【個人開発者のやぼうとげんじつ】第2回:脱サラ個人開発者“藤田武男(koume in i)”
2012-08-07 15:19 投稿
●とんでもない苦労人でした
宝くじ当選確率シミュレーターアプリ『200000000』をヒットさせ、そのほかにもさまざまなネタアプリを配信するkoume in iの藤田武男氏。アプリ開発のみならず、ブログを運営して開発にまつわることやアプリのレビューなどを自ら発信しているが、インタビューではアプリ開発に携わるきっかけや現状などについて、さらに踏み込んで聞いてみた。
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※【個人開発者のやぼうとげんじつ】連続インタビュー企画 アプリをひとりで作るって、実際どうなの?
藤田武男(koume in i)
※イラストはkoume in iのタイトルのイメージキャラクター“アイロニー”
――アプリの開発をはじめてからどのくらいになるんですか?
藤田 アプリの開発者登録は2年半くらい前です。古株なほうだとは思いますが、自分ではそんなに目立つ感じではないかなあと。アプリのリリース本数は現在44本で、先日にも“アプリ大好き芸人”という新作アプリをリリースしました。
アプリ大好き芸人 |
某人気番組にそこはかとなく似た雰囲気を持つミニゲーム。出されたお題に対してひな壇芸人がボケてくるので、的確なツッコミを入れて最高視聴率を更新していこう。
――ではその前はなにをされていたんですか?
藤田 前職はサラリーマンなんですよ。もともとゲーム会社で2年ほど働いていたんですが、壁にぶち当たってしまい、やめてしまったんです。その時に自己啓発本を読みあさって、もっと自分は頑張れるんじゃないかなと思えるようになってから本格的にアプリ開発に乗り出したんです。ただ、プログラムもイラストも全然だめで、開発を始めてから半年ほどは泣かず飛ばずの状態が続きましたね。そのころ『200000000』というアプリがすこし売れるようになったんですが、まだ家計が苦しくて、仕方なくべつの仕事も同時に始めたんです。それが初めての肉体労働で疲労困憊してしまって、それからまた10ヵ月ほどアプリ開発には手をつけられない状態が続いてしまったんです。ようやく体の方も慣れてきて去年の3月にもう一度アプリ開発に復帰を果たせたんです。その後、同じ年の10月ごろに『3000000RPG』を配信して、ようやく食べていけるくらいにまで持ち直したので、完全にアプリ開発一本に専念できるようになりました。
200000000 |
宝くじ当選シミュレーター。タップするたびに抽選が行われ、300円が減っていくというシンプルなものだが、一度はじめると当たるまでひたすらやめられなくなってしまう。オートタップ状態にして放置していても当選するとなんだかうれしくなる。タップ中に表示される世界の名言にもなんとなく見入ってしまう。
――お話を聞いていると……とても苦労なさってますね。
藤田 そうですね(笑)。アプリを出してすぐに売れる人もいるんですが、私はそういうタイプではなかったもので。
――ではいまはどういう生活スタイルになりました?
藤田 僕が運営している“あぷまがどっとねっと”というブログがあるんですが、最近徐々にアクセス数も伸びてきて、今年の7月からは毎日何かしら更新するようにしたんです。最近は朝起きて午前中にその日にリリースされたアプリのレビューを載せて、午後からブログのネタを考えながらアプリ開発、という感じですね。夜は少しリラックスしますが、ご飯を食べたりお風呂に入ったりしたらまたアプリ開発に集中してから寝ることにしています。
――開発者というと極端な夜型だったり、昼夜逆転のイメージですが、そういう感じではないんですね。
藤田 全然ならないですね。本当にふつうの人と同じ生活サイクルで動いてますよ。
――休みの日はどうやって決めているんですか?
藤田 土日は意識して家族といっしょに過ごすようにしています。せっかく休みを自由に決められる状態なので、子どもや家族に合わせて生活するのがいいですよね。
――理想的(笑)。では、いままでリリースした44本のアプリの中で一番ヒットしたアプリはなんでしょう?
藤田 いちばんのヒットは去年の10月にリリースした『3000000RPG』です。ボス戦のみに特化したRPGで、攻撃力をスロット機能で決めるという変わり種アプリなんですが、べつにどこで紹介されたわけでもなくトントン拍子で売れていきましたね。累計で今のところ10万ダウンロードを超えたくらいです。
3000000RPG |
ラスボス戦のみの異色RPG。史上最強のラスボスに挑むのは史上最弱の主人公。攻撃力は運頼みのラッキーソードを携えた主人公をサポートすべく、オトモネコのアイロニーをどんどん強化していこう。
――おお、すばらしい。いまはアプリ開発で生計をたてていらっしゃるという事でしたが、利益的にはどうですか?
藤田 そうですね、私は基本的には広告で収益を得るモデルでやっているんですが、調子がいい時は月に100万くらい行くときもありますし、ダメな時はサラリーマン時代の給料を下回りますよ。
――波はあるけど、夢がありますね。では、なぜ個人でアプリ開発をしようと思ったんですか?
藤田 夢を捨て切れなかったのがいちばんの理由です。私はがっつりファミコン世代でして、『ドラゴンクエスト』に衝撃を受けたクチだったんです。それでどうせなら、遊ぶ側ではなく作る側になりたいなと思うようになったんです。ゲーム業界って、今なら大学に行ってふつうに新卒採用を受けるのがいいのかもしれないですけど、当時は高校を卒業して専門にいくことが私の中でゲーム業界への近道だと思っていたんです。それで親の反対を押し切って専門学校に入って、学費はパチンコ屋の住み込みで働いて稼ぎました。専門学校を卒業してからは面接を受けまくって、とあるゲーム会社の下請けに拾ってもらったんです。でもそこまでして入ったゲーム業界から2年で離れるということに、消化不良があったんですよ。そんなときにiPhoneというすごい端末が出てきて、まだチャンスがあるかもしれないという気持ちでアプリ開発に挑戦したんです。
――藤田さんが考えるアプリ開発に必要なスキルってなんでしょうか?
藤田 私自身がプログラムもイラストもダメなので、とりあえずリリースする事がまず大事だと思っています。あとは自分が好きなことにチャレンジする精神ですね。私はパチスロが大好きなので、『3000000RPG』やその他のアプリもパチスロの要素が入っています。最初は「パチスロの解析機を作り続けていれば上手くいくんじゃないかな」なんて考えていたこともあります。好きだということは大事です。なので、アプリ開発を始めたい人はなにか「これが作りたい!」という信念があればいいと思います。
――アプリの開発は藤田さんひとりでやっているんですか?
藤田 そうですね。ひらめいたときにパソコンの前にすわってボタンや画面構成をいじって、そこからちょこちょこプログラミングを組んで絵や画像を入れていく流れです。一度ノートにメモしながら企画を練っていたんですが、メモばっかり増えて全然完成しなかったんですよ(笑)。僕は、とりあえずなにか手を動かしてアイデアは後付けみたいなところが多いですよ。
――では、これはヒットすると思っていたのに全然売れなかったアプリはありますか?
藤田 『200000000』というアプリが想像以上に売れて、続編を出したらまたいけるんじゃないかと思って『300000000』という続編を出したのですが、びっくりするほど売れませんでしたね(笑)。前作でレビューに書いていただいた悪い点をすべて改善して仕上げたのに全く売れなかったんですよ! これは当時かなりしんどかったですね……。でもやっぱりそれが悔しくて、もっと色々かえれば大丈夫なんじゃないかと思って『萌萌300000000』というタイトルを配信したら、それはいま30000ダウンロードくらいまでいきました。内容はそこまで変わっていないんですが、アイコンやタイトルを少し変えただけで違ったんで、見た目は大事なんだなって痛感しましたね。
萌萌300000000 |
宝くじ当選シミュレーターに萌え要素を強引にトッピング……しただけでなく、スロットとくじを連携しながら楽しめるようになった。スロットでネコのアイロニーを集めれば、くじを複数買いできるようになるなどいいことずくめ。
¥300000000 |
『200000000』でユーザーから受けた要望を改善した最新作。“ドリーム賞100万円”の追加で当選確率はさらに忠実に。『萌萌』に先駆けてネコスロを搭載。Coinやネコをゲットして、1等当選までの道をさらに効率的にしよう。
――アプリのアイデアはどんなときに生まれますか?
藤田 本当にふとした時にでてきますね。雑誌や本など色々なものを見て、自分と違った視点で考えることも大事です。
――どうすればアプリ開発で生活していけると思いますか?
藤田 そんなに偉そうなことは言えませんが、自分が好きなことじゃなければなかなかおもしろい物は作れないと思います。売れそうなものを狙って作っても、好きなものでないと深くはなりませんから。
――今後もし、企業から声をかけられたら(引き抜き)どうしますか?
藤田 それは想像できませんね(笑)。ただ、私は自分は何もできないと思っているので、おそらく丁重にお断りをすることになるかと! 企業が望むものを作る自信はないです。
――これまでアプリをリリースしてきて自分なりのAppStore攻略法は見つかりましたか?
藤田 ゲームカテゴリの中でも人気のあるジャンル、人気のないジャンルがありますので、どこを攻めるかの見極めは大事だと思います。たとえばカジノカテゴリは、RPGやアクションにくらべると人気はない。しかも、無料でパチスロっぽいアプリはそれほどないんですよ。ですから、遊べるパチスロアプリを無料で出せば、カジノカテゴリではそれなりに上位を目指せると思います。
――今なにか注目しているゲームアプリはありますか?
藤田 いまは『目押し王』ですね。開発者さんのTwitterをみているとあれがまだ完成系じゃないと言ってるんですよ。でもそれがすごい売れていたんで、もっとしっかり作り込んでどれだけ人気が出るのか注目しています。
――Androidではアプリ開発をされないんですか?
藤田 Androidは開発環境が作れなかったんです。もともとパソコンが苦手でして、iPhoneアプリの開発環境が揃えられたことすら奇跡的だったんですよ。ただ、いまはいろいろ情報があるのでいつか環境を整えて挑戦してみたいなと思っています。
――パソコンが苦手って本当ですか?(笑) では、今後の野望を教えてください。
藤田 野望は、技術的な部分は若干諦めているので、最低限の技術を保ちながら私の作った“アイロニー”という猫キャラクターをなんとか“なめこ”並みに育て上げる事が大きな野望です(笑)。とりあえず“アイロニー”の知名度を上げていきたいですね。
――では最後にファンの方に向けてひと言お願いします。
藤田 いつもTwitterやブログでも行っているんですが、見捨てないでください……ですね。これからもがんばっていきますので今後ともよろしくお願いします!
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