【注目アプリレビュー】iOS版『ダンガンロンパ』で希望と絶望が入り混じる余韻に浸れ

2012-08-29 19:39 投稿

●人間の本性が露になる、極限状態のドラマ

本作は、2010年11月にプレイステーション・ポータブル(以下、PSP)で発売された『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』のiOS移植版だ。スマートフォン用に調整された箇所もあるが、基本的なゲーム内容はPSP版と同じ。物語は6つのCHAPTERで構成され、そのうちプロローグとCHAPTER1終了までを無料体験版としてプレイ可能だ。これだけでもゆうに数時間は遊べるボリュームがある。本作の概要を知るためには十分なので、まずはCHAPTER1まで遊んでから判断するといい。

ダンガンロンパ』は、端的に言えば“閉鎖空間での殺人事件”をテーマにした推理アドベンチャーである。もう少し正確に言うならば、『SAW』『バトルロワイヤル』『ライアーゲーム』といった映画や小説に代表される、ソリッド・(シチュエーション)スリラーと呼ばれるジャンルに近い内容だ。これは“限定空間からの生還・脱出劇”とも言うべきシナリオ構造のことで、主人公は突然説明も前触れもなく不条理な状況下に放り込まれ、多くの場合は命がけの生き残りゲームに参加させられる。そして、そこで描かれる“極限状態のドラマ”と、“不条理な状況が許される世界の謎”が大きな見どころになる。

個人的には“生存本能を刺激するゲームルール”“理性のタガが外れた人間のリアリティ”“世界全体の仕組み”の3点がソリッド・スリラーの納得感と満足感に影響すると考えるが、結論から言うと本作には非常に満足している。無我夢中で遊び、素直に物語に没入し、とても楽しませてもらった。ゲームというメディアを活かしたさまざまな遊びも内包され、とりわけキャラクターの個性を含めた演出面はかなり強烈だ。ブラックで悪趣味なネタが満載なのに、笑い飛ばしたくなるような痛快なユーモアセンスが全編を貫いており、後味は意外にスッキリしている。そのせいか、プレイ後には希望と絶望が入り混じった不思議な余韻が残った。前置きがやや過ぎた感もあるが、ここからはネタバレに極力配慮しつつ、具体的な本作の内容に迫ってみたいと思う。

 

『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生』のここが
・極限状態のドラマにグイグイ引き込まれる
・テンポがよくトリップ感を味わえる学級裁判
・伏線をしっかり回収してスッキリ物語が終わる
ここが×
・建物内の移動が若干操作しにくい
こんな人にオススメ
・ソリッド・シチュエーションホラーが好きな人
・推理アドベンチャーが好きな人

●希望の学園で突如始まる、絶望の学生生活

あらゆる分野で超一流の高校生を集め、育て上げるために設立された“私立 希望ヶ峰学園”がゲームの舞台。プレイヤーはこの学園に入学を許可された主人公・苗木誠として行動。超高校級の生徒15人のひとりとして、学園長と称するぬいぐるみ“モノクマ”の監視の下、“卒業”を賭けたサバイバルに強制参加することになる。本作で提示された理不尽な生き残りゲームのルールは以下のとおり。

一、学園の生徒は、原則として一生を学園内で過ごさなくてはならない
一、殺人を行った場合、殺人者は“クロ”になる
一、犯行が確認されると生存者全員で“捜査”および“学級裁判”を行い、全員がクロだと思う人物に投票する
一、投票の結果、クロの得票数が最多だった場合、クロが“おしおき”を受けて処刑される。そうでなかった場合、クロ以外の全員が“おしおき”を受けて処刑され、クロは卒業できる

▲モノクマのキャストは『ドラえもん』から5年ぶりに声優業に復帰した大山のぶ代。例の口調で物騒なアイテム名を読み上げたり、殺し合いを促したりするのは何とも妙な雰囲気(笑)。ほかにも大物人気声優が多数出演しており、個性的な登場人物に命を吹き込んでいる。

要するに、学園から出たければ殺人を行い、なおかつ投票が終わるまでにほかの生徒を欺かなければならないわけだ。このルールの怖いところは、誰かが殺人を行った時点で、クロかクロ以外全員のどちらかの命が失われることが確定することだ。さらにクロを断罪し続けたとしても、おそらくは自分が最後のひとりにならない限り脱出はできないと予想される。そう考えると、特定の誰かと仲よくなることは、何だかとても空しいことのように感じてしまう。それでも序盤は皆が冷静に振舞っているが、業を煮やしたモノクマは怪しい情報を伝えたり、ルールを追加して殺人が起きやすくなるよう仕向けてくる。学園の外の状況はまったくわからず、生徒たちの不安は募る一方。そしてついに、誰かが殺人を起こすタイミングが訪れてしまうことになる。

▲学園の生徒はすべからく“超高校級”の才能を持つ。主人公の苗木は平均的な学生から抽選で選ばれた“超高校級の幸運”を持っているらしい。

▲入学式当日、学園の玄関ホールで苗木は意識を失い、教室で目を覚ます。そこは外界から隔絶され、予想した学園とはまったく違う絶望の空間だった。

常識的に考えれば、15人もの生徒が何日も行方不明になれば家族や警察、マスコミが黙っているはずがない。いずれは助けが来るはずだし、あるいは大規模なイタズラというオチも考えられなくはない。しかし、そんな淡い期待は不安と焦燥、疑心暗鬼に黒く塗りつぶされていき、最初の犠牲者が出た時点でいやでも非情な現実を認識させられる。

●3つのパートで“クロ”を暴け!

各章は(非)日常編、捜査編、学級裁判の3つに大きく分かれ、それぞれゲーム内容の一部または大部分が異なる。ここでは、各パートについて簡単に説明していこう。

▲舞台となる希望ヶ峰学園には“絶望ホテル”もあり、ふだんは各生徒が与えられた部屋に寝泊りすることになる。

○(非)日常編
FPS視点で学園内を散策し、ほかの生徒と情報交換をしたり、交流を深める比較的平和なパート。章が進むに従って移動できるフロアが増えていく。このパートには自由行動時間があり、いっしょに過ごした人物の好感度が上がっていく。好感度に応じて”通信簿”に書かれた人物情報が更新されるほか、学級裁判を有利にするスキルを習得することもある。

▲本作の好感度は恋愛ゲームのそれとは異なり、エンディングなど後半の展開に影響を与えるわけではない。

▲会話中に白く表示されたキーワードは、タップするとより詳しい情報を聞き出せる“リアクション・トーク”。

○捜査パート
殺人事件が発生したあと、学園内を捜査するパート。怪しい箇所を調べて、クロを特定できるすべての証拠品や情報――言弾(コトダマ)を集めることが目的だ。ほかの生徒たちも独自の判断で動いており、ときには協力することもある。

▲一度調べた場所も、再度徹底的に調べなおそう。怪しいものは、言弾として手帳に記録されていく。

▲すべての言弾が集まると、学級裁判へ向かう。この時点である程度犯人の目星はつけておきたい。

○学級裁判パート
生存者全員が一堂に会し、クロを決めるために話し合いを行う。このパートはスタイリッシュな演出が施され、ほかのパートとは異なるアクション性の高い内容となっている。基本的には矛盾する発言に対し、セットした言弾をぶつけて論破していく“ノンストップ議論”をメインに展開。裁判が進むとキーワードを完成させる“閃きアナグラム”、リズムに合わせてタップする“マシンガントークバトル”、コミックのコマを埋めて正しいストーリーを作る“クライマックス推理”などさまざまなモードが登場。時間制限+ゲージ制で、タイムやゲージがなくなるとゲームオーバー。

 
▲学級裁判は15人が円形に並んで議論を行う。スピード感あふれる展開とあいまって、トリップ感を味わえる。

 

こうして犯行を検証していくクロを追い詰め、最後に投票を行う。これによって本当のクロがあぶりだされると、モノクマのおしおきタイム。生存者全員の目の前で、クロの処刑が実行される。

●希望と絶望に彩られた、ハイスピード推理アクションの世界へ!

物語をひととおり終わらせるだけでもかなりのボリュームを誇る『ダンガンロンパ』だが、2周目以降にもやるべきことはたくさん残されている。とくに、好感度を高めることで埋まっていく“通信簿”で判明する、ほかの生徒たちのプロフィールは非常に興味深い。また、学内の探索中や学級裁判の報酬として手に入る“モノクマメダル”集めも楽しい。このメダルは自由時間に使う“プレゼント”がもらえるガチャや、さまざまな要素をアンロックするために必要となる。これらを回収するための周回プレイで思わぬ伏線に気付かされることもあり、シナリオ重視の作品でありながら、複数回遊ぶ理由と意味が用意されている。

最後にスマートフォン版ならではの要素に触れておくと、原作よりも美しい高解像度の画面で楽しめて、PSPの廉価版より1000円近く安い(一括購入の場合)のはうれしいポイント。ゲームのほうも、リアクション・トークなどタッチスクリーンで快適になった部分は少なからずある。個人的にはスクリーンの左半分で視点を動かし、右半分で前進する学内の移動は連動させにくくもどかしさを感じたが、エリア間の瞬間移動が可能だったり、前述のように快適になった部分も多く、欠点というほどには感じていない。

ともあれ、独特の余韻を残すゲームであることは間違いなく、図らずもこういった雑文を無駄に長々と書き連ねたくなる。そんな過剰な熱量を発生させる魅力を持った作品である。こういうゲームがしっかり評価されて結果を残すことは、ゲーム業界にとって幸せなことだと思うし、健全なことだと思う。PSPではこの7月、続編の『スーパーダンガンロンパ2 さよなら絶望学園』も発売されたばかり。本作が気に入ったならば合わせて楽しんでみてはいかがだろうか。(バロンマサール)

ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生

メーカー
スパイク・チュンソフト
配信日
配信中
価格
プロローグ~CHAPTER1終了まで無料配信、CHAPTER2~CHAPTER6まで各 500円[税込]、CHAPTER6までのセットパック2000円[税込]
対応機種
iPhone4/iPhone4S/iPad iOS 5.0以上、Android 2.2以上 、RAM1G、デュアルコアCPU搭載機種

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