CRI・ミドルウェアが初のセミナーを開催、“グローカライズ”で海外展開の壁を突破する

2012-11-14 19:52 投稿

●スマートフォンアプリの海外マーケットへの展開方法を指南

日本を代表するミドルウェアメーカーとして知られる、CRI・ミドルウェア。同社主催による初のカンファレンス“海外マーケティングX モバイル開発技術セミナー~新規市場を小さな投資で大きく開拓  海外展開の壁をグローカライズで突破せよ!”が、2012年11月13日に渋谷ヒカリエホールにて行われた。そのタイトルにすべてが要約されているように、このセミナーは国内のアプリをいかに有効に海外展開させるかをレクチャーするもの。多くの国内メーカーにとって海外展開は大きな命題。今回のセミナーは、そんなメーカーのニーズに沿ったタイムリーなものと言える。セミナーの最初に登壇した、CRI・ミドルウェア 代表取締役社長 古川憲司氏は、「いま、日本は元気がないと思います。一方で、モバイルゲームは世界に羽ばたくときがきています。携帯電話は生活必需品で、世界中の人がゲームプラットフォームを手にしているのといっしょです。あとは、我々が得意なコンテンツを世界に出していけば、大きなチャンスが広がっています。ただ、日本は島国で、世界に出すにはカスタマイズが必要になります。今回のセミナーが、そのきっかけになれば……と思っています」とセミナーの主旨を説明した。

ちなみに、セミナーのタイトルにある“グローカライズ”とは聞き慣れない言葉だが、グローバルとローカライズを合わせた造語で、「グローバルな視点で各地に展開し、ローカルな視点で言語のみならず各国の市場にあったビジネス展開を行う」といった意味。国内メーカーが海外展開をするにあたっては、いままさにこの“グローカライズ”が不可欠になるというのが、セミナーを貫くテーマだ。

 

●今後の海外展開に欠かせないのは“フルスケール”

セミナーは、デロイト トーマツ コンサルティングの八子知礼氏による基調講演“モバイルビジネスの新常識・フルスケールの時代”からスタートした。次代を担うと言われているクラウド、わけてもモバイルクラウドの分野に詳しい八子氏は、クラウドが浸透することで「コンバージェンスの時代が来る」と明言した。コンバージェンスとは、“収束”や“収斂”といった意味合いで、“リアルとバーチャル”や“社内と社外”、“顧客と従業員”など、本来交わることのない領域が融合することで、新たな世界が生まれることを指す。「どの領域を壊し、どう融合させるかがビジネスチャンスになる」と八子氏は言う。

▲デロイト トーマツ コンサルティングの八子知礼氏。

 

そんなクラウドは、コンテンツ業界でも期待されている。ストレージや配信といったわかりやすいクラウド化によるメリットはもちろんのこと、制作上の利便性も高いというのだ。「最近のトレンドは、“コンテンツ配信クラウド”から“サービスデリバリクラウド”へ移行しています」(八子氏)なのだという。“サービスデリバリクラウド”とは、制作から開発、配信までを一手にクラウドで行うスタイルのこと。その代表格がソーシャルゲームで、クラウドコンピューティングはソーシャルゲームとともに発展してきたと八子氏は言う。クラウドコンピューティングの拡張性がソーシャルゲームにフィットしたということだ。

一方で、モバイル端末のトレンドとしては、言うまでもなくスマートフォンの台頭がある。2011年末の全世界における普及台数は60億台、そして2012年末は70億台が見込まれるというモバイル端末。現状その多くがフィーチャーフォンだが、スマートフォンはものすごい勢いで移行しており、2016年には半分がスマートフォンになると予想されている。現状、日本におけるスマートフォンの普及率は23.5%らしいが、この数字は先進国や新興国のなかでも極めて低い数字というのも、驚くべきデータだ。世界は私たちが想像する以上に、スマートフォンにシフトしているようだ。「もっともっと海外に目を向けないといけない!」と八子氏は語る。

最後に八子氏は、これからのビジネスのキーワードとして、“フルスケール”を挙げた。今後のグローバル化にはクラウド化が必須。クラウド化によってもたらされるのは、“オープン化”や“マイクロ化”、“モバイル化”、“ソーシャル化”など。つまり、「あらゆる方向・可能性に対して、柔軟にスケール(拡張)していける企業や人材が生き残れる時代になる」(八子氏)という。たとえば、作品自体も日本市場だけをターゲットに作っていればいいというわけではなく、グローバルを視野に入れる必要があり、クリエイターもモノを作っていればそれだけでいいというわけではなくて、プロデューサー的な視点が求められる……といった具合だ。これまでのグローバル展開が“日本では成功するものの⇒海外市場のハードルが高く進出できない”という状態だったとすれば、フルスケール時代のグローバル展開は“日本市場の立ち上げとともに、海外をいきなり立ち上げる”ことが必要になる。そのために有効な武器になるのが“グローカライズ”なのだ。

 

●選挙戦とアプリ販促は似ている!?

おつぎは、Wowmax Media 代表執行役員/CEOである海部正樹氏による“北米アプリ市場の現状とアプローチ”。北米に本社を構えるWowmax Mediaは、日本のコンテンツを北米市場に展開するためのコンサルティングを行う会社。CEOの海部正樹氏は、元総理大臣の海部俊樹氏のご子息で、TBSディレクターやWOWOWアニメプロデューサーを務めた……という華麗な経歴をお持ちの方だ。一時期、お父様の秘書も務めていたという海部氏は、選挙活動とアプリの販促の構造が近い関係にあることに着目。北米アプリ市場の現状とアプローチを“選挙メソッド”で紹介するというユニークなアプローチを試みた。つまり、選挙活動では、

1. 解決すべき課題を提起
2. 解決手段としての政策を訴え
3. 実行する人柄、行動力、信頼感をアピールし
4. 名前を覚えてもらい
5. 投票所へ行き
6. わが候補者の名前を投票用紙に書いてもらう

という構造を持っているのに対し、アプリの販促では
1. 解決すべき“ウォンツ”と“ニーズ”を提起
2. 解決手段としての “アプリ”を訴え
3. アイコン、機能とそこから得られる“よいこと”をアピールし
4. アプリ名称を覚えてもらい
5. マーケットプレイスへ行き
6. わがアプリの“ダウンロード”ボタンを押してもらう

というのだ。また選挙では“浮動票”を個人からアプローチする“空中戦”というのに対し、“組織票”は組織からアプローチする“地上戦”と呼んでいるらしい。ミニ集会や個人演説会など一見地味に見える“地上戦”に対して、街頭演説や選挙カーなど“空中戦”は派手。だが、どちらかひとつあればいいというわけではなく、選挙戦においては両方とも必須。アプリに置き換えると、“空中戦”が“アドプロモーション”で、“地上戦”がソーシャルメディアへのマーケティングに当てはまるという。

▲Wowmax Media 代表執行役員/CEOの海部正樹氏。

 

引き続き海部氏は、自身の経験や詳細なデータを交え、北米市場を分析。その中から、興味深いトピックをいくつかピックアップしてみると……。

・世界でもダントツのアプリ市場を擁する北米。1日あたりのApp Store売上高は169万4000ドルで日本の約3倍。アプリ売上高の65%は無料ダウンロード+アプリ内課金とフリーミアムが人気だが、じつは定額課金のサブスクリプションも有効な収入モデルだという。

・ローカライズの一例。海部氏がジャパニーズホラーの波に乗って北米で、楳図かずお原作の『へび少女』を発売することになった。直訳すればタイトルは『Snake Girl』となるが、それだとアメリカ人にはアメコミのヒーローのように感じられてしまうのだという。そこで海部氏を始めとするスタッフはタイトルを『REPTILIA(爬虫類の意味)』に決定。楳図氏の承諾も得て、カバーアートも変更したところ、多くのユーザーに手にとってもらうことができ、完売したという。

・カルチャライズの一例。たとえば、同じ“ネコ”でも、日米では嗜好が異なる。日本では“キュート”が好まれるのに対して北米では“クール”が好まれる傾向があるようだ。アニメDVDパッケージでも、ダークヒーローを主人公にした『ソウルテイカー』では、北米版はダークな雰囲気を基調にしたのに対し、日本では「パッケージに女の子の絵がないと売れない」との判断から明るいデザインになったという。

 

●海外展開を支援するCRI・ミドルウェアの“CLOUDIA Glocalizer”

海部氏の講演のあとは、主催であるCRI・ミドルウェアによるセッションが3本続いた。まずは、モバイル事業推進部 部長 幅朝徳氏による“CLOUDIA Glocalizer(クラウディア グローカライザ)製品紹介”。“CLOUDIA Glocalizer”とは、日本のアプリをグローカライズし、海外でのビジネスを支援するサービス。Wowmax Mediaと提携してのサービスで、アプリの特性に合わせたグローカライズはもちろん、市場調査のプロによる競合分析といったマーケティング調査や、プロモーションの援助なども含まれる。アプリを海外展開する上では、至れり尽くせりのサービスだ。北米大学40校以上の独自ネットワークを活用しての取り組みなども予定しているというから驚きだ。ミドルウェアを本業とするCRI・ミドルウェアからすると、従来にない踏み込んだビジネス展開と言えるだろう。それもこれも、いまの日本メーカーにとって海外展開は不可欠との判断によるもののようだ。

 

おつぎは専務取締役 押見正雄氏による“海外で勝つためのモバイルプラットフォーム向けアプリ開発テクノロジとは”。現在モバイル端末で主流となっている“フリー トゥ プレイ”で勝つためのキーポイントとして、“気軽に始められる”、“長い時間遊べる”、“待たせない”を挙げた押見氏は、滞留時間が収益に直結する“フリー トゥ プレイ”のゲームでは、いかにプレイ時間を長くするかがキモで、そのためにはコンテンツのリッチ化(音楽やセリフ、派手な演出)などが有効だと説明した。事実、昨今のアプリでは映像はより美麗になり、音声対応も積極的に行われる傾向があるのは言うまでもない。

 

3番めは、第一開発部 マネージャー 櫻井敦史氏による“アプリ海外展開の悩みを解決する開発技術と手法”。容量に極めて限りのあるアプリ。ゲームをリッチに見せるにはサウンド演出や動画演出などが不可欠だが、容量がかかる。そこで、CRI・ミドルウェアでは、“アプリは小さく、ゲームは手軽に快適&豪華に”をテーマに、自社テクノロジーを用いて、サイズの圧縮などを実現。講演ではデモ映像を交えての実例が紹介された。ちなみにこの講演はデモ映像も含めすべてiPadで行われており、プレゼン自体がCRI・ミドルウェアのテクノロジーの優秀さをデモンストレーションするという趣向になっていた。

 

▲CRI・ミドルウェア モバイル事業推進部 部長 幅朝徳氏。

▲CRI・ミドルウェア 専務取締役 押見正雄氏。

▲CRI・ミドルウェア 第一開発部 マネージャー 櫻井敦史氏。

 

●日本は世界で戦っていけるのか?

さて、セミナーの最後に行われたのは“クロスディスカッション”で、参加者がグローカライズにまつわる気になる設問に対して、ディスカッションを行なった。CRI・ミドルウェアの幅朝徳氏をモデレーター役に、登壇したのはWowmax Media 海部正樹氏、デロイト トーマツ コンサルティング 八子知礼氏、同じくデロイト トーマツ コンサルティング 中山淳雄氏、L is B(エルイズビー)横井太輔氏、CRI・ミドルウェア 押見正雄氏の5名。“クロスディスカッション”から参加したおふたりのプロフィールを取り急ぎ説明しておくと、中山淳雄氏はディー・エヌ・エーなどを経て、デロイト トーマツ コンサルティングに入社。いまはゲームのコンサルティングなどを手掛けており、最近は『ソーシャルゲームだけがなぜ儲かるのか』の著作などが話題を呼んでいる。一方、横井太輔氏は、L is Bの代表取締役社長。L is BはTwitterのコメントを自動的に感情解析し、コミックに変換する『Feel on!』などでおなじみの会社だ。

▲デロイト トーマツ コンサルティング 中山淳雄氏。

▲L is B 横井太輔氏。

 

まず出題されたのは、「ローカライズやグローバル展開がしやすいアプリと、そうでないアプリの違いは?」というもの。これに対して海部氏が「“集める楽しさ”や“育てる楽しさ”など、説明が簡単にできるものがローカライズしやすいですね」とコメントすれば、横井氏は「端的に言えば言葉がすべてです」と断言。言葉をビジュアル化する『Feel on!』では、言語対応が必須になるが、英語版の開発には1年かかったという。「カメラ系のアプリは、日本発で海外でも成功しているケースが多いですが、言葉に縛られないアプリが成功する傾向があるかもしれません」(横井氏)とのことだ。横井氏の意見には中山氏も賛同し、「テキストが問題ですね。英語ならまだしも、ドイツ語になるとテキストが膨らんで文字が溢れてしまいます」と続けた。中山氏によると、ゲームの要素である“操作性”と“収集性”、“ソーシャル性”のうち、“操作性”に紐付く要素がローカライズしやすいとのこと。一方で、“収集性”及び“ソーシャル性”は、ローカライズとはトレードオフの関係にあり、ローカライズしやすいものを作ろうとすると“収集性”及び“ソーシャル性”は薄くなり、“収集性”及び“ソーシャル性”を濃くしようと思えばローカライズは難しくなるという。どちらを取るかは、コンテンツの方向性次第のようだ。

「海外展開で苦労した点は?」については、「海外で本気でビジネスをしたいのであれば、海外に拠点を置くことが大切かも」との横井氏の意見に全員が賛同。インドネシアのApp Storeダウンロードランキングで1位を記録した『Feel on!』だが、海外展開のメリットを問われた横井氏は、(1)自己満足、(2)いろんなオファーがもらえる、と返答。つい先日もフランス国営テレビからの取材を受けたそうで、「ビジネスになりやすいツテが飛び込んでくる」(横井氏)とのことだ。

おつぎの出題は、「海外展開の“夢と現実”、日本企業が陥りやすい間違いや失敗とは?」。まずは海部氏が「日本の考えかたやマネージメントを直輸入しようとすると難しい」と答えれば、呼応するように押見氏も「日本のメーカーは、“隣を見た憧れ”ではないが、“自分たちも超大作を”ということで、大作を真似たビジネスプランを展開しがちだが、日本は日本のコンテンツなりの展開をしてもよいのでは」と続けた。八子氏は「1にも2にも過剰な期待をし過ぎなこと」とコメント。そして、本気で期待するのならば、現地にエース級の人材をたくさん投入して、本気で投資する必要があるとした。

最後の設問は、「これから日本はどうなってしまうのでしょうか?」というもの。「まだまだおもしろいビジネスができる」(中山氏)などさまざまな意見が飛び出すなか、印象的だったのが、海部氏のコメント。設問に対するダイレクトな返答というわけではないが、海部氏が引用したのは、映画『トランスフォーマー』のプロデューサーであるドン・マーフィー氏の言葉。ドンは、「マーケットの広さや人権費の安さはアジアのほかの国にかなわないかもしれないが、“コンセプト”はアジアのカルチャーで日本がいちばんおもしろい」と語ったというのだ。もちろん、“コンセプト”は概念という意味だが、この場合は発想という意味も含まれそうだ。たしかに、乗り物がロボットに変形するという発想は、日本から生まれたものだし。で、海部氏によると、「ゲームアプリはもっともクリエイターの気持ちがストレートに出やすいコンテンツ」だというのだ。つまり、もっとも日本人の“コンセプト”をナマの形で提供しやすいのがゲームアプリというわけだ。

登壇者は最後に揃って「ぜひ世界に行きましょう!」とコメントしていたが、まさにその言葉が、「これからの日本はどうなってしまうのか?」という設問の答えのカギを握っていそうだ。いま課題の海外展開について、有意義な話を聞くことができたCRI・ミドルウェアの主催にセミナー。「世界に行きましょう!」という誘いかけに、期するものがある来場者も多かったのではないか。

 

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