【CEDEC2012】セガ『大戦絵巻』シリーズの生みの親がスマホゲーム作りのノウハウを伝授!

2012-08-21 22:24 投稿

●アーケードとスマホゲームの共通点とは?

2012年8月20日からパシフィコ横浜で開催中のゲーム開発者向けのカンファレンス、Computer Entertainment Developers Conference 2012(CEDEC 2012)。ここでは、その中で行われた講演“~他分野の技術をゲーム開発に利用するには~ アーケードゲーム制作のノウハウを、スマフォ向けゲーム制作に注ぎ込むとこうなった”の様子をお届けしよう。同講演は、セガでアーケードゲーム部門のディレクターを務めている、平魯隆導氏を講師となって行われた。なお、平魯氏は、iPhoneの登場以降はスマートフォン向けゲームの制作も行っており、『大戦絵巻』シリーズを主導している。

[関連記事]
※【取材記事】セガの開発者が立命館大学生にゲーム開発のイロハを明かす
※【まとめ】『百鬼大戦絵巻』攻略ページ

▲株式会社セガでAM研究開発本部ディレクターを務める平魯隆導氏。

本講演は、“アーケードゲームのゲームデザイン手法のノウハウ注入事例紹介”と、“ノウハウ注入が困難(?)だった事例紹介”という2本のトピックにより構成された。

●ゲームを女の人に置き換えると、魅力的なゲーム作りのヒントが見えてくる

“アーケードゲームのゲームデザイン手法のノウハウ注入事例紹介”では、まずスマートフォンゲームとアーケードゲームは似ているという点が挙げられた。それは、通りすがりの人に「おもしろそうだ」と思わせて興味を持たせるためには、通行人(ユーザー)に違和感とインパクトを与えなければならないという点にあるという。アーケードゲームは、そのために機械の外観に趣向を凝らし、通行人(ユーザー)の視覚にフックを掛けるのだそうだ。平魯氏は、このノウハウをスマートフォンゲームにも活かして、『大戦絵巻』シリーズを生み出した。『大戦絵巻』シリーズでは、『平家物語絵巻』を『百鬼夜行絵巻』という、誰しもが一度は見たことがありながらも、これまでに無いモチーフを採用することで、ユーザーの視覚にフックをかけているのだ。

▲アーケード筐体での一例。銃の照準と、画面の上下左右にランプが連動しており、インパクトのある筐体となっている。

▲こちらが、通行人の目を引きとめるよう意識して作られたアイコン。確かに、女の子アイコンやポップなアイコンが並んでいるなかに、これがあったらまず目をとめてしまう。

しかし、通行人(ユーザー)にインパクトを与えただけでは、まだ通行人は通行人でしかない。平魯氏はこれについて「アーケードゲームに100円を入れようかどうしようか悩んでいる人の背中を押すためには、一芸が必要」、「お金を入れてもらえるかどうかは、”世界初”をいくつ搭載できたかで勝負が決まる」、「そしてこのノウハウは、アーケードもスマートフォンも変わらない」と語る。「100円を払ってでもやってみたい」と思わせるインパクトこそが、”最初の100円”の呼び水になり、”タダの通行人”を”お客様”へと変える一芸なのだ。それを証明するように、『大戦絵巻』シリーズには、”世界初の絵巻グラフィック”、”世界初の歴史的浮世絵師が夢の競演”、”世界初の和楽×光吉ボーカル曲”、”世界初のTDなのにオンライン機能搭載”、”世界初のTDなのにカード種類が200種越え”、”世界初のTDなのにデカキャライオンパレード”と、多様な世界初が盛り込まれている。

▲ゲームセンターをステージへと変える、世界初の試みが採用された一例。

▲「ディフェンスストラテジーのくせに」という表現の中に、平魯さんのユーモアを感じる。

続いてのポイントは、ゲームバランスのデザイン設計。パラメーター調整やエネミーセッティング、タイムコントロールなどを駆使して、ユーザーの情感をデザインする手法が、スマートフォンゲームにも転用できるとのこと。いかに”最初の100円”を引き出したとしても、ゲームバランスが整っていないと、”次の100円”には繋がらない。アプリで言うと、1回遊んだらすぐに削除されてしまうということだ。これを防ぐために、平魯氏はアーケードでも使われている2段階の手法を、スマートフォン市場にも利用しているという。ひとつ目は、”最初の3分間で、面白さをいきなりフルスロットルで体感させる”ということ。アーケードゲームには、”プレイ時間=3分間100円”という暗黙のセオリーがある。これは、回転率を上げつつ、プレイヤーにある程度の満足感を与え、しかし多少の食い足りなさを感じさせるための黄金律なのだそうだ。そして、これはスマートフォンゲームにも合致する。それは、多くのスマートフォンユーザーは、電車に乗っている間や、寝る前のちょっとした時間に、ゲームを利用するからだ。これらのゲーム環境と、1プレイ=3分間というセオリーは相性がいい。『大戦絵巻』シリーズでもこれは採用されており、倍速ボタンを押せば、1プレイがキッカリ3分に収まるようになっているという。

▲倍速を使わなければ、1プレイ9分となるので、じっくり遊びたい人は普通に遊んでみるといいだろう。

ふたつ目の手法は、“プレイヤーに脳汁を出させるための工夫”。”脳汁が出る”とは、簡単に言えば、ゲームをしていて興奮状態になり、脳がトロけるような感覚に襲われる状態を指す。平魯氏は、どういったシチュエーションで人は脳汁を出すのかをリサーチし、それをゲームに活かしているという。その一例として、プレイヤーの脳に、ある程度のストレスやプレッシャーをかけて苦しい状況を作り出し、直後にその手を緩めるといった手法が紹介された。こうすることで、ストレスが踏み台となり、成功時のカタルシスが大きく増幅し、プレイヤーに満足感を与えるのだという。『大戦絵巻』シリーズでは、このストレスとカタルシスの繰り返しを、主に敵の出現数を調整することで生み出している。

▲平魯氏が調べた、脳汁が出る状況の一例。これを参考に、ゲームバランスを組み立てていくそうだ。

▲プレイヤーの首を絞めてから緩める。この活かさず殺さずのバランス設定が、快感を得るポイントなのだという。平魯氏曰く「マゾヒストかよ!」とのこと。

最後に紹介されたノウハウは、“システム設計をするときに必ずBlack Boxを用意する”というもの。つまり、ユーザーの知りえない要素を必ずゲームに仕込んでおくということだ。どんなにゲーム設定がおもしろくとも、思い通りにトントン拍子で事が進んでしまうと、ゲームが作業となってしまい、早く飽きられてしまう。それを回避するために、プレイヤーからのアプローチで干渉しえないAIや、乱数の要素を盛り込むのだという。また、Black Boxを用意すれば、作業感覚を払拭できるという効果のほかにも、プラスの効果が生まれるという。それは、プレイヤーに自己弁護と自己陶酔の機会を与えられるという効果だ。たとえば、運が絡まる要素があれば、ミスをしても「今のは運が悪かっただけ」と自己弁護する余地が生まれ、成功したときには「読みが的中したぜ!」と自己陶酔に浸れるポイントが生み出せるのだという。「こういったBlack Boxによって”取れそうで取れない”状況を生み出し、狂ったようにハマっていただくことこそがアーケードゲーム屋の真骨頂だ」と平魯氏は語る。

▲一度いい思いをしたら、それが運要素だとわかっていても追体験をしたくなってしまう。人間の心理を突くテクニックだ。

これらのノウハウを統括し、平魯氏は「これらのことは、女性に例えるとわかりやすい」とも述べている。まずは、ルックスのよさ(外観のインパクト)で人々の注目を集める。そして、芸達者な女(世界初という一芸の多さ)で他の存在と一線を画す。次に、性格のよさ(ゲームバランスのよさ)で付き合えば付き合うほど好きになってしまう存在に高める。最後に、奥ゆかしい女であることで、ついつい追いかけてしまいたくなる距離感を作る。そうして、一生の伴侶ともなり得るゲームを作るのだという。

▲確かに、こう説明されるとわかりやすい! なるほどなるほど。

●活かせなかったノウハウ、そしてそのためにした工夫とは?

アーケードゲームとスマートフォンゲームは似ているとはいえ、まったくの別物であることは明らかだ。そうなると当然、ノウハウ注入が困難である場面も登場してくる。平魯氏は、その経験からノウハウが注入できなかった事例もいくつか紹介してくれた。その内容は大きく、課金システム、アップデート間隔、ネットワーク回線の3点にわけられる。

アーケードゲームには「3分100円」というセオリーがあるが、アプリには基本無料というコンテンツが多数存在している。何の目的もなくフラフラっとマーケットに立ち寄った際、まず手に取ってもらえるのは無料アプリ。しかし、ただ無料というだけでは利益が作れないかもしれないと考え、価格設定にはかなりの試行錯誤を繰り返したのだそうだ。そして、さまざまな価格設定を行ったところ、驚くべきことに、無料にしてからのほうがセールスが高くなったという結果が表示され、会場からは驚きの声も漏れていた。平魯氏はこの結果を受け「モバイルでは、”ドコに痒いところを用意するか”、そして”どういうソリューションを用意するか”が課金ギミックを設計する上で大切になってくる」と分析している。

▲無料にすればダウンロード数が増えるというのはイメージ通りだが、それでセールスも伸びるというのは意外。もしかして、アプリは有料より基本無料のほうが儲かるのかも?

アップデート間隔の違いについては、想像の通り。スマートフォンゲームは、アーケードゲームと比較するとかなり素早く、そしてフレキシブルにアップデートが行える。アーケードで特に困難を極めるのはカードゲーム。新しいカードは2~3ヶ月まえに発注する必要があり、未実装のシステムも多くバランス調整にはかなり苦労ようだ。いっぽう、スマートフォンの場合は、比較的手軽に行えるため、制作者にとっては好ましい環境であるようだ。平魯氏も、これについては「うれしい誤算だった。短いスパンでアップデートが行えるので、お客様の興味を引き続けるための努力もしやすくなる」と述べている。

▲アーケードゲームのアップデートには、準備から実行までにたくさんのプロセスが挟まるので、数カ月先の動向を見越してのアップデートが必要になるそうだ。

最後のネットワーク回線についても、ご想像の通りだ。ゲームセンターは、その店舗のほとんどが光回線を導入している。それに対してスマートフォンは、ユーザーが3G回線で繋いでいたり、Wi-Fi回線で繋いでいたり、Wi-Fi回線にしても電波環境がさまざまであったりと、とにかく人によって回線環境が異なっている。そのため、オンライン対戦で完全同期を行うのは不可能に近い。そこで『大戦絵巻』シリーズでは、この問題を解決するために、入力から実行までに意図して”間”を作り、遅延を吸収するよう工夫がなされている。また、その”間”をひとり用のゲームモードでも採用することで、オンライン対戦での遅延を感じさせないような工夫も施したそうだ。

▲オンラインだから遅延はあるとわかっていても、そのほんの少しの間にちょっとイライラしてしまうのは、人のサガ。それをなくすためにも、工夫がこなされているようだ。

講演の最後に平魯氏は「少なくとも”面白いゲームを作る”というゲーム作りの哲学の部分において、アーケードゲームの制作ノウハウは、モバイルゲームとの親和性が高いようだ」と述べ、講演を締めくくった。

[関連記事]
※【取材記事】セガの開発者が立命館大学生にゲーム開発のイロハを明かす
※【まとめ】『百鬼大戦絵巻』攻略ページ

百鬼大戦絵巻

メーカー
セガ
配信日
配信中
価格
450円[税込](アプリ内課金あり)
対応機種
iPhone/iPod touch、iPad
備考
2012年8月21日現在、無料キャンペーン中

この記事のタグ

Amazon人気商品ランキング 一覧を見る

関連記事

この記事に関連した記事一覧

最新記事

この記事と同じカテゴリの最新記事一覧