“新次元ゲーム開発セミナー”が開催! グリーの気鋭が語る、次世代のモバイルゲーム開発で求められるものとは?
2012-10-18 23:16 投稿
●モバイル新時代にあたり、ゼロベースで考えてみるべき
2012年10月18日、都内にてオートデスク、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン、グリー共催による“これからのモバイルゲームはこう創る! 新次元ゲーム開発セミナー”が開催された。モバイルゲーム開発で大きな存在感を見せる3社合同によるこのセミナーは、ゲーム開発者を対象に、今後のモバイルゲーム制作の動向を語るというもの。iPhone5の登場などに象徴されるように、モバイルゲームの主戦場である、スマートフォン端末の性能は、いまや日進月歩で進化しているのはご存じの通り。クリエイターにとって、“できること”の幅が広がるのはうれしいことである反面、技術の投入には多大なるコストがかかり……と、悩ましい問題でもある。今後のモバイルゲーム開発にとって、「何ができるのか?」、「何をすべきか?」というのは大きなテーマとなることは間違いない。3社により行われたセミナーは、そんなモバイルゲームの今後の指針を示す興味深い内容となった。
セミナーは、3社による“キーノートセッション”で幕を開けた。まず登壇したのは、オートデスク メディア&エンターテインメント 本部長 吉崎哲郎氏。“Maya”や“3ds MAX”など、業界最大手のグラフィックツールメーカーとして知られるオートデスク。それらのツールはモバイルゲーム向けでも大きなニーズがあるが、まずは吉崎氏はモバイルデバイスを取り巻く市場変化に言及。Android端末は世界で4億台以上普及しており、ゲーム市場を牽引するのは依然としてコンソールゲームではあるものの、「市場にある台数を見れば、モバイル端末のほうが魅力的と言える」(吉崎氏)とコメントした。とはいえ、モバイルゲームマーケットの環境も変化しており、“プラットフォームの多様化”、“開発参入企業の増大による競争の激化”、“コンソ-ルゲームの変化”、“グローバル化”がもたらされているとのこと。今後問われるのは、やはり開発力の強化で、吉崎氏は、“リッチコンテンツによる差別化”、“効率的な開発パイプラインの必要性”、“マルチプラットフォームへの柔軟な対応”、“グローバル開発体制への対応”が今後は求められるとまとめた。
おつぎに登壇したのは、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン合同会社 日本担当部長 大前広樹氏。同社が提供する“Unity”は、ご存じの通りモバイルゲームを開発するうえで、もっとも重宝されているツールのひとつ。iPhone5の登場により、「性能的にはゲーム専用機に追いついてしまった」というモバイル端末だが、「コンソールゲームを作ればいいというものでもなくて、モバイルには独自の文法があります」と大前氏は断言する。現在作られているモバイルゲームは、ちゃんとプラットフォームを分析した“正解”を導き出しているというのだ。一例として、大前氏は『CSR Racing』を挙げ、同作が月商1200万ドル(!)の成功を収めていることを教えてくれた。
こうした現状をわきまえて、大前氏が提案するのが、「一端、ゼロベースで考えてみないか?」というもの。いままで割に合わないと思って取り込んでこなかったことも、新しいハードの登場や環境の変化などにより、取り組む価値が生じているかもしれない。つまり、先入観にとらわれずにいちから見直せというのだ。いまや技術の進化などにより、大きくコストをかけずとも、豊かな表現が可能になっている。なかでも、いまいちばんの注目は、“キャラの表現”だと大前氏は言う。大前氏は、Softimageに搭載されている“Face Robot”のテクニカルデモを披露し(※)、モバイルゲームでも、コンソールに負けないクオリティーのキャラ表現が可能になることを例示したうえで、「キャラクター表現は、コスト対効果がすぐれた領域」(大前氏)なのだと説明した。ゲーム開発を考えたときにポイントとなる、“時間”と“お金”と“クオリティー”。この3つの要素を全部同時に選ぶことはできないと大前氏。何を取って、何を諦めるのかは、ゲームクリエイターにとっての永遠のテーマとなるのかもしれない。
※“Face Robot”は正しくは、オートデスクの“Softimage”に搭載されている機能でした。訂正してお詫びします(2012年10月19日 午後4時30分追記)。
“キーノートセッション”の最後に登壇したのは、グリー 開発本部 CTO室 芳賀洋行氏。芳賀氏はまずは、現状のモバイルゲーム市場を解説。ユーザーには“スマートフォンの急速な浸透と顧客ニーズの多様化”がもたらされており、一方でデバイスでは“処理能力、通信速度が急速に向上している”と説明したうえで、今後開発者に求められるのは、“表現範囲の拡大”と“迅速な開発”にあると語った。では、どのようにすれば開発者に求められるポイントをこなしていけるのか? そこで芳賀氏は、今後のことを考えるためには、まずは現状を認識する必要があるということで、現状のモバイルゲームの開発状況を分析し、つきつめると“3×3×6”であるとした。これはどういうことかと言うと、最初の“3”は、ゲームのグラフィック要素のことで、“UI(インターフェース)”、“ゲーム空間”、“シネマ”のこと。おつぎの“3”は、グラフィック要素に必要なコンテンツのことで、“背景”、“モノ”、“効果”だ。ゲームのグラフィックは、グラフィック要素・3と、必要なコンテンツ・3の3×3の9つから構成されていることになる。
最後の“6”はポイプラインに関するもの。パイプラインというと、少し耳慣れない言葉だが、ものの資料によると、「複数のプログラムの入出力をつなぐための仕組みのひとつ」ということらしい。ゲームでは、画像(2Dパイプライン、3Dパイプライン)、動画(動画制作2D、動画制作3D)、再生エンジン用(Flash制作、3Dデータ制作)の6種類のパイプラインがあるのだと、芳賀氏は言う。つまり、ゲーム制作は、つきつめると9つのグラフィック要素をいかに6種類のパイプラインで描くか……ということになる。
モバイルゲーム開発のテクノロジーが進化しているとして、今後クリエイターに問われるのは、この“3×3×6”の要素のうち、どこを、どう変えるか。「ゴールを明確にして、なぜ変えるのかをはっきりしないといけない」と芳賀氏。すべてを変えるとなったら、コストもかかるし時間もかかる。「変えたいから」といった漠然とした理由はもちろん通用しなくて、「新規ユーザーを獲得するため」、「より長くユーザーに遊んでもらうため」というはっきりとした理由付けが必要になる。そのうえで、「明確な優先順位をつけて、開発に取り組むべきです」と芳賀氏は言う。
そのうえで芳賀氏は、グリーでの取り組みの具体例として、自身がエンジニアリーダーを努めた『どうぶつフレンズ』を挙げ、同作ではほぼすべてのグラフィック表現を、“Flash静止画制作2D”で行なっていることを教えてくれた。さらに『どうぶつフレンズ』では、大きなひと工夫が! 『どうぶつフレンズ』の開発はUnityで行なっているのだが、UnityはFlashをサポートしていない。そこでグリーでは、FlashでもUnityを動けるようにする“Lightweight SWF”を開発したというのだ(⇒リリースはこちら)。
“キーノートセッション”のあとに行われた、グリー 開発本部 CTO室 坂本一樹氏による“グリー流新次元ゲーム開発”と題された講演では、その“Lightweight SWF”が開発されるまでの経緯が説明。“豊富なキャラクター”と“多彩なアニメーション”を目標に制作された『どうぶつフレンズ』が、“Lightweight SWF”のテクノロジーなどを得て、いかに滑らかな動きを獲得するに至ったかが明らかにされたのだ。一見、癒し系のビジュアルに見える『どうぶつフレンズ』だが、その裏では最先端のテクノロジーが導入されていたというわけ。北米などで『Animal Days』(英題)として先行配信された『どうぶつフレンズ』の国内リリースはこれから。国内で配信された暁には、その豊かな表現を堪能してみてください。
ちなみに、この“Lightweight SWF”は、坂本氏の講演の最中に“github(ギットハブ)”にてオープンソースとして提供が開始された(⇒こちらからダウンロード可能)。記者は不勉強にも知らなかったが、“github”とはソフトウェア開発プロジェクトのための共有ウェブサービスで、世界中の多くの開発者に利用されているらしい。坂本氏が講演で、「“Lightweight SWF”を“github”でオープンソースとして提供します」と発言したときには、会場からささやかなざわめきが沸き上がっていたのが印象的だった。“Lightweight SWF”のような有用性の高いシステムが無償提供されて、より技術が成熟していくのもモバイルゲームならではの流れなのかも……と、思った次第だ。
スマートフォンの性能がぐんぐん向上して、モバイルゲームの描画能力が飛躍的に豊かになるのは必然の道。高い開発力が必要になると、それだけコストが跳ね上がるのも致しかたのないところだが、オートデスクのツールやUnityは、コストを抑えつつも、豊かな表現を実現してくれるという意味においても、開発者にとって極めて有用性の高いテクノロジーと言える。そして、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンの大前氏が語るように、モバイルゲームには独自の文法がある。今後モバイルゲームの開発にあたっては、優先順位を見極めつつ、いかにバランスよく開発に取り組んでいくかが、ひとつの方向性となるのだろう。
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