[緊急単独インタビュー]グリーとポケラボ“戦略的業務提携”の真意とは? 両社のキーパーソンに聞く
2012-10-25 09:00 投稿
●“戦略的業務提携”に秘められた想いとは?
業界に大きな衝撃を与えた、グリーによるポケラボの株式を100%取得するとのニュース(⇒記事はこちら)。「戦略的業務提携を目的として」(リリース)行われた株式の取得だが、その意図はどこにあったのか? ファミ通では、グリー 取締役 執行役員常務 メディア事業本部長 吉田大成氏とポケラボ 代表取締役社長 前田悠太氏のおふたりに緊急インタビューする機会を得た。グリーとポケラボの戦略的業務提携の真意とは?
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――まずは、今回の戦略的業務提携に至った経緯を教えてください。
吉田 グリーは「グローバルのスマートフォンアプリ市場でナンバーワンを目指す!」というのを大きな目標として掲げています。その実現のために、国内外で積極的に取り組んでいるのですが、国内に関しては、ネイティブアプリ制作に対する強化がひとつの大きなテーマになっていました。そこで、ネイティブアプリに強いポケラボさんとの戦略的業務提携を決意したんです。ご存じの通り、App Storeの上位にはポケラボさんのタイトルが複数並んでおりまして、評価がものすごく高い。もちろん、ネイティブアプリ制作に対するノウハウもお持ちだからこそです。まさに、僕らが見習いたい部分だったんです。それで、僕らが目指している目標と、ポケラボさんの強みがマッチしたことから、戦略的業務提携という形になりました。
――戦略的業務提携をする上で、欠かせないポイントなどはありましたか?
吉田 ポケラボさんの独立性は確保するというのは大前提としてありました。と言いますのも、いまのスマートフォンのネイティブアプリ市場は誕生から現在までの規模に達するまでの成長スピードが非常に速いです。いまの業界のスピード感に負けずに、いまポケラボさんが持っている強みを維持するためには、独立性を保つ必要があると考えています。一方では、もちろん、お互いが持っているノウハウやご利用いただいているユーザー様のネットワークを相互に活かすことによって、事業としてシナジーが産まれることを期待しています。「独立性を保ちつつ、シナジーを産むことで、世界市場で戦っていく」というのが、“戦略的業務提携”に至った大きな背景です。
――100%株式を取得したからと言って、けっして、単純な“買収”というわけではない?
吉田 違います。そこは明確に意味合いが違うと思っています。どちらかがどちらかを買収したというわけではけっしてなくて、お互いの持つ強みを対等に展開させてシナジーを産むことが大事だと考えているんです。グループ会社として、お互いにいい意味で切磋琢磨できるライバル関係でありながら、ノウハウを共有することで、変化の激しいスマートフォンのネイティブアプリ市場で存在感を増す……これが目標になります。
――ポケラボさんサイドとしてはどうだったのですか?
前田 そもそも私たちはフィーチャーフォン向けアプリのSAPとしてやってきたわけですが、これから先、スマートフォンへの大きなパラダイムシフトを背景にして、「自分たちのポジショニングをメインストリームのど真ん中に置こう」ということで、他社様よりもいちはやく、ネイティブアプリにシフトしてきました。で、これは吉田さんも同じ認識だと思うのですが、スマートフォンはフィーチャーフォンの時代よりも、違う文脈で判断することが必要なんですね。端末の機能も違えば、マーケットプラットフォームとしての存在も違う。そんな中で、グリーさんと組むことで、「シナジーが産まれる部分がたくさんあるな」と期待しています。実際のところ、我々もグローバル展開に関しては、テスト的に展開していたりもしますが、まだまだこれからの状態です。一方で、グリーさんは成功も失敗も含めて、グローバル展開に関しては大きく先を行っていらっしゃる。いろいろなノウハウをお持ちなので、そういったノウハウをフルに活用させていただくことで、我々の目標とする「ポケラボのブランドを世界一にする」という目標に対して、ある意味“時短”ができるな、という感覚もありました。目標は“世界一”なわけですが、それを実現させるための手段として株式の譲渡が必然だと判断したんです。ちなみに、「世界一を目指す」という目標は、グリーさんもいっしょで、そういう目標を共有できる点からも、今回“戦略的業務提携”という表現を使わせていただいています。
――お互いが補完しあえることが合致していただけであって、あくまで株式譲渡はひとつの手段でしかないということですか?
吉田 そうですね。お互い持っているノウハウが共有しあえることに意味があるんです。両社が戦略的業務提携することで、いままで以上のスピード感を持って進んでいけるといいなと思っています。
――ポケラボさんの独立性を大事にするとのことですが、ポケラボのタイトルは今後もポケラボブランドで展開されていくのですか? GREE Platformに入るというわけではない?
前田 弊社はスマートフォンのネイティブアプリにあえて100%シフトして、“アプリ群”で勝負していくという戦いかたを早くからしてきました。「1本出してみてどうか?」という戦いかたではなくて、“アプリ群”として展開したんですね。その理由は、スマートフォンの“アプリ群”をつなぐネットワークで勝負したいという思いがあったからです。この戦略をグリーさんの戦略といかに中期的に重ねあわせていくかの協議を、これからしていきたいと考えています。期待するところは、独立性を確保して我々の戦略をフルに活かしつつ、プラスアルファで、プロモーションやグローバル展開といった、グリーさんが持つ強みを分野ごとに手助けしてもらって、1+1が3にも4にもなる、といった状態を作ることですね。それにより、自分たちの戦略を大きく広げつつ、グリーさんの戦略とも融合していくことができるのではないかと期待しています。
吉田 ゲーム開発やゲーム提供という意味では、両社の持つノウハウはすごく活きてきますし、どんどんシンクロしていきたいですね。プラットフォームという観点で言うと、ネイティブアプリを進める上で、よりプラットフォームの価値を考えていくタイミングかなと思っています。ポケラボさんはネイティブアプリにおいて独自性を保っているわけですが、ポケラボさんが「それでもGREEを使いたい」とか「これ(GREE)ってすごくいいね」といってもらえるようなプラットフォームになっていくことがすごく大事なのではないかという考えでいます。そういう意味では、グループ会社として、ポケラボさんのように忌憚のない意見を言っていただける存在が身近にいるのは、ありがたいことです。それがプラットフォームの価値を高めることにもつながり、より多くの方に満足していただけるプラットフォーム作りにも直結するわけですから。
――つまり、極端な話をすると、世界一になるためには、ポケラボさんのタイトルがGREEに入らなくてもいいと? プラットフォームというものを広義に捉えているわけですね?
吉田 いまはプラットフォームという言葉を定義しづらい時代なのかもしれません。そんな中で僕らは、「今後どういったものをユーザー様やデベロッパー様に提供すべきなんだろう」、というところを両社で真剣に考えたいです。それが“真のプラットフォーム”を作り上げることにつながるのではないでしょうか。
――今回の提携では、ポケラボさんのネイティブアプリに対するノウハウにグリーさんが期待されているとのことですが、グリーさんもネイティブアプリに対するノウハウは豊富ですよね。まだまだ貪欲に求めるのですか?
吉田 貪欲です(笑)。僕ら自身が満足することは絶対にないだろうと思っています。ユーザー様の楽しみかたは広がっていくでしょうし、もっともっと楽しみを求められてきます。それに対して僕らは、新しい楽しみの創出をしていくことが大事になるんです。そういった意味でも、僕らは貪欲にやっていきたいです。きっとポケラボの皆さんもそういった思いを抱いていらっしゃるからこそ、数多くのヒットタイトルを産みだしているのでしょうし、この2社がいっしょにやっていくことで、もっと化学反応が起きることを期待しています。
――ちなみに、今日発表されて、スタッフの皆さんの反響はいかがでした?
前田 つい直前までスタッフと話をしていたのですが、総じてみんなポジティブです。もともと私たちは、「本気で世界を目指す」ということを大きく掲げて、“融合”、“進化”、“飛躍”という3つを今期のテーマにしていたんですね。「その“融合”の第一弾目だ」ということで、今回の戦略的業務提携は捉えています。これは僕の持論で、つねにスタッフにも言っているのですが、これだけ変化の早い業界なので、この業界で生き残ることができるのは、変わり続けられる組織だけだと思うんですね。こうした自分のポリシーをスタッフ全員が理解してくれているので、「変わるというのはよいことだ」という意識が浸透しています。あと、スタッフに説明したのは、「ソーシャルゲームを作るうえで、日本で最高の環境をフルに活用して、ポケラボというブランドを本気で世界一に引き上げていくことに集中できるよ」ということですね。その術として今回の提携がある。その点はスタッフのみんなも納得してくれていて、「こんなスーパーエンジニアとコラボできるんですね!」、「有名なエンジニアと話ができるんですね」とスタッフのあいだからも期待の声が上がっていて、ポジティブな意見で盛り上がっています。とにかく期待値が高いです!
吉田 グリーもまったくいっしょです。弊社ではパワーランチと言って、エンジニアがプレゼンしあう機会があるのですが、「そこに、(ポケラボのスタッフが)いつ来てもらえるんですか?」という話が出たりしました。「いつ話に行っていいんですか」とか。「いや、まだ待て!」と抑えるのに苦労しています(笑)。とにかく、融合のスピード感を速くして、情報共有を進めていきたいです。いままでなかったノウハウが互いに浸透すれば、おもしろいなと。そういった意味では、両社とも貪欲ですね(笑)。
――現場のモチベーションが高くなるだけでも、意義深い提携かもしれないですね。
前田 弊社は、去年セガさんと提携させていただいたのですが、そこでの“学び”として大きかったのが、セガさんという自分たちとはぜんぜん違う文化やノウハウを持った方々とがっぷり四つに組んで共同プロジェクトを展開することで、そのプロジェクトに関わったスタッフは、すごく成長するんですね。“新しい気付き”が多いというか、わかりやすく言えば、“開眼する”。自分にない価値観を持っている人たちといっしょに仕事をして、“気付き”をきっかけにして、化学反応が生じるんですね。それが我々のささやかな成功体験としてあって、今回グリーさんと組ませていただくことで、きっと同じような“気付き”はたくさんあると思っています。その“気付き”をどれだけ多く社員に提供できるかによって、ポケラボのスタッフの成長が決まる。引いては、組織の成長が決まると思っています。そういうところを、スタッフが期待を持ってくれているのがありありとわかるんですね。そういう意味では、提携の出だしとしては、上々かな(笑)。
――ちなみに、お話に出たセガさんとの関係は今後どうなるのですか?
前田 もちろん、引き続き継続させていただきます。むしろ、セガさんとの関係もより親密に展開させていただくつもりでいます。
――目標として掲げる“世界一”を実現するにあたって、海外展開での目下の課題は何になりますか?
前田 弊社は2ヵ月くらいまえから、テストマーケティング的に『モンスターパラダイス』というタイトルを海外では45ヵ国で展開しているのですが、そこで思ったのは、世界中のユーザー様に“日本流のソーシャルゲーム”の認知度を上げることが必要だということです。つまり“畑を耕す”という行為が大事になると思うんです。どうやって畑を耕すかというと、答えはすごくシンプルで、タイトルをたくさんリリースして、とにかくユーザー様にたくさん触れていただく機会を作ることです。日本中のメーカーが協力して、海外に出ていくことで、畑は耕されるんです。で、そのなかで1位を取ろうと思ったら、ものすごく多くのユーザー様を初期に獲得して、そのユーザー様に支持されて、さらにその中で、つながりの必然性をいかにお伝えできるかがキモになると思っています。そういうソーシャルのつながりを多くのユーザー様にリーチできる手段として、グリーさんがいまお持ちのネットワークや会員規模、ノウハウを使わせていただくことで、一足飛ばしてやれるなという実感があります。それを海外で展開させていただければ……と思っています。
吉田 僕らもグローバルで数タイトルリリースしているのですが、そういった意味ではユーザー様も増えてきています。直近では『Monster Quest』がアメリカのランキングで1位になっていたりします。そういう意味では、着実にナンバーワンを目指せる基盤であったり、ノウハウが充実してきているなとは自負しています。ここから先は、複数のゲームタイトルやゲームジャンルを展開していくことが大事で、それによって新しいユーザーを獲得できると期待しています。世界を目指すパートナーを増やすことが、ひいてはお客様の喜んでいただくタイトルのリリースにつながるではないかと思っています。
――お話を聞いていると、早くもチームワークがばっちりとの印象ですね。
吉田 そうですね。両社で話していく中で、いちばん最初に将来のビジョンが合致していたというのが大きかったですね。話をしていても、共感できる部分が多いんです。実際のところ、ポケラボさんのモノ作りに対するこだわりが強くて、「何を大事にしているか」という会社の文化が、グリーと似ているんです。そういった意味では、「これからごいっしょするにしても、きっと楽しくできるだろうな」というのが見えたのが大きかったです。実際、ポケラボの方と話していても、とても気が楽なんですよ。「何も言わなくても、わかってくれますよね?」みたいな感じ(笑)。会社の文化が似ているんですね。
――ちなみに、今後、グリーブランドタイトルの開発をポケラボさんが担当するといったようなことも?
吉田 共同開発という形でも、やっていきたいなと思っています。やることによって、お互いのノウハウが共有しやすくなりますし。
――ちょっと気が早いのですが、両社が業務提携をされた成果はいつ頃出てきますか?
吉田 年内じゃないですか! 年内には何かしらの形で結果を出していくのが大事だと思っています。だからこその、ポケラボさんの独立性の維持でもあるわけですし。ポケラボさんはポケラボさんの道を進んでいただきつつ、年内に結果を出す。そのくらいのスピード感じゃないと、今回の戦略的業務提携が活きていかないですから。いまのスピード感を落とさないためにも、年内に結果を出すことは必須です。グリーのミッションステートメントにも、社員に求めるValue(行動規範)の定義で、スピードを掲げています。「とにかく速く動く!」という。何があっても速度をあげて、「グローバルで受け入れられていくものを作るんだ」ということを大事にしています。
前田 その点はものすごく共感します! この業界って、1日1日の変化が異常に速いじゃないですか。そういった意味では、「速い」という感覚ひとつをとっても、ふつうの感覚ではダメだと思うんです。スピード感をもって我々もやっていきたいです。その上で、いっしょにやらせていただいて出るシナジーって、すごく多岐に渡ると思うんです。共同開発はわかりやすい例ですが、ほかにもプロモーションでグリーさんのネットワークを使わせていただいて、圧倒的にユーザー様が集まる……といったこともあるでしょうし、グリーさんのタイトルとのコラボもできるかもしれません。組織の話では、クリエイターどうしが相互に交流して、ノウハウの共有を図ったりといったこともあり得るでしょう。何はともあれ、明日からでも、スピード感を持って融合を進めて、速くシナジーの結果がわかるようなタイトルを提供していきたいです。今後にご期待ください。
「年内には結果を出す!」とソーシャルゲーム業界らしいスピード感を持って、両社の戦略的業務提携の成果を明らかにしたグリー吉田氏。おふたりの話を聞く限りでは、「両社が同じ方向を見ている」というのが提携の決め手となったようだ。両社が期待する化学反応によってどのような新しいソーシャルゲームが生まれるのか? 大いに期待したい。
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