菊田裕樹氏や下村陽子氏もゲスト出演! イトケン『聖剣伝説』LIVEリポート
2016-02-01 18:42 投稿
トークパートの詳細な内容も掲載
2016年1月30日、中野サンプラザホールにて、2016年2月4日にリメイク版が発売となる『聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-』をメインテーマとする伊藤賢治氏によるコンサート、“SQUARE ENIX Presents 聖剣伝説 LIVE ~Echoes of Mana~Produced by Kenji Ito”が開催された。
本記事ではイベント全体の模様をお届けしつつも、とくに熱いトークがくり広げられたトークパートについては、より詳細なカタチでお届けする。
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ゲーム映像とともに展開するコンサート
コンサートは初代『聖剣伝説』のメインテーマでもある『Rising Sun』とともに始まり、フィールド曲や戦闘曲など、ゲームのストーリー進行に沿うかたちで進行した。
コンサートではインストゥルメンタル曲だけではなく、藤本記子さんや岸川恭子さんによるヴォーカル曲も披露された。
また、楽曲の合間合間には、今回のコンサートで演奏された楽曲の作曲、編曲を行った伊藤賢治氏や、豪華ゲストによるトークも行われたぞ。
初代『聖剣伝説』はソロデビューを果たした作品なので、とくに思い入れが強いと語る伊藤氏。演奏はもちろんのこと、気さくなトークでも会場を沸かせた。
【演奏楽曲リスト】
01.Rising Sun
02Requiem~果てしなき戦場
03.村~王宮のテーマ
04.マナの使命
05哀しみのなかで~想いは調べにのせて
06.聖剣を求めて
07.戦闘1 w.成田
08.マナの神殿
09.戦闘2-勇気と誇りを胸に-
10.最後の決戦
11.伝説よ永遠に
~以下、アンコール~
12.マナの嬰児
13.汝、彼の使いの恐怖を知るや
14.愚者の舞
15.終わりなき愛
16.Rising Sun(ピアノソロ)
『聖剣伝説』シリーズ作曲陣が集合
コンサートの前半では、『聖剣伝説2』の楽曲を手がけた菊田裕樹氏、『聖剣伝説 LEGEND OF MANA』(以下、『聖剣伝説LOM』)の作曲を担当した下村陽子氏の2名が登場。
「人生でこの舞台に立つときが来るとは思わなかった」(菊田氏)、「たしか初めてゲーム音楽でステージに立ったのがここ(中野サンプラザ)なんですよ」(下村氏)と、ともにステージに立てた喜びを口にしながら、伊藤氏とのトークに花を咲かせた。
伊藤氏も『聖剣伝説2』の作曲がしたかった
3人が揃うと、まずは伊藤氏がじつは『聖剣伝説2』の作曲も担当したかったという意外なエピソードが飛び出した。
伊藤氏(以下、伊藤) 菊田さんがスクウェア(現 スクウェア・エニックス)に入社する少し前、じつは植松さん(※1)から、『ロマンシング サ・ガ』(以下、『サガ』)と『聖剣伝説2』、のどちらを担当したいか聞かれていたんですよ。
(※1)『ファイナルファンタジー』シリーズでおなじみの作曲家・植松伸夫氏。
伊藤 それで僕は初代でデビューしたものですから、『聖剣伝説2』をやりたいと答えたんですよ。植松さんも「分かった」と言ったのですが、次の日には「やっぱ『サガ』やってみろ」と(笑)。
菊田氏(以下、菊田) 何がどうしてそうなったんでしょうね(笑)。
伊藤 「僕の意見は……?」となったのですが、「お前はまだ甘いところがあるから、河津さん(※2)にもまれて来い」と言われました(笑)。そこから僕の『サガ』人生が、菊田さんの『聖剣伝説』人生がスタートしたんですよね。
(※2)『サガ』シリーズや『FF』シリーズにディレクターやエグゼクティブプロデューサーとして参加している河津秋敏氏。
作曲を担うというプレッシャー
『聖剣伝説2』の意外な話の後には、3人が『聖剣伝説』シリーズに関わったころを振り返り、当時の心境を語った。
伊藤 僕は当時22歳ぐらいで、製作チームも10人もいませんでした。しかも初めてひとりで音楽を担当したのがそのときだったので、プレッシャーもありましたけど、その分思い入れはありますね。
菊田 実際、「何かやろう」という気持ちよりも心配や不安のほうが大きかったですね。僕も当時20代でしたし、僕が入ったころのスクウェア(現 スクウェア・エニックス)って、どんな会社かぜんぜん分からなかったんですよ。
伊藤 確かに、若々しい会社でしたね。枠みたいなものがなくて、自由というか。
菊田 会社らしいところがぜんぜんなかったですね。
下村氏(以下、下村) さっきのイトケンさんの話と被るんですけど、ちょうど他のプロジェクトでアメリカに出向していたときに、石井さん(※3)だと思うんですけど、メールがきたんですよ。
(※3)初代『聖剣伝説』ディレクターの石井浩一氏。本コンサートのトークにも登場。
下村 「新作の作曲を誰に任せたらいいか」というような話をメールでやりとりしていまして。私はてっきり、そのとき日本にいる誰かに頼むのだと思っていたんですよ。でも2日後ぐらいにメールが来て、「『聖剣伝説』、君がやることになったから」って(笑)。
一同 (笑)
下村 私は以前カプコンに勤めていたんですけど、当時のカプコンではRPGを作る予定がなく、アーケードを担当していたんです。でも、「どうしてもコンシューマーでファンタジーRPGをやりたい」っていう思いがあって、スクウェアに転職したんです。
下村 そこで『聖剣伝説LOM』に関わらせていただくことになって。やっぱり先輩がたがすばらしい楽曲を作っていたので、プレッシャーがすごかったですね。
伊藤 なんとなく覚えているんだけど、『聖剣伝説LOM』のときに下村さんが石井さんとかから「プロレスを知れ」みたいな話をされていましたよね(笑)。
下村 そうなんです。会社に来たら“蝶野のテーマ”とか“プロレス入場テーマ全集”とか、あとはヘヴィーメタルのCDなんかが詰んであって、「黙ってこれを聞け」みたいな。
一同 (笑)
伊藤 やっぱりそれは戦闘系の曲の参考にと?
下村 そうですね。ふだんのフィールドや通常の戦闘はファンタジーに、ボス曲はそういう(プロレスなどの)感じにしてほしいというリクエストでした。
下村 当時は理解に苦しんだんですが、ボス曲がいいと言ってくださる方もいて。いま思えば頑張ってよかったかなと。
いつかは3人でのコンサートも?
トークがひと段落すると、いつか伊藤氏、菊田氏、下村氏、の3人でコンサートを開けたら、というファンにとって夢のような会話も交わされた。
伊藤 せっかく3人揃ったしね、今後タイミングがあったら3人でコンサートなんてのも面白いね。
菊田 できるといいですよね。
下村 そうですね、この3人でコンサートというと、本当に昔からの戦友というか。また集まれるとうれしいですね。
伊藤 ピックアップするとしたら、それぞれどの曲を、とかはありますか?
菊田 まずはやっぱり『天使の怖れ』とかは出ると思いますね。あとケチャ(※4)はできないと思うんで(笑)。
(※4)インドネシア、バリ島の伝統的な男声合唱。ここでは『聖剣伝説2』の人気曲のひとつ、『呪術師』のこと。
伊藤 できないできない(笑)。下村さんは?
下村 なんでしょうかね……、ありがたいお声をいただくのは『ホームタウン ドミナ』とか、『滅びし煌めきの都市』とか。
菊田 あれいい曲だよね。
下村 ありがとうございます。すごく、本当に、泣けるとか言ってもらえて。あの曲は私の手元から離れて、たくさんの人に聞いていただけていて、本当にうれしいです。
伊藤 じゃあ後は、我々がスクウェア・エニックス(以下、スクエニ)に申請して、やらせてください、みたいな。
菊田 頑張りましょうか。
伊藤 じゃあ最後にファンの方に向けてメッセージをいただけたら。なんか俺レポーターみたいだな(笑)。
一同 (笑)
菊田 25年っていうけど、それはただ時間が流れただけじゃなくて。僕らはそれだけ、25年のあいだいろんなことやって、力をつけて、センスを磨いて、やってきたわけですよ。だから、これからもどんどんいろんなものを作れると思うんですよ。その姿を見ていただきたいっていうのと、そしてできた曲を聞いていただきたいっていうのと。そのふたつです。
下村 私も、芸暦何年になるんだって思いながら、いまも新しいタイトルとかを担当させていただいて。そして、こういう懐かしい人たちと懐かしい曲を出す場に呼んでいただくこともある。本当にすばらしい作曲人生だと思います。これからも頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。
時代を越える感動を
コンサートの後半では、初代『聖剣伝説』のディレクション、キャラクターデザインを行った石井浩一氏、そして2016年2月4日に発売を控えたリメイク版のプロデューサーである小山田将氏が登場。
▲初代『聖剣伝説』ディレクターにして、『FF』シリーズの“チョコボ”や『聖剣伝説』シリーズの“ラビ”などの人気キャラクターの生みの親でもある石井氏。
▲初代『聖剣伝説』への強い愛からスクエニに入社。念願かなってリメイク版のプロデューサーとなった小山田氏。
懐かしの再会
石井氏と小山田氏が登場すると、まずは伊藤氏と石井氏が初代『聖剣伝説』開発当時を振り返った。
伊藤 ごぶさたですね。本日は来ていただいてありがとうございます。いやー、25周年、なんかずっしりきますね、25年というと。
石井氏(以下、石) そうだよね。自分の長男がね、『聖剣伝説』作ってから1年後に生まれて、今度の4月で24歳になるから、感慨深いものがあるよね。
伊藤 ありますよね。あのときはこうだったなあ、とか当時を思い出したりすることはありましたか?
石井 イトケンと挨拶したときに、あのころのことがふとよぎったね。いまだから言えるけど、当時はそのままスクウェアにいるのか、って考えてたときだったから。
伊藤 はい。
石井 坂口さんに「1本作ってみるか」って言われて、そのとき悔いがないように、作りたかったアクションRPG、『ゼルダの伝説』みたいなものを作ろうって。
(※5)言わずと知れた任天堂の人気ソフト『ゼルダの伝説』のこと。
石井 で、そのときに”悲しいお話”をやりたいなってなってて。そういう気持ちで作ろうとしたときに、俺と渋谷さん(※6)以外は初めての人間ばっかりで。当時だとデータを任せて、頑張ってくれた北ちゃん(※7)とかもいたね。
(※6)『FF』シリーズなどでグラフィックデザインを手掛けてきた渋谷員子氏のこと。初代『聖剣伝説』にもグラフィックやイラストなどで参加。
(※7)初代『聖剣伝説』でゲームデザインやシナリオを担当した北瀬佳範氏。『FF5』以降の『FF』シリーズの開発にも携わる。
伊藤 北瀬さん、今でこそ『FF』のプロデューサーですよ。
石井 当時は新人だったからね。これだけの人数で作れるのかって思ってたよ。あのときはね、方眼紙にマップ描いたりとか、何でもかんでも自分でやったりしてたね。
伊藤 何もかも方眼紙でしたもんね
石井 懐かしいね。あのときはイトケンにも、何回かボツ出させてもらっちゃったけど。でもやっぱり、自分の求めてた切ない曲をイトケンが書いてくれたときに、言葉じゃなく、「これだな」って思えたのが一番懐かしい思い出かな。そのときイトケンが「よし」って顔したのとかね(笑)。
伊藤 ドヤ顔ですね(笑)。
石井 そういうのをね、イトケンに今日会って思い出したよ。
当時の石井氏、伊藤氏の写真も
小山田氏は伊藤氏と挨拶を交わすと、会社からもってきたという、初代『聖剣伝説』開発当時の石井氏、伊藤氏の写真をスクリーンに映し出した。
伊藤 これ攻略本のやつだね!うわー懐かしい、パーマかかってるよ。石井さん怖っ!(笑)
一同 (笑)
石井 ガラ悪いね(笑)。
伊藤 しかも石井さん27歳でしょ。
石井 絶対部下に持ちたくないタイプだね(笑)。タバコすって写真撮ってるしね、嫌なやつだなあ。
一同 (笑)
伊藤 でも25年前、変わらないといえば変わらないですよね。
石井 イトケンは変わんないかもねえ。
小山田氏(以下、小山田) 当時石井さんが27歳、イトケンさんが23歳で初代を作られていたというのは、いま自分が32歳でこれを担当させていただいているところで、けっこう驚異的でしたね。
石井 俺も年齢見てさ、2倍すると54歳でしょ。俺今度52歳になるからさ、ちょっとぞっとするよね。
伊藤 ここ(写真のひと言コメント)には書かれていないですけど、確か石井さんのところには、「この後何十年たっても、この物語は心のどこかに残っているはずです」って書かれていたんですよ。
石井 そうなんだ(笑)。
一同 (笑)
伊藤 そうだったんですよ。
小山田 なので、それを引き継いで、いま25年を経てリメイクさせていただきました。
一同 (笑)
伊藤 そういう意味では、シンクロする部分とか、新しい要素とか、小山田君の作るものではここが違うぞ、っていう部分はありますか?
小山田 そうですね、もともとガラケーにカラーで移植させていただいた際に、石井さんにお話を聞きながら作らせていただいて。
石井 そうだね。
小山田 「当時こういうことがやりたかったんだけど」という、ゲームにデータはあったんだけども世に出ていないものとか、いくつかあったので。そういったものを取り入れながら、リメイクに携わらせていただいたという感じではあります。
伊藤 なるほど。
小山田 なので当時の石井さんの想いというのを、最新作のほうにも反映できればという思いでリメイクをさせていただきました。
石井 楽しみにしています。
伊藤 そういう意味では、リメイクなんだけど昔遊んだ人も楽しめるよ、と。
小山田 ちょっとニヤっとする要素もあるんじゃないかなと。
伊藤 (リメイク版の映像を見て)確かになんか懐かしかった。踏襲してるじゃないですか、当時の世界観を。
小山田 はい。
伊藤 あのときのモンスターが同じ動きをしている、みたいな。当時のユーザーにもそうだし、いまのユーザーにも通用するであろう部分も含めて期待したいですね。
小山田 その辺も期待していただければ光栄です。
愛したゲームをもう一度世に出したい
トーク中には、スクエニ入社後に小山田氏が石井氏に『聖剣伝説』の感想文を書いた手紙を出し、そのおかげで小山田氏がリメイクを行うこととなったエピソードも披露された。
伊藤 石井さんから見て、リメイクって話を聞いたときって、何度か(テストバージョンなど)確認はされているかもしれませんけど、どのような気持ちでしたか?
石井 小山田君と最初会ったときは、本当にこいつ『聖剣伝説』が好きなんだなあって。手紙送ってきたんだよね、俺にね。
小山田 そうですね、いま『FFXV』を作っている田畑さん(※8)が当時の上司で、「『聖剣伝説』作りたいんだったら、石井さんに感想文出さなきゃだめだよ」って。
(※8)『FFXV』ディレクターの田畑 端氏。過去には『モンスターファーム2』の開発にも関わった。
伊藤 感想文?(笑)
小山田 そう言われたこともあって、前作をプレイした感想文を添えて、石井さんに提出したという感じですね。
石井 あれってそういうことだったんだ。
伊藤 手紙のタイトルは……?
小山田 いやもう普通に、「『聖剣伝説』を俺にやらせてくれ」ということで送りました。
伊藤 “僕のかんがえる最強の『聖剣伝説』”、みたいな?
一同 (笑)
小山田 そこまで中二な感じでは(笑)。
石井 あのときも忠実に再現したいってはっきり言ってたよね。
小山田 そうですね、はい。『新約聖剣伝説』(※9)っていうひとつの答えがありつつも、やっぱ時間が経ってゲームボーイの白黒のものをいまやりたい、という話を延々とさせていただいた覚えはいまでもあります。
(※9)2003年にゲームボーイアドバンス向けに発売されたソフト。初代のリメイクで、ヒロインを主人公としてプレイできるなどの追加やシナリオ変更が加わっていた。
石井 忠実に再現したいっていうのが印象的だったよね。そのとき組んだチームスタッフと、いまみたいにスタッフが変わったチームが作るものだとゲームも変わる。当然変わるべきだと思うし、『新約』もそういう風にして変わったタイトルではある。
小山田 そうですね。
石井 小山田君が「そのまま再現したい」って言ってくれたときに、ファンの気持ちとかを強く感じて、じゃあぜひ作ってください、とお願いしたという流れです。
伊藤 いやあなんていうだろう、一子相伝? みたいな感じがひしひしと伝わりますね。
石井 ありがたかったよね。自分が作ったものをこれだけ愛してくれて、その愛ゆえにスクエニに入って、それを作らせてくれっていう。
伊藤 すごいですよね。
石井 その気持ちがすごくありがたいし、うれしい。それは作ってもらわないわけにはいかないだろうと。そういう気持ちを持った人が作ったものを感じてみたいというか、そういう思いができたのは『聖剣伝説』のおかげだなって、感じましたね。
ゲームを作っててよかった
トークの最後には、石井氏の『聖剣』に対する思い、ゲームに対する思いが語られた。ゲームを愛する人であれば、石井氏の言葉には強く共感できるだろう。
伊藤 『ゼルダの伝説』を含めて、先代の名作、すばらしいアクションRPGがあって、その影響を受けて『聖剣』を作っているわけじゃないですか。でもオリジナリティがあるんですよね。
石井 ええ。
伊藤 それはどう、ここを『聖剣伝説』らしくしようというか、たとえばシステムだったりストーリーだったり、音楽的なものも含めて、当時の石井さんの考えというのはいかがでしたか?
石井 過去のインタビューで答えたかもしれないけど、自分は『ゼルダの伝説』も好きだったし、ほかに好きな人も社内にいて。でも、この遊びの楽しさを最後まで味わってほしいのに、難しすぎて最後までいけなかったっていう話もあって。当時は難しくてクリアーできない、というのも珍しくなかったですからね。だから難しいだけでこの面白さが広まらないのはもったいないなと。
『FF』とかのノウハウを使って惹きつけるシナリオを練って、レベルを上げて敵を倒せるようにすれば、アクションが苦手なにも最後まで遊んでもらえるものを作れるかなって。
伊藤 なるほど。とくにこだわった点などはありましたか?
石井 『聖剣伝説』で絶対外したくなかったのは、やっぱ相手に対する思いやり。自分よがりでなく、人の思いっていうのが、直接的な言葉じゃなくて後になって「あ、こういうことか」と理解できるとか。
そういう経験をするうちに、自分は何をすべきなのか、相手のために何ができるのか、相手の意思を尊重するなら、自分はどういう風に別れるべきなのか。そういうのが考えられるようになったっていう、”成長”を届けたいと考えていましたね。
伊藤 それをセリフではなくゲーム全体を通して伝えたいと。
石井 遊びを通して、その流れで、こういう経験をしたから、自分はこういうことを言えるようになっているはず、っていう成長をね。シナリオで作ると押し付けにはなるんだけど、そのときユーザーの気持ちが同調してくれるものを作りたい。小山田君は当時幼かったと思うんだけど。
小山田 はい。
石井 好きな人と出会って、別れて。人はひとりで生まれてひとりで死んでいく、だから人との出会いや別れを大事にできると思うんです。自分にとって大事な人との出会いっていうのは、振り返ってみても、本当に大事な記憶として残るじゃないですか。
伊藤 ええ、そうですね。
石井 いままで出会った人に対して、「自分はこの人にこうしてもらいたい」じゃなくて、自分が大切に思う人だったら、「自分はその人のために何ができるんだろう」とか。そういう部分って大事だよな、っていう。
ゲームってね、小学生とかも遊ぶんで、そのときは分かんないかもしれない。でもそれが、たとえば恋愛を経験したりして、つらい経験もするだろうけど、中学、高校とかでね。
それが自分の糧になるっていうのを感じさせたい。ゲームでそれを感じさせて、共感できるものが出せればなっていうのは狙っていましたね
伊藤 あの小さいゲーム機のなかで、そういう物語が進められて、当時こどもだった人が子供ながらに感動してくれて。それがずっと消えることなく、25年経ってもこうやって受け継がれているっていうのは、幸せですよね。
石井 ありがたいですよね。そういう風な自分の狙い自体も、もしかしたら自分よがりなんじゃないかって、作りながら思っていたこともあるけど。
小山田君に言ってもらったこととか、アクションゲームとかゲームを遊んでない人に『聖剣』をやってもらったら、EDまでいったときに泣いていただいたこととかね。
伊藤 はい。
石井 そういうことで自分が作っていたものが間違ってなかったんだな、って感じさせてもらえる。ゲーム作ってて良かったと思ったし、今日もね、自分が作ったものが皆に愛されてね、ここまで皆の記憶にも残ってて。
伊藤 いいですよね。
石井 自分はスクエニを辞めたけど、いまこうやって呼んでもらって、『聖剣伝説』の話ができるし、久々にイトケンとかとも会えて懐かしがれるっていうのはすごいありがたい。それで自分がつくったものに感謝できる自分というのがうれしい。ゲーム作ってきてよかったな、と思うもののひとつですね。
インタビュー
コンサート終演後、伊藤氏、小山田氏の2名にインタビューを行い、コンサートの感想や2月4日にリリースされるリメイク版について尋ねることができた。
なお、インタビュー中には初代『聖剣』のストーリーに関するネタバレが含まれるので、未プレイの人はリメイク版が発売して、本編プレイ後に読むことをおすすめする。
――コンサートを終えた感想は?
伊藤 『サガ』とは違ったので、『聖剣伝説』という違うタイトルの意味合いも含めて、1曲目から、じわーっとする、暖かいオーラみたいなものを感じて。こっちが引き込まれそうな感じでしたね、お客さんのほうに。
――ファンに思わず引き寄せられてしまうと。
伊藤 ある意味それはいけないことで、こっちがちゃんとリードしなきゃいけないな、と踏ん張りながらやったところがありました。
――それだけ曲が育っているとも言えるでしょうか。
伊藤 かもしれないですね。
小山田 自分はもう本当に、ファンの目線で見させていただいて、本来はダメなんですけども(笑)。
一同 (笑)
小山田 当時25年前にプレイした感じも思い出しながら、ウルっとくるものがあったなと。『サガ』の熱狂ぶりとはまた違う感動でしたね。
伊藤 そうですね、『サガ』とは違いましたね。
小山田 『聖剣伝説』のほうがしんみりしている感じがあって、そういうテンションがいいですね。これはこれでゆっくり聞きたいなあっていう、いいライブだったと思います。
伊藤 菊田さんや下村さんの音楽世界も違うので、もし3人でのコンサートなんかを展開できるのであれば、それはそれで楽しみですね。
小山田 そうですね、ぜひとも3人のご共演を実現できないかなと。
伊藤 あんなに拍手が上がるとはね(笑)。
――『サガ』や『聖剣伝説 RISE of MANA』などの曲を混ぜたコンサートの予定も?
小山田 『サガ』との混合ライブですか。いいですね。
伊藤 どうなんですかね、自分ひとりだけでは決められないので。いろんなタイミングと、スクエニ側の思惑も含めて(笑)。
小山田 そうですね(笑)。
伊藤 自分のタイミングともすり合わせながら、「ここだ!」というときがあればね。もう少し時間はかかると思いますけど。
小山田 スクウェア・エニックスの作品だけじゃなくて、イトケンさん楽曲のお祭りみたいなのも面白いですね。
伊藤 おー(笑)。
小山田 その際はぜひ見させてください(笑)。
伊藤 盛り上げたいですね、そのときは。
――ステージでも語っていましたが、『聖剣伝説』に携わっていた当時の心境というのは?
伊藤 当時は自分も20代前半で、ひとりで任されたというのもあって、しかも音楽は植松さんしかいなかったので。自分なりのものすごい責任感みたいなもの、足を引っ張っちゃいけない、みたいなものも含めて、すごいあがいていたときだったんですね。
――やはりプレッシャーが。
伊藤 ええ、その上で自分らしさも出そうと。かなりもがいたんだけれども、自分の好きなようにやらせてもらったというのが『聖剣伝説』の曲ですね。
――ある種がむしゃらな感じですね。
伊藤 だからいまでも、曲をほとんど暗譜で弾けるぐらいまで昇華しているというのがあるので、そういった意味では、『サガ』とは違った思い入れのあるタイトルですね。
――初代『聖剣伝説』での石井さんからのオファーはどういったものでしたか?
伊藤 僕的にはシンプルに、「このタイトル空いたし、植松さん忙しいからイトケンがやるよ」っていう風な考えだと思ってたんですけど、さっき聞いたらちょっと違ったみたいで。
――というと?
伊藤 結局は植松さんが「イトケンのことを見てやってくれないか」みたいな風に石井さんと話をしていたという、じつはさっき初めて知ったんですけど。へえそうだったんだ、みたいな(笑)。
――コンサートの曲順はゲームの進行を追うかたちでしたが。
伊藤 曲順にはこだわりましたね。初代が当時インパクトのあるストーリー性を持ったゲーム、というところで、子供のころの感動がいまでも残っているという話をネットでもいまでも見るので。
――小さいころに遊んだ人はとくにそうでしょうね。
伊藤 だったら曲の順番を変えるよりは、OPからEDまで通してやろう、というのは最初から決めていました。
――25年のときを経て、自分が作曲した曲をライブ用にアレンジしましたが、25年前の自分の曲を振り返ってみた感想は?
伊藤 シンプルだなって。小細工も使わず、当時の自分の技を出し尽くしたな、みたいな。その分、やりやすい部分もあったんですけれども。
――やはり若さのようなものを感じましたか。
いまならこんなドシンプルな曲は書けないな、という思いもあるんですけどね。そういう意味で、25年たったんだなあ、と感じますね。
――曲はシーンに合わせて作ってほしい、とオーダーが石井さんからあった?
伊藤 シナリオがあって、そのシナリオを僕が読んで当てはめたというものですね。
小山田 下村さんみたいにプロレスのCDが、とかは……?
伊藤 さすがにそれはなかったですね(笑)。
――中野サンプラザは愛してやまない会場のひとつとのことですが、その会場で演奏して、率直な感想は?
伊藤 うれしかったですね。あとは音がやっぱりよかったですね。山下達郎さんなどいろんなアーティストの方がおっしゃっていますが。
――音のよさはどのあたりで感じましたか?
伊藤 機会があれば実感したいなと思っていましたが、まさにステージ上からの音の返りとか、拍手の返りとかを含めて、よかったですね。こういう音を達郎さんなり佐野元春さんなりが聞いていたんだなあって、じーんとしましたね。
――リメイク版の開発や作曲をされて、1番印象に残っている曲は?
伊藤 僕はもう『Rising Sun』ですね。ピアノでもさっき弾きましたけど。
――メインテーマというだけあって思い入れも深いですか。
伊藤 この曲、最初はただのタイトル曲だったんですね。ストーリーを進めていくうえで、ヒロインは大きい意思のもとに世界を守る樹となって、女神となってヒーロー(主人公)と別れなければいけない、と。そういうところの曲を描かなきゃいけないことになって。
――本編でももっとも重要な別れのシーンですね。
伊藤 そこで新曲を、と言われたのですが、僕のほうからOPだった『Rising Sun』をここで流したいと。なんで、と聞かれてこれをひとつのメインテーマにしたいと言ったんですね。
――たんにOPで流すだけでなく、主題曲に据えたいと。
伊藤 シンプルな曲だけど、“悲しいシーンだから悲しい曲”というのではなくて、優しい曲ということで次につながるものを目指したいということを言ったんです。
――その提案が反対されたりということは?
伊藤 冗談半分に「新曲書きたくないだけじゃないの?」なんていわれたりしたんですけど(笑)。でも当時北瀬さんだったかな、お話をして、「いいよ、イトケンの頼みのひとつぐらい聞いてあげるよ」みたいノリで。
――『Rising Sun』がメインテーマとなったのですね。
伊藤 で、当時バグ出しなどのモニタリングで10人ぐらいだったかな、モニタリングしてくれたんですけど。まさにED前のそのシーンで皆「うわ~」って感動してくれて。
――イトケンさんの狙い通りですね。
伊藤 この曲があってこその、っていう存在感を持たせてくれたので、やっぱり『Rising Sun』は外せないですね。
――小山田さんはいかがでしょうか?
小山田 自分も1曲選ぶとしたら『Rising Sun』なんですけども、イトケンさんの語られた思いを越えるのはちょっと無理なので(笑)。
――では『Rising Sun』以外で選ぶならば?
小山田 それで言えば、今回『聖剣を求めて』のアレンジがぐっときましたね。チョコボが自分の身を傷つけながら主人公を助けて、機械の身になって、それでも新しい冒険に出て行くという、場面転換のシーンの曲なんですね。
――印象に残る場面のひとつですね。
小山田 そこは印象を強く残したいなというのがあって、今回のリメイクでもこだわってイベントを作りこみました。そういう意味では『聖剣を求めて』が印象に残っていますね。
伊藤 あと今回のアレンジって、すべてコンサート用にリアレンジしたものなんですね。リメイク版のゲーム内で流れるのとはまた違ったアレンジなんです。
――では今日しか聞くことのできないアレンジだったと。
伊藤 ええ、全部自分がやったので、今日来た人しか聞けなかった音楽だと思うんです。ここは今回のポイントだと思いますね。
――そしてついにリメイク版のリリースですね。読者も期待していると思いますが、とくに注目してほしい点などは?
小山田 ゲームのほうでは、ライブでも話したのですが、当時容量の問題で消化し切れなかった部分を、今回われわれのほうでできる限り再現させていただきました。
――忠実に再現しつつも、できなかったことを実現したと。
小山田 当時のイメージをそこなわないようにしつつ、当時できなかった、石井さんたちの掘り下げたかった部分までキチンと表現できていると思うので、過去にプレイした方にも遊んでいただけたらなと思います。
伊藤 僕はこういう仕事をしながらゲームをほとんどしない戯けた人間なんですけれども(笑)。今回はちょっとやってみようかなと。
――当時を思い出しながらプレイですね。
伊藤 謎解きなどもすべて踏襲しているという話なので、自分でもできるかな、と。また新たな気持ちで楽しみたいと思います。
小山田 マトッククリアー(※10)もできますよ(笑)。
(※10)コンサート中、キーボード奏者の上倉紀行氏が、初代をプレイした際、岩を砕く“モーニングスター”を発見できず、とあるボスを消費アイテムである“マトック”だけで倒したというエピソードを披露していた。
伊藤 そうですね(笑)。
――本日はありがとうございました。
本コンサートにて配信日が2016年2月4日と発表されたリメイク版初代『聖剣伝説』。リファインされたグラフィックもさることながら、新たにアレンジされたBGMにも注目だ。
なお、リメイク版のサウンドトラックは2016年3月30日に発売が予定されている。
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聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-
- ジャンル
- アクションRPG
- メーカー
- スクウェア・エニックス
- 配信日
- 配信中
- 価格
- 1400円[税込]
- 対応機種
- PlayStation Vita、iPhone、Android
- コピーライト
- (C)SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
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