【TGS 2012】DeNA小林氏などアジア4ヵ国のキーパーソンが語る、各国のソーシャルゲーム事情

2012-09-21 06:00 投稿

●日本、中国、韓国、インドネシアのソーシャルゲームの未来はどうなる?

今年で3回目を数える“アジア・ゲーム・ビジネス・サミット2012”は、アジア圏を中核としたゲームビジネスの拡大を目指す国際会議。アジア圏の主要ゲームメーカーのキーパーソンが一堂に介し、ゲームビジネスの展望についてディスカッションする場になっている。今年のテーマはずばり“ソーシャルとモバイル”。日経BP執行役員 浅見直樹氏をモデレーターに、アジアのモバイル関連4社が参加。アジアの現状と、これからの成長の方向性などについて語り合った。まずは、参加した4名を紹介しよう。

中国
人人(レンレン)上級副総裁(SVP)兼 レンレンゲームジャパン 代表取締役社長 何川(カ・セン)氏

インドネシア
Agate Studio(アガテスタジオ)COO シェニー・アプリリア氏

韓国
NHN ハンゲーム スマートフォンゲーム事業部 理事 チェ・ユラ氏

日本
ディー・エヌ・エー(DeNA)取締役 小林賢治氏

▲人人(レンレン)上級副総裁(SVP)兼 レンレンゲームジャパン 代表取締役社長 何川(カ・セン)氏。

▲Agate Studio(アガテスタジオ)COO シェニー・アプリリア氏。

▲NHN ハンゲーム スマートフォンゲーム事業部 理事 チェ・ユラ氏

▲ディー・エヌ・エー(DeNA)取締役 小林賢治氏。

簡単に各社の紹介をすると、レンレンは、開発スタッフ600人以上を擁する、中国最大のモバイルオンラインゲームメーカーで、この1年でリリースしたソフトはゆうに20本は超える。急成長を遂げている中国ソーシャルネットワークゲームの旗手的存在と言える。インドネシアのアガテは、2009年4月に設立したソーシャルゲームメーカー。「楽しむことを忘れない」をキーワードに、インドネシアのゲームユーザーの心をがっちりと掴み急成長。設立3年あまりで、スタッフが18人から77人へと大躍進を遂げている。ちなみに、東京ゲームショウへは、インドネシアからは初参加になるとのことだ。NHNハンゲームとDeNAは、日本のゲームファンにはおなじみだろうから説明は割愛する。

なお、ソーシャルゲーム業界でも屈指の論客として知られる(と、記者が目している)DeNAの小林氏は、イントロダクションの会社説明の代わりに“日本のソーシャルゲームの可能性”について言及。ソーシャルゲーム業界は、わずか数年でゼロから数千億円規模まで成長し、2012年には3429億円となる見込みであると説明。それは、コンソールを超える規模感であるとのことだ。翻るに世界では、ご存じの通りCygamesの『神撃のバハムート』が全米でナンバーワンを獲得。小林氏いわく、「これは大きな転機」とのこと。なぜならば、これまで日本のような高水準のARPU(通信事業者の1契約あたりの売上をあらわす数値)は、海外では達成不可能と言われていたものが、海外も日本も変わらないことが証明されたからだ。「成功事例があると動き出す」ということで、『神撃のバハムート』が起点となっていまや国内タイトルの相当数が全米ランキングでランクインしているという。「日本のソーシャルゲームが世界を席巻できると思っているし、そのチャンスだと思います」と小林氏。

サミットのメインテーマとなったのは、“境界線なきソーシャル&モバイルゲームの時代到来!? アジア圏で勝ち残るゲームビジネスとは”というもの。サミット自体は、浅見氏が提示したテーマに対し、各者が答えていくというスタイルで行われた。まずは、各国のスマートフォンのOSのシェアに関しては、いずれもAndroidがトップとのことだが、興味深いのは、韓国の市場。機種の乗り換え比率が高い韓国では、ただいま国民の半分以上がスマートフォンユーザーとのこと。なかでもAndroidの成長が著しく、シェアは70%を占めるのだとか。iPhoneではギフトカードが認められていないので、決済はクレジットカードのみ。勢い、クレジットカードが使えない若者には、Androidに人気が集まるという事情があるのだという。そのため、ゲームを開発する際も、どの層をターゲットにするかで、リリースするOSを検討するらしい。

中国では、端末の普及台数を考えるとAndroidが主流だが(およそ50~60%)、収益から判断するとiOSのARPUのほうが4~5倍高いとのこと。「とはいえ、将来はAndroidがトレンドになるでしょう。多くのユーザーベースで大きな可能性がある」と何川氏。

小林氏は、アメリカはiOSのみとのこと。Androidはやらない手はないが、フラグメンテーションが悩ましいと小林氏は言う。フラグメンテーションとは“断片化”との意味だが、さまざまな機種が混在するAndroid端末では、機種間のスペックが異なり、結果として統一化を図ることができない。そこで、開発を難しくしている状態を指すようだ。とはいえ、やはりiOSもAndroidも両方攻めたい。というわけでDeNAでは、マルチプラットフォーム向けのツール(おそらく“Post Ex Game・仮称”)を開発し、作業工程を減らすことに成功したのだという。

一方、インドネシアのアガテでは、現状フィーチャーフォン用の開発が主流で、特定のプラットフォームに焦点をあてるようなことはしていないとのこと。「ゲームをいかに楽しんでもらうかが重要なので、プラットフォームとしては決めていない」(アプリリア氏)というのは、ゲームメーカーとしてのひとつの明確な方向性と言えるだろう。

“高性能化するスマートフォン、ゲームの開発コストは高くなる?”との設題に関しては、各者とも「バランスを取る必要がある」との意見で共通したものの、さらに踏み込んで興味深い意見を披露してくれたのがDeNAの小林氏だ。「スマートフォンの開発費自体はフィーチャーフォンの初期のころよりも上がっているが、意志を持って抑えるべきです」と小林氏は明言。「どんどんリッチになれば、ユーザーがありがたがるのか、本気で考えたほうがいい」(小林氏)という。小林氏が開発費を抑えたほうがいいと思う根拠は明確にふたつ。ひとつは、ユーザーはリッチな画像のゲームも遊びたいが、ライトでシンプルなものも遊びたいから。もうひとつは、純粋に収益上の兼ね合いで、たとえば、DeNAの大ヒット作『怪盗ロワイヤル』では、ARPUのDAU(1日にサービスを利用したユーザーの数)をあげるために、月4回のイベントを2年間続けているが、そのコストワークを維持できないようであれば、逆に損になるからだ。チームをコンパクトにしてフットワークを軽くするほうが、ソーシャルゲームの運営ではプラスに働くことも多い。スマートフォンになって人が増えるかというと、そうはならないというのだ。

いまソーシャルゲーム業界のひとつの懸案事項である“人材について”では、レンレンの何川氏は「中国には多くの労働力があるが、有能な人材を見つけるのは難しい」と語ったあとで、人材確保の秘訣はふたつあるとして、「会社にいい文化があること」、「人材を満足させること」と列挙。いい人材確保のためには、よい組織を作って、十分なサラリーを払わなければならないと続けた。

韓国のチェ・ユラ氏は、人材確保のために学校を作ったとNHN ハンゲームの取り組みを紹介。その学校では、現役のクリエイターなどが後進の指導にあたっているようで、相当実践的な教育を行なっているようだ。ちなみに、必要とされる人材に関しては、「自分が行なっていることに対して、情熱を持って取り組める人。徹夜も厭わない人」とユラ氏。

DeNAの小林氏も、「日本でも人材確保は容易ではない」と語ったうえで、「いちばん重視しているのは、ユーザーさんに対する想像力をどれだけ持っているか、ユーザーさんの好みをふつうの感覚で判断できる人」(小林氏)とのこと。その感覚はじつはとても稀有らしく、ともするとクリエイターは自分の作りたいものを作ってしまう。ユーザーの好みをふつうの感覚で判断できる人が多ければ多いほど、すぐれたゲームになると小林氏は説明。そこで小林氏が、そうした配慮が行き届いたすぐれたコンテンツの一例として挙げたのが、NHNが展開するLINEだ。LINEは一見、AさんとBさんがふつうに会話する、ログインの必要がないSkype+スタンプというおもしろいサービスのように見えるが、実際に触ってみるとじつはまるで違う。随所に作り手の配慮が行き届いており、「ユーザーさんはこれに触れてどう思うか?」という点を考慮して、しっかりと作り込まれているというのだ。「ユーザーさんはいいものと悪いものを明確に見分ける力を持っています。ユーザーさんの判断力を侮ってはいけないし、最大限に配慮すべきです」と小林氏は的確に分析する。

インドネシアのシェニー・アプリリア氏にとって、人材確保の競争相手は国外企業。アガテができるまでは、多くの優秀な人材は国外に出ていたのだという。それがアガテ設立以降は、インドネシアに留まってくれる人材も多くなったのだとか。いまアガテでは、地元の大学と協力して、新しい人材の確保に努めているのだという。これなどは、ゲームが国内産業の振興にひと役買った一例とも言えるだろう。

“海外展開についてどうするのか?”との問いに対しては、DeNAの小林氏が切り出したのは、ソーシャルゲームの来歴。ソーシャルゲームはけっして急に現れたものではなく、格闘ゲームやMMORPGといった、コミュニケーション要素の楽しさの延長線上に生まれたものであると小林氏は言う。そして、格闘ゲームやMMORPGの楽しさを知っている世代は、けっしてゲームが嫌いになったわけではなくて、ゲームを遊ぶ時間が取れないからだと続ける。端的に言うと忙しい。とはいえ、いくら人間の消費時間は限られているとはいっても、“ちょっとした隙間時間”や“何かをしながらのちょっとした時間”というのは随所に潜んでいて、その隙間に入り込んだのがソーシャルゲームだという。小林氏の講演ではあまりにも有名になってしまったが、1日平均7分×5回のアクセス=35分がソーシャルゲームのプレイ時間、というわけだ。まとめて35分を取るのは難しくても、1日7分を5回をこまめに取ることはさほど難しいことではない。そして、その状況はグローバルでもいっしょだと小林氏は言うのだ。海外ユーザーの隙間時間に入り込めれば、海外市場でも日本のゲームは十分に受け入れられるというわけだ。

そして小林氏は、アジア市場への展開に関して以下の通りに答えている。「日本国内の人口が減っている一方で、アジア地域では増えています。そしてインフラも整備され……と、成長する余地があるアジア市場は魅力的です。一方で、海賊版問題などもあり、これまで日本のゲーム業界が得意な地域というわけではけっしてありませんでした。近いようで遠い。それがアジア市場でした。いま、スマートフォンのボーダレス化にともない、この地域で展開する余地は大いにあります。個別に攻めるのではなくて、日本のデベロッパーみんなで展開して、いっしょに勝ちたいです」(小林氏)。

今後日本のソーシャルゲームがグローバル展開するうえで、アジア市場攻略は不可欠なものとなりそうだ。近いようでいて遠いアジア。そんなアジアのソーシャルゲームの現状を知ることができた、興味深いサミットだった。

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