もよく耳にするが、それはこういったことなのだろう。

そうして、講演の最後に加島氏は以下のようにコメントをし、内容をまとめてくれた。

「まず、VRを普及させるには“VRとして品質が高い”コンテンツを作り、VRへのネガティブイメージを付けないようにすること。あと、イベントなどを行って体験の機会を増やしてあげることが重要です」

ちなみに、VRとしての品質の高さというのは、グラフィックのよさという尺度ではなく、酔いにくく、プレゼンスもよく、疲れにくいものという意味だという。

また「これらの点を制限と思うのではなく、遊びに活かす形でコンテンツ作りに反映させていきましょう!」とも語っており、VR先駆者としての知見共有を終わらせた。

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こうしてCEDECでVRのセッションを聞いていると、各社ともに着々と知見を蓄積してきていることを感じる。もしかしたら、来年にはこれらの知見を活かしたコンテンツが、いろいろ登場するのかも!?

そういう期待を込めて、今後の動向を見守っていきたい。

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