なぜ、インドネシアに? スクエニHD新拠点設立の真相を探る

2013-06-12 16:01 投稿

●インドネシアには優秀な人材が!?

スクウェア・エニックス・ホールディングスは、2013年4月15日にスクウェア・エニックス・ スマイルワークスという新会社をインドネシアのスラバヤに設立したことを発表した。この会社は、スクウェア・エニックス・グループと五反田電子商事が出資した会社で、グループ初となる東南アジアの拠点となる。

事業内容としては日本で同グループが展開しているゲームやコミュニティサービスの開発、運営を皮切りに、スクウェア・エニックス・グループ以外のゲームメーカーのソーシャルゲームやブラウザゲームの企画、開発、運営、ローカライズなども請け負うという。経済成長が著しいインドネシアに新たな拠点を構えた経緯や目的について、スクウェア・エニックス・スマイルワークスの代表取締役/CEOに直撃した。

スクウェア・エニックス・スマイルワークス代表取締役/CEO 金丸洋明氏

--今回インドネシアに開発会社を、3社で起ち上げたきっかけを教えてください。
金丸 まずインドネシアに作った理由としては、新興市場であることが挙げられます。まず、人口が多いこと。現在公表されている人口は約2億4000万人。でも、肌感覚としては3億人くらいいるのではないかなと思うほど、人が多いんです。しかも、平均年齢は日本が44歳なのに対してインドネシアが約27歳。非常に若い国なんですね。それに比例して優秀な若者も多い。それで我々が望んでいるいい人材がたくさんいると考えました。

--それほどまでに若い国で勢いがあるんですね。
金丸 そうなんです。加えて、今回拠点を構えたスラバヤにはスラバヤ工科大学という、国で1位2位を争う優秀な大学があるのですが、現地にはシステム会社が少ないんです。日本で言うと東京工業大学のようなところを卒業して、しかも、日本語も話せるのに家具工場で働いている、という状況が現地にはある。日本では考えられませんよね? 優秀な人たちの就職先がない状況。であれば、就職先さえ作れば優秀な人材が確保できるんじゃないかというのが出発点ですね。

--いつくらいから始まったプロジェクトなんでしょう?
金丸 今回の話は、去年の春くらいからですかね。たまたま、過去に仕事をいっしょにしたことがあった伊藤さん(※)からインドネシアで苦労されているということをお聞きしていたんです。一方、私がいる五反田電子では2010年から錦鯉をインドネシアで売るという仕事をやっていまして……。

※スクウェア・エニックスのコーポレートエグゼクティブ、およびスマイルラボ代表取締役社長の伊藤隆博氏

--えっ、錦鯉をインドネシアに?
金丸 じつは日本で生産している錦鯉の9割は海外向けなんです。ちなみに、日本でチャンピオンを獲った錦鯉っていくらくらいだと思いますか?

--まったく相場がわからないのですが、500万円くらいですか?
金丸 3000万円くらいするんです。しかも、その価値がある期間は1年もないんですよ、色味などが変わってくるので。そうすると、なかなか日本人が簡単に買えなくて、おもに海外のお金持ちが買っていてその中でいちばん買ってくれるのがインドネシア人なんです。

--それだけお金持ちが多いということなんですね。しかも、錦鯉の良さをわかる美的センスが日本人に近い?
金丸 それもありますし、すごく親日家が多いんです。

--なるほど~。インドネシアに行ってみたくなりました(笑)。今回作られた会社は、「スクウェア・エニックス・グループが日本で配信しているゲームやコミュニティサービスをインドネシアで運営・開発」がおもな役割とお聞きしています。具体的にはどのような開発などを?
金丸 昨年11月からスクウェア・エニックス スマイルワークスに入ることを前提に現地で採用をしていて、すでに2チームくらいが日本向けのPCブラウザゲームやFacebookのアプリなどを手掛けています。

--家庭用ゲームの開発などは行われない?
金丸 家庭用ゲームは考えていませんね。

--現在の人数はどれくらいに?
金丸 開発現場に20名くらいで、バックオフィスをやっている人間を含めると30名くらいですね。ほぼ現地採用です。

--現地で開発されたものは、スクウェア・エニックスブランドで出るイメージでしょうか?
金丸 いえ、タイトーなど、スクウェア・エニックス・グループすべてから出る可能性はありますし、グループ以外の他メーカーさんから受託して開発、運営なども行う予定にはなっています。

--ゲーム作りは開発や運営のノウハウが必要だと思います。その素養は、インドネシアにもあるとお考えでしょうか?
金丸 いまゲーム専用ネットカフェのような場所がいたるところにありますし、モール内の広場を観たら子供たちがPCでゲームを遊んでいる光景をよく目にしますよ。インドネシアというと、椰子の木があって南国のリゾート地的なイメージが強いと思うのですが、ジャカルタやスラバヤは本当に都会。ジャカルタは新宿より都会ですよ(笑)。

--ほっほ~。
金丸 新宿がいたるところにある感じです。ジャカルタだけで約3000万人いますから、東京より全然都会です。コンビニもいっぱいありますし、モスバーガーもありますし、本当に何でもあります。

--すでに具体的に運営や開発などをされているのでしょうか?
金丸 まだいまはグラフィックだけであったり、パーツを作ったりといった細かい作業をやっていますが、企画から開発、運営までオリジナルゲームを現地で作ることも可能な体制になっています。

--日本で配信されるブラウザゲームやスマートフォンのゲームが、じつはインドネシアで作られていたってことも今後もあり得るわけですね。
金丸 十分あり得る話です。最終的にはインドネシア人が、現地向けにゲームを開発して東南アジアで大ヒットというのが目標ですが、最初は日本の高いクオリティーのゲームに携わって勉強していくことが大事なことだと思います。

--現地では日本語が必須なのでしょうか?
金丸 現在日本語出来る方は3~4名で、それ以外の方はインドネシア語や英語でコミュニケーションを取っています。いままでいろいろな国で会社をやっているなかで、とてもやりやすい印象もありますね。

--どういった面ででしょう?
金丸 前向きというんでしょうか? 海外にありがちなトラブルがほとんどないんです。たとえば僕らが何か怒ったとしても、「教えてくれてありがとう」という姿勢で話を聞いてくれるんです。勤勉で真面目。国が伸びてきているので、皆やる気があるんですよね。

--僕が直接その時代を生きたわけではないですが、昭和30年代の高度経済成長期の日本に近い感じがしますね。
金丸 まさにおっしゃるとおりです。

--ただ、最近ソーシャルゲーム業界等で、東南アジアに拠点を構えた会社さんでは、引き抜きや現地の事情などで、うまく軌道に乗らないという話も聞きます。そのあたり、不安要素はないのでしょうか?
金丸 いまのところ、スラバヤに開発会社がほとんどない。数名のプログラム会社はありますが、ゲーム会社もありません。そうすると、引き抜きなども考えづらいですし、何より日本と同じで郷土愛にあふれていて、と
にかく仲がいいんです。毎日スタッフがいっしょに晩ご飯を食べて帰るほど。病気になると、みんなでお見舞いに行こうってなりますし、誕生日会なども本格的で、日本のスタッフは皆感動しますし、逆に元気をもらえる
感じですよ。

--僕もインドネシアで働きたくなりました(笑)。
金丸 みんなそう言いますよ、ぜひどうぞ(笑)。それだけ、仲がいいスタッフたちなので、採用する際も能力よりも仲間との和を重んじるかどうかを重視していますね。

--ゲーム開発には重要な要素ですよね。今後、どれくらいの規模にしようと思われているのでしょう?
金丸 この1、2年で少なくとも100人~200人規模にはしたいなと思っています。スラバヤ工科大学だけでも数万人の学生がいますので、人材に困ることはないんじゃないかなと。ゲーム学科もあるのに現地にはゲームメーカーがないので、現地に作れば自然とそこに優秀な人が集まる土壌があるんです。このあいだは、シンガポールのゲームメーカーで働いている息子を持つお父さんから、スラバヤにゲーム会社ができるなら働かせたいって応募があるほど(笑)。

--それはすごい話ですね。ちなみに勤務態度などは、どうなんでしょう? 時間にルーズなんてことはないのでしょうか?
金丸 まったくないですね。非常に真面目で、遅刻もないです。自分たちでスケジュール管理をしていて、こちらが若干サバを読んで納期を言っても、前倒しして仕事をキッチリ仕上げてくるくらいですよ。なので、あ
る程度、現地の人たちに任せられるなと。

--インドネシアに拠点を構えることによって、どれくらいのコスト削減になるのでしょう? インドネシアと日本の物価は?
金丸 いまはだいたい8分の1くらいですかね。本来の目的としてはジャカルタがどんどん物価が上がっている状況でもあるので、コスト削減のためだけに現地に作ったわけではありません。現に昨年政府から最低賃金を40
%引き上げますという通達が出たりもしたので、現実的にはどんどん物価は上がっている状態です。だから、コスト削減というよりも、どちらかというとクオリティーであったり、趣味指向の近さだったりを重視してイン
ドネシアにしたというわけなんです。

--どんどん成長しているインドネシア市場であれば、逆にスクウェア・エニックス・グループのゲームをインドネシアで、ということも視野に?
金丸 『ファイナルファンタジー』シリーズはすごく向こうでも人気ですし、コスプレイヤーなどもいっぱいいますし、そういう意味では日本のタイトルがインドネシアで受け入れられる可能性は大きいと思いますね。い
ま日本でヒットしているタイトルを向こうで展開することも考えています。

--スクウェア・エニックス・グループ以外のメーカーの仕事も請けられるというのもいままでにない形ですよね?
金丸 他社さんの仕事も請け負っていくということもやっていきたいと思っていますので、それが日本のゲーム業界にいい影響を与えられたらなとも考えています。インドネシアにはほとんどそういう会社がないので、日
本のゲームメーカーさんにも「ぜひ使ってください!」と言いたいですね(笑)。

--実際動き始めたばかりだとは思うのですが、成果はいつごろ出てくると思いますか?
金丸 すでにスクウェア・エニックス・グループ内のタイトルの一部を請け負ったりもしていますし、徐々にそういったことが増えてくるので、すぐにでも成果は出てくるかなとは思っています。グループで展開しているブラウザゲームやスマートフォン向けゲームの仕事をできるレベルにあるということは間違いないことだと思います。将来的にはすべてを向こうで開発して、現地で大ヒットするゲームが出てくるようにしていく、というのが目標ですね。

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