開発者向け講演会で安藤武博氏が“喋る! スマゲ★革命”をライブ講演!

2013-07-30 17:42 投稿

“スマゲ★革命”がリアルタイムで聞ける!

7月25日、品川の日本マイクロソフトにて、ゲーム開発者向けに“未来のソーシャルゲームはこうつくる! クラウドを活用したスマートで迅速なゲーム開発!”と題する講演会が開催された。主催した株式会社FIXERは、2010に正式サービスを開始したクラウドプラットフォーム、『Windows Azure(ウインドウズ アジュール)』を今年の日本ゲーム市場で重要視しており、その一環としてこの講演会が催される運びとなった。すでに開発環境に『Windows Azure』を導入しているスクウェア・エニックスから安藤武博氏、『Windows Azure』のサポートサービスを提供する株式会社FIXERから松岡清一氏を講師に招き、時流に合ったクラウド基盤でのゲーム開発について熱弁をふるってもらった。本記事では、業界人必見の安藤氏による講演を中心にお届けする。

最初に登壇したのは、ファミ通Appでおなじみのスクウェア・エニックス安藤武博氏。安藤氏と言えば『ケイオスリングス』シリーズや『拡散性ミリオンアーサー』のプロデューサーとして知られているが
、歯に衣を着せぬ物言いで注目を浴びるソーシャルゲーム業界の風雲児でもある。そんな氏が送る今回の講演テーマは、“喋る! スマゲ★革命”と題して、ファミ通Appの人気コーナー“スマゲ★革命”では語りきれなかった、スマートフォンゲーム(以下、スマゲ)のこれまでとこれからについて、メディアには掲載しづらい攻撃的な話を交えて持論を展開するというもの。この日集まった約60名のクリエイターや報道陣を前に、果たしてどんな話が飛び出すのか?

 

▲ゲスト講師として招かれた安藤氏。翌日から上海でチャイナジョイ2013が開催されるため、現地入りしているクリエイターも多かったが、この講演のためにあえて残ったとか?

 

まずは、講演会を主催する株式会社FIXERが推進する『Windows Azure』について、使用した感想を交えていいところをチェック。さらに、「ほめるだけではフェアではない」と、『Windows Azure』の悪いところや改善してほしいところもしっかりピックアップした。

▲安藤氏ご自身を含むゲームプロデューサーたちによる、『Windows Azure』の使用感。スクウェア・エニックスではすでに1年以上の採用実績があり、実感がこもっている。

 

ここまでを説明し終わると、「呼ばれた義理は果たさせていただいたので、本題に参ります(笑)」と安藤氏。“喋る! スマゲ☆革命”の本編(?)が開始となった。軽い自己紹介、および“スマゲ★革命”の概要を説明した後、安藤氏が最初に話題にしたのはスマゲの現況と未来について。現在ではネイティブアプリが台頭しているように見えるが、氏の分析によると、ブラウザからネイティブに政権交代したわけではなく、ブラウザもまだまだ存在感がある。中でも氏がイチオシとして挙げたのは、グラニの『神獄のヴァルハラゲート』。時代はネイティブだと言われながらも、「旧来のブラウザゲームが稼ぎ頭になっているケースも多く、どちらも併走するように続いていく」というのが安藤氏の意見だ。

 

▲安藤氏は、ネイティブとブラウザの違いを油絵と水彩絵に例えて解説。タッチは違うができた絵がいいかどうかが問題で、どちらであるかは「お客にとっては関係ない」と断じた。

 

そして、この後は“SAPとゲーム屋”という興味深い題材に移行し、堂々と「ディスります!」と宣言。安藤氏みずからはゲーム屋に寄った立場であることを明言しながら、氏特有の軽妙な語り口で両者を一刀両断し、それぞれの欠点と課題を赤裸々に突きつけた。

まずはSAPから。「SAPは革命的なスピード感を持っているが、バブルが弾けたいま、安易なパクりは通用しない」と明言。それゆえ、今後は新しいものをしっかり生み出せるかが重要であるという。その意味ではフェアな時代になったとも考えられる。

《SAPの課題》
    • マネばかりで新しいものを発明できない。信念はあるのか? ゲーム屋から見ると、ガワを替えただけのパクリはもっともやってはいけない“禁じ手”。そんなものが売れ続けたということも衝撃的。

    • 世界観、キャラクター、物語の作りかたを知らなさすぎる。好きなゲームはあるが、まだまだ物語性の薄さは否めない。可能ならば、そうしたゲームを自分でプロデュースしたい。

    • エンジニアが力を持ちすぎている。エンジニアが仕様を切ることが多く、むしろ仕様を切れてなんぼという風潮がある。エンジニアがプロデューサーとディレクターを兼ねている場合もあるが、兼任するのは無理。当人が言っているだけで、実際に兼任すると世界観の構築やマーケティングが甘くなる。体制としてもバランスが悪い。

    • KPI(重要業績評価指数。目標達成の尺度に使われる数字)を見すぎている。KPIはただの数字で、今日上がったとか下がったとかはどうでもいい。10年後にも、思い出してもらえるタイトルを作ることが重要。

    • お金儲けを考えすぎ。上場して売り抜けて、おめでとうございます、なんてのは意味がない。「会員数○○万人突破!」と細かく刻んでアピールするのは株主から資金を集めるためでしょうが、お金儲けが第一の目的であれば、とっとと退場してほしい。

 

一方のゲーム屋は、「ようやく本腰を入れて取り組むようになったところが多く、あまりにも遅すぎる」と一言。また、新しい時代への順応が遅く、古いルールが絶対だと思っている開発者も少なからずいることを指摘した

 

《ゲーム屋の課題
    • スピードが遅すぎる。SAPはノートPCひとつでテキパキ対応するのに、ゲーム屋は少しでも仕様変更が発生すると、そのためだけの会議を開いたりする。

    • 旧来のゲーム文法を引きずりすぎており、ゲームのテンポが悪すぎる。どうしようもないチュートリアル、延々と長いストーリーやムービーをー見せたがる。これらの要素を信念に基づいて入れているが、お客さんは「早く 遊ばせろ!」と思うだけで、結果的に離脱されまくる。SAPほどの鮮やかさがなく、つね に「俺らが正義!」と思い込んでいる。間違った思い込みは、戦争に負ける大きな原因のひとつ。職人的にこだわるのはいいが、頭が固すぎる。

    • サーバーが落ちすぎる。先ほど、SAPのエンジニア至上主義はよくないと言ったが、この一点に関してはそうあるべき。サーバー管理に割くべき人材やコストを軽視しすぎており、ゲーム屋としては助けてほしいし、SAPの方々のノウハウを教えてほしい。

    • KPIの読みかたが下手すぎる。SAPがデータマイニング(統計学)の専門家であるのと好対照。数字の拾いかたが下手くそで、最終的には直感だよりになることがある。

    • マネタイズのことを知らなさすぎる。一度も遊んだことのないゲームに対して8800円もの大金を支払うような、旧来のパッケージビジネスの発想は通用しない。中には、自身が携わったゲームソフトを“知的生産労働”と捉え、無料で配信することを毛嫌いする人間もいる。フリーミアムには、「もっとお金を使いたいのに、買いたい商品がない」というストレスを感じるハイブロウなお客様もいるのに、パッケージゲームのクリエイターは、「そんなお金を巻き上げるようなことは悪だ!」と言う。遊んでもいないパッケージソフトを買わせるほうが、よほど巻き上げているといえるのではないか?

 

このように過激にSAPとゲーム屋をディスったものの、安藤氏は結局「どっちもどっち」だと結論づける。その結果として、SAPとゲーム屋の協業案件が増えているという現状がある。少し前であれば、SAPがゲーム屋を引き抜き、その逆もしかりで人材の流入や流出が激しかったが、引き抜き合戦の時代は終焉を迎えた。いまはお互いのいいところを伸ばしてダメなところを補い、お互いに学ぼうとしている時期だという。

しかし、安藤氏はこうした協業案件は、「ほとんどがうまくいかないか、または長続きしないと思っている」と述べる。その理由は、”イデオロギーが違いすぎる”からである。たとえば、ゲーム屋は直感、手触り、ほっこり感など、KPIには関係がないものを重視するが、それをSAPに言ったら笑われたこともある。と実体験を交えて安藤氏は言う。
▲協業案件の中でも、とりわけゲーム屋がマネタイズのことを知らずに、SAPに「教えて!」と泣きつくケースが多いとのこと。

 

『ドラクエ』にしても『FF』にしても、才能のある人が作ったからこそ受け入れられた一面はあるが、主観でおもしろいものを作った結果できたもの。SAPは客観視はできているが、先達の成功例の数字と道をなぞる傾向があり、新しいものが生まれにくい。一方のゲーム屋は人と同じことするの大嫌いで、例えばファミ通に初めて載ったゲームで、未発表作品のアイデアが先取りされていたら、そのアイデアを排除するほど。ゲーム屋にとっては作品が世に出ることを報酬と感じており、真似をして売れたものは認められない。おもしろくて、誰にでも愛されるゲームを作って初めて評価される。ゲームを作ること自体に満足を感じられるならゲーム屋に向いているが、金銭面を求めるならオススメしない。など、多数の例を挙げてSAPとゲーム屋のイデオロギーの違いを説明した。

中長期的に見ると、レベニューシェアの取り分などから端を発して、”イデオロギーの違いから歪が発生するのではないか?”と安藤氏は分析。SAPとゲーム屋は、もともと主義主張の違う水と油のような関係であるため、本当にパートナーとして信頼関係が生まれるのは少数。基本的には難しいのではないかとのことだ。

それを踏まえると、やはり最終的には「自分たちだけでなんとかする」ことが大事だと結ぶ。SAPは新しいものを生み出せず、ゲーム屋はスピード感がなくサーバー管理やマネタイズができない。互いに補完しあう現在は、スマゲ業界の“超黎明期”だと安藤氏は位置づけた。

そして、すでに全部自分たちだけでやっている例もあると、ガンホーの『パズル&ドラゴンズ』を挙げた。“『パズドラ』に限らず、多くの成功者は「運がよかった」と言うが、こうした成功者たちは、誰よりも早く独立独歩で歩き始め、いいところも悪いところも自分たちだけで解決してきたことがヒットの要因になっている”と分析する。SAPもゲーム屋もそこがちゃんとできるようになった段階で初めて黎明期が終わり、スマゲ市場の成熟期に入ると考えている。こうした構造をすべて理解し、成熟期に入った後の協業であれば、また話は違ってくる。SAPの開発者の中には、『ドラクエ』や『FF』といったゲーム屋のゲームが好きな人も多いはず。その例として『神撃のバハムート』を挙げ、「バハムートに超かっこいい竜のような造形を与えて完成させたのは間違いなくスクウェアの『FF III』である」と指摘。加えて、『FF III』以降、各社からあたりまえにスクウェアが創りあげたバハムートが使われているけど、もともとはベヒーモスだったり、でっかい魚だったりします。SAPの方々には、バハムート=ドラゴンのイメージを変えてやる! くらいの意気込みをもっていただきたい」とエールを送った。

さらに、ゲーム屋の作るゲームは設定資料集を作れるくらい、表に出てこない資料が膨大にあるのがふつうであると安藤氏は続ける。さまざまな設定から人格や物語、戦う動機などができていくのがゲーム屋の方法論。三国志などは元々深い設定があり、キャラも立っているため作りやすいが、そういう設定をゼロから作るようにしないとゲーム屋には追いつけない。逆にゲーム屋もスピード感や数字の見方を身に着けるとともに、パッケージビジネスの勝ちパターンをぶっ壊していかないといけない。安藤氏が所属するスクウェア・エニックスの特モバイル二部は、そうした新しいビジネススキームにおける勝ちパターンを「けっこう見切れるところまできている」と自信を覗かせた。

また、安藤氏個人としては、「よい作品こそがすべての問題を解決する」と考えており、そのためにもゲーム屋のイデオロギーが大切だとのこと。SAPの徹底した合理主義はアメリカ的な考えかたで、もちろん日本人が合わせることもできる。しかし、日本人が作るものは日本人ならではの一風変わったものでかまわない、という意見である。

その好例として、安藤氏は『拡散性ミリオンアーサー』を挙げた。同作は「日本だけで売れればいい」という考えのもとに制作されている。家庭用ゲーム機でも、海外市場に向けて作ることが一時期はトレンドになっていたが、製作者自身がほとんど行ったことのない国のことは何もわからない。『拡散性ミリオンアーサー』は日本人の感性で、日本人が楽しいと思えるものを作ったが、意外にも日本固有の濃さやちょっと変なところが中国や韓国、台湾でも受け入れられている。予想外なことだったので理屈では語れないが、「作りたいものを作って、日本人に当てる」という熱意があればいいのではないかと、みずからの成功体験をベースに結論づけた。

最後に安藤氏は、「僕もわからないことが多いですし、教えてほしい。こんな僕ですが、いっしょにやりましょう」と、フレンドリーに参加者に提案する。氏はもともとエニックス出身で、スクウェアは大上段に構えているイメージがあり、「今となっては杞憂にすぎなかったが、合併した当時はイヤだった」と本音を漏らす。だが、新しいことやるときにはそういう思い込みがジャマになるため、あえて声をかけてもらえるような振る舞いをしているという。「とにかくお客様がワクワクするようなことをやろう!」と安藤氏は結び、参加者の中からつぎの時代の担い手が出ることを熱望して講演は幕となった。

 

最後には質問コーナーも! 答える! スマゲ★革命!?

安藤氏の講演の後は、株式会社FIXERの代表取締役を務める松岡清一氏が登壇。“なぜ、スマゲをWINDOWS AZUREでつくるのか?”というテーマで、同社が提供する『Windows Azure』とサポートサービスについての講演を行った。


▲株式会社FIXER、代表取締役の松岡清一氏。氏によると、『Windows Azure』を使ったスクウェア・エニックスの未公開作品が3作ほどあるという。

 

松岡氏の講演が終わったあとは、安藤氏が再び壇上に上がり、質問コーナーとなった。その質疑応答の様子もお届けする。

 

――『拡散性ミリオンアーサー』のキャラクタープロフィールは、1キャラにつきどのくらいの資料があるのでしょうか?

安藤 1キャラあたりの設定はパワーポイントで1ページくらいなので、そこまで多くはありません。ただ、その前段階としての資料が多いですね。ご存知の方も多いと思いますが、『拡散性ミリオンアーサー』のシナリオは『とある魔術の禁書目録』などを手がける、ライトノベル作家の鎌池和馬先生にお願いしています。僕らがパワーポイントで1ページの資料に落とし込む前に、鎌池先生が文化圏やキャラクターの趣味嗜好などの膨大な量の設定を考えてくださるので、僕らはそうした前段階の資料をキャラクターの造詣にはめ込んでいます。

 

――世界観はどう決めていったのでしょうか?

安藤 『拡散性ミリオンアーサー』は、プロデューサーの岩野が「アーサー王伝説をテーマにやりたい」と言いはじめたところからスタートした企画です。SAPの場合はゲームシステムから入ることが多いと思いますが、僕らはテーマからなんですよね。テーマが決まったらターゲットを決めて、プラットフォームが決まります。そして最後にゲームシステムを考えるんです。『拡散性ミリオンアーサー』の場合、“アーサー王伝説の話をするにしても、21世紀風のアレンジを効かせたい”と想っていたので、その旨を鎌池先生に相談しました。すると鎌池先生から「エクスカリバーはひとりしか抜けないけど、100万人が抜けるようにしましょう」と提案をいただきました。テーマが固まると、鎌地先生とプロデューサーの岩野は『アーサー王伝説』をすべて読み始めるわけです。そこで得たアーサー王伝説の世界観を参考に、戦争、宗教、文化背景などが同じようなブリテンという”新しい国”を創るんです。その設定は膨大ですが全部は語らず、必要なところから少しずつ露出させています。

 

――安藤さんから見て、いい意味でやっておくべきスマゲは何でしょうか。また、悪い意味で見ておいたほうがいいものは何ですか?

安藤 ここにいる方は、大体トップ10のゲームを見ていると思いますが、その中でもチャレンジングな部分があるものですかね。『ブレイブフロンティア』はスーパーファミコンやプレイステーションくらいのころのことをやっていて、サクサク進むのでオススメです。実は今日、ガンホーの山本さんからも、「『ブレイブフロンティア』面白いですねー」というメールが来て「世界観プロデュースさせてくれないかな」なんて返して。結構そういう話もするんですよ。『パズドラ』と『拡散性ミリオンアーサー』のプロデューサーがともにオススメするスマゲです。反面教師になるのは、もうすぐサービスが終わりそうなコンテンツでしょうか。前は人気があったものでも、第一世代の香りを引き継いでいるものはあっさり終わることがあります。もうすぐサービスが終わりそうなゲームをやってみると、いろいろと感じるところがあるのではないでしょうか。

 

――企画の概要を見て、おもしろいかどうかを判断する基準はありますか?

安藤 これは本当に難しいところですね。いちばん手っ取り早いのは、すでに動く試作を持ってくるとか、動画を用意することだと思います。ただ、RPGなら戦闘がおもしろいかどうかがいちばんのキモとなる部分です。そうしたストロングポイントに的を絞ってアピールできているかどうかを僕は見ますね。なかなか試作までつくるのは難しいとは思いますが、中にはやってしまうプロジェクトもあります。結果論に過ぎませんがそういうプロジェクトは結構成功しているような気がします。

いまのスマホは性能も高く、何でもできるようになっていますが、たくさん盛り込まれているだけではダメです。むしろ、「俺がおもしろいところはここ!」と一点突破しているかを見ます。あとは当然、お金を投資することになるので、強烈な反論を食らったときにどのくらい必死に熱を持って反論してくるかですね。すぐ折れる人には、何千万も投資したくはないです。最終的に売れているのゲームって、偉い人も含めて満場一致で賛同されたものではないんですよね。全世界を敵に回してもいいから、プロデューサーがひとりで「おもしろい!」と言って譲らなかったタイトルだったりしますからね。

こうして、約2時間に渡る講演会は幕を閉じた。株式会社FIXERでは、今後もこのような講演会を定期的に開催していく予定。参加は無料なので、開発者の方々は機会があればぜひ足をお運びいただきたい。

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