KickStarterで出資を募った大作『Republique』の進捗をスクープ

2013-05-02 12:28 投稿

●ワンタッチでの操作にこだわる

『Republique(リパブリック)』は、ライアン・ペイトン氏と彼が所属するCamouflaj(カモフラージュ)が準備中のiOS/PC向けソフトだ。ライアン・ペイトンと『Republique』については、これまでファミ通Appやファミ通.comで何度かお伝えしているので、ご存じの方も多いかと思うが、改めて簡単にこれまでの経緯を説明しておこう。

 ▲『Republique』のヒロイン、ホープ。世界中のユーザーに受け入れられるように造型には細心の注意が払われている。いまだにちょこちょこ手を入れているのだとか。

 

そもそもライアン・ペイトン氏は、KONAMIやマイクロソフトに在籍していたゲームクリエイター。2011年にマイクロソフトを退職後、新会社Camouflajを設立。シアトルにあるオフィスで『Republique』の開発をスタートした。その後、2012年4月にクラウドファンディングサイトKickStarterで、50万ドルの出資を募集。けっして低いとは言えないハードルだったにも関わらず、見事その目標をクリアーし、いまは配信に向けて着々と開発を進めている状態だ。

KickStarterでの出資決定以降、あまり進捗の見えなかった『Republique』だが、Unite Japanの開催に併せてライアンが来日。せっかくの機会だから……ということで、『Republique』の現状についてライアンに話を聞くことができた。

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▲ライアン・ペイトン氏。写真はUnity Japan 2013の基調講演時のもの。

 

さて、まずは『Republique』のゲーム概要のおさらいをしよう。本作は、全体主義国家をモチーフにしたステルスアクション。ある日プレイヤーは、全体主義国家に囚われたヒロインの“ホープ”から「国家のシステムにハッキングして自分を救い出してほしい」という依頼を受けることになる。プレイヤーはときにホープを操り、ときにハッキングをしながら、全体主義国家の魔の手から逃れていくことになる。

Unite Japanの基調講演では、『Republique』の配信時期に関して、「早ければ夏にもリリースできるかもしれない」と語っていたライアン。開発もそろそろ佳境といったところのようだが、開発状況を聞いてみると、「たいへん!」とひと言。当然のことながら、“新しいゲームを作る”という目標は、相当ハードルが高かったようだ。「PRのための売り文句ではなくて、本当に新しいゲームを作りたかった。すべてのプレイヤーに、ドキドキしてもらえるような体験を味わってもらいたいんだ」とライアン。

“新しいゲーム”のためのアプローチとして、『Republique』で挑戦したのが、すべての操作をワンタッチで行うということ。それは、ユーザーの間口を広げるための取り組みだったわけだが、これが思いのほかたいへんだったよう。ステルスアクションである『Republique』では、17個の操作を実装しているわけだが、これをすべてワンタッチ操作に置き換えるのに1年かかったという。まあ、実際のところは現時点でも、操作方法はすべて確定したわけではなくて、ようやくメドがつき始めたという段階らしいのだが……。「バーチャルパッドみたいなやりかたはスタッフのあいだでも抵抗があったので、とにかく試行錯誤した」とライアンは語る。

ワンタッチ操作を実現するにあたっての方法論が極めてユニークだ。ふつうのゲームでは、まずはコントローラーが前提としてあって、「ジャンプはAボタンにしよう」、「Xボタンはリロードで」といった具合にクリエイターサイドがボタン配置を決めていくものと思われるが、『Republique』ではまるで違う。まずは、ユーザーに何の先入観もなしに実際にゲームをプレイしてもらい、「ホープの武器を変えてください」などと口頭で指示。そのときユーザーが取ったアクションを採用していったというのだ。ユーザーが直感で望む操作方法を実装していったというわけ。「失敗して、失敗して、失敗して、やり直してという感じ(笑)」とライアンは振り返るが、かなりな試行錯誤があったのだろうと推察される。

そこで、記者が「どんな操作方法があるのか、教えてほしい」と頼むと、ライアンは、「マスコミに見せるのは始めてなんだけど、特別に」とにっこりと笑いながらiPhoneを取り出すと、『Republique』のデモプレイを披露してくれた。ライアンによると、『Republique』のゲームプレイは、“ホープを操作するモード”と、“ハッキングモード”に分かれており、両方のモードはタップ1回で切り替えが可能。“ホープを操作するモード”というのは、本記事のために便宜上命名したものだが、文字通り、ホープを操作するモードのこと。彼女を向かわせたい方向をタップすれば彼女はそちらに移動し、彼女自身をタップすると武器を持っていれば、武器が切り替わる……といった具合だ。一方の“ハッキングモード”では、ハッキングしたい対象をタップするとハッキングできるようになるようだ。

「操作で迷っているのは……」とライアンが切り出したのは、画面のズーム。現状ズームは2本の指を画面上で広げることで行うことになるが、ライアンによるとこれは“ワンタッチ”ではなくて、“ツータッチ”。記者個人としては、「これくらいいいのでは……?」と思ったりもするが、ライアン及びチームにしてみれば、そういうわけにもいかないようだ。このことだけを聞いても、いかに彼らがワンタッチ操作にこだわっているか、うかがい知ることができるが、「最終的に決めるのは、僕らではなくてユザーさん」とライアンは言い切る。

ちなみに、『Republique』では、頻繁にテストプレイを行なっているが、KickStarterで資金を提供してくれたユーザーの中から、シアトル近辺の方を優先して招いているとのこと。このへんは、KickStarterならではのファンサービスといったところだろうか。

▲操作はすべてワンタッチ。ハイエンドの見た目から操作方法が難しそうな印象を受けるかもしれないが、直感的で簡単な操作を実現。これは「よりたくさんの人に遊んでもらいた」というライアンの方針によるもの。

 

●壮大なストーリーを伝えたい

さて、ワンタッチ操作と並んでライアンが『Republique』でこだわっているのが、ストーリー。まあ、ストーリーに関しては、『Republique』のみというよりは、ライアンのゲーム制作全体を貫く信念といったものに近いのかもしれない。子どものころに『メタルギア ソリッド』をプレイして、「人生が変わった」というライアンには、“ゲームで壮大なストーリーを伝えたい”という目標があるのだ。『Republique』におけるストーリー上のテーマは、ずばり“言論の自由”。「いま僕がいちばん心配しているのが、言論における制限の多さ。とくにネットにおいては、かつては混沌としていたものが、どんどん綺麗にされているような印象を受けるんだ。制限されているというべきか……。その大元になるのが、政治家になるのか、企業になるのかはわからないけれど、僕らはホープみたいにファイトすべきだと思う」(ライアン)。まさに、『Republique』にほぼ近い世界が、僕らの前に現れているというわけだ。

そして、そういったテーマは「大きな会社(ゲームメーカー)では伝えづらいことで、さらに自由なプラットフォームだからこそ可能だった」とライアンは、iOS及びPCをプラットフォームに選んだ理由の一端を説明する。「自由にゲームを作りたい」という思いから、大手ゲームメーカーを退職し、独自の道を歩むことを決断したライアンだが、『Republique』は、そんな自身の思いを盛り込んだ1本と言えるのだろう。

ちなみに、『Republique』と直接の関係はないが、ライアンは“ストーリーを語る”という点において、日本のゲーム業界の現状に対して危惧を感じている。これまで日本のゲーム業界には、坂口博信氏や小島秀夫氏を筆頭に、多くのユーザーを感動させるクリエイターが連綿として存在してきた。もちろん、いまでも須田剛一氏や上田文人氏など、偉大なるストーリーテラーは確かに存在するが、「その数は徐々に減っていっているのでは?」というのだ。その理由の一端は、ゲームメーカーサイドにある。ご存じの通り、いまやゲーム開発には膨大なコストがかかる。ゲームメーカーとしたら、溢れるほどの資金を注ぎ込んで壮大なストーリーを紡ぐよりは、比較的安価にゲームを作れてリスクの少ないゲーム(たとえばソーシャルゲームなど)に流れがちになる。それだけ“壮大なストーリーを持つゲーム”の開発が難しくなってきているというわけだ。かつて世界中のファンを熱狂させてきた日本ゲームの“壮大なストーリー”が消えていってしまうとしたら、それは悲しいことだ。

とはいえ、クリエイターが取るべき道はあるとライアンは言う。その代表例が『洞窟物語』。天谷大輔氏によって、フリーソフトとしてリリースされた『洞窟物語』は、『CAVE STORY』として世界中のゲームファンに絶賛されたことはご存じの通り。「天谷さんが、インディーズゲームで自分のストーリーを伝えているのはすばらしいことだと思う」とライアン。クリエイターたるもの、ストーリーを伝えるための活路はいくらでもあるということだろうか。それを証明する作品が『Republique』であるのだとも言える。

最後に、『Republique』の最新情報として、登場キャラクターについて明らかになったことをいくつかご紹介しておこう。本作ではヒロインのホープや全体主義国家を司る男などが登場するが(OVERSEERというらしい。ちなみにOVERSEERは監査官くらいの意味あい)、そのほかにホープのメンター(師匠)とでも呼ぶべき女性が存在することが判明。詳細は不明ながら、“メンター”だけあって、中々にきびしい人のようだ。声を担当するのは、ジェニファー・ヘイル。ライアンいわく「アメリカでいちばん有名なゲームの声優さん」らしい。記者は不勉強にもジェニファー・ヘイルという名前は知らなかったが、ちょっとネットで検索してみてあまりの担当役柄の多さに驚いた(『メタルギア ソリッド』シリーズのナオミ・ハンターを筆頭に出演作は多彩)。ジェニファー・ヘイルが演じるキャラのビジュアルについては、「まだまだ気に入っていなくて調整中」とのことで、見せてもらうことはできなかった。さらに『Republique』には、北米版『メタルギア ソリド』シリーズで、スネークを演じているデヴィット・ヘイターも起用されることが決まっている。出演声優に関しても、何気に深いこだわりを見せるのが『Republique』なのだ。

▲アクションはもちろんだが、物語にこそこだわったという 『Republique』は、現状のゲームの開発環境の危惧に対する強烈な意思表示でもある。

 

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Republique

メーカー
Camouflaj
配信日
2013年
価格
未定
備考
※日本語版も配信予定

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