【コラム】たった3人のインフルエンサーがAndroid版『神撃のバハムート』を米国売上ランキング1位に押し上げた

2012-05-14 12:41 投稿

【著者】
水野政司(クエリーアイ株式会社

儲からないと言われて久しいAndroidアプリ市場で日本のCygamesが運営するMobage向けゲーム『神撃のバハムート』の英語版『Rage of Bahamut』がGoogle Palyの売上ランキングで米国1位を獲得し、日本のモバイル・コンテンツ業界に衝撃が走った。

本原稿執筆時点(2012年4月30日)でも米国売上ランキング1位を維持している。Androidコンテンツで日本企業が売上ランキングで1位を継続させているのは快挙である。果たして、その裏側で何があったのか、どうして売上1位を獲得できたのか、インターネット上の公開されている情報だけを頼りに、コンテンツの上昇要因などを探るための分析ツールQuerySeekerを利用して探ってみた。

この図はQuerySeekerでランキング軸で総合売上ランキング(青線)と総合ダウンロードランキング(緑線)を示している。最小800位、最大1位で、期間は3月1日から4月25日(日本時間)だ。下のグラフはTwitter Stream中に対象コンテンツのダウンロードページへのURLやそれらのURLが記載されたWebサイトのURLがTweetされた数をプロットしたものだ。つまりTweetを見て1クリックまたは2クリックでコンテンツをダウンロードできるので、コンテンツダウンロードを誘導する情報拡散が増えているかどうかの指標となる。つまりクチコミだ。

注目すべきポイントは3つある。1つ目のポイントは売上ランキング(青色)とダウンロードランキング(緑色)の順位に相当な乖離があることだ。売上が1位になった4月23日でもダウンロードは210位なのだ。つまりダウンロード数自体はマーケット全体からすれば、取り立てて注目すべき順位ではない、という事実だ。にも関わらず売上が1位ということは課金に関するゲームバランスは絶妙と言える。つまりARPU(ユーザー1人当たりの収益)が高いということだ。これが日本のソーシャルゲームが世界でビジネスとして成立する可能性があるかどうかの実績としての答えだとも言える。つまり一旦ユーザーとして引き込み、彼らが「ハマって」くれればコンテンツ会社は儲かるということだ。

問題はユーザーになってもらうための集客だ。これが2つ目のポイントだ。ダウンロードランキングは3月20日に428位で初登場するまで800位以下だった。この時点で売上は88位である。Twitterの部分を見てみると3月28日まで一切何も出ていない。つまりこの時点までの集客手段はクチコミではなく広告やMobageプラットフォームの他のコンテンツからに頼っていたものと推測できる。クチコミだけでなくニュースサイトなどのWebメディアに取り上げられた形跡も確認できなかった。

3月末から4月上旬にかけて状況が変わってくる。3月末からTweetが増えだし3回のピークがあることが分かる。そして、この付近と時を同じくしてダウンロードランキングが右肩上がりに上がって行くのだ。4月8日476位だったものが23日には210位、毎日確実に上昇し15日間で266位順位を上げた。これに伴って売上も4月8日14位だったものが順調に毎日上昇し23日に1位を獲得している。

つまり広告だけに頼っていた時期は伸び悩んでいたダウンロード数がネット上のクチコミが発生することで上昇に転じたのだ。

最後に3つ目のポイント、誰がクチコミの元なのか。何が起爆剤だったのか。QuerySeekerは個別のTweetやメディアも分析対象として記録している。このデータから3人のTwitterアカウントと「Paper.li」が情報拡散の媒介となっていたことが判明した。その起爆剤は招待コードだ。

いつからスタートしたかは不明だがTwitter上で新規ユーザーを引き込むための招待コード(referral code)が確認されたのは3月30日だ。この日を境にクチコミ情報拡散が始まる。この招待コードは招待する側の現行ユーザー毎に割り当てられていたようだ。この招待コードで新規ユーザーが加入すれば招待した側のユーザーに何らかのメリットがあるキャンペーンをゲーム内部で行なったのではないかと推測している。

インフルエンサーとは他の人に影響力を及ぼす人のことだ。今回は招待コードを多数の人に広げたインフルエンサーは3人だった。この3人はそれぞれ「Paper.li」にアカウント持ち、彼らのPaper.liの新聞が合計約140万リツイートされていた。Aさん100万、Bさん28万、Cさん10万リツイートだ。このゲームにハマっている人の「新聞」に招待コードが掲載されて約140万回の情報拡散を発生させた。この情報を見る側の趣味趣向も似ている可能性が強く、広告以上の効果をもたらした可能性がある。

これによって趣味趣向が同じ新たなユーザーを獲得し元来ARPUの高いゲームだったため売上ランキング1位を獲得できたと推測できる。

ところで、米国Android市場のダウンロードランキングと売上ランキングの一般的な関係と比較した場合を探ってみた。4月30日時点での売上ランキング・ベスト5は全て無料アプリでありアイテム課金で売上を稼ぎだしている。

1位 Rage of Bahamut

2位 Live Holdem Poker Pro
約1年前、ダウンロードランキング7位を最高に下降しつつ151位

3位 Zynga Poker 約半年前60位前後を上下し127位

4位 Slotomania 今年2月頃170位、4月初旬85位、以降下降気味

5位  Drag Racing: Bike Edition 今年3月末リリース、4月23日23位、4月30日34位

日本ではダウンロードランキングが比較的下位であってもARPUが高いソーシャルゲームなどが売上ランキングでは上位になる傾向が見られる。米国での売上ランキング上位5位を見ると、リリースされてからの期間も長く、時期によってはダウンロードランキング・ベスト10以内に入っていたものもある。神撃のバハムートと同じ時期にリリースされたDrag Racing: Bike Editionなどはダウンロードランキング34位で売上は5位だ。つまりダウンロードランキング上位であれば売上ランキングも上位になる傾向が強い。

こういった状況からも、リリースからの期間も短くダウンロードランキング下位にも関わらず、神撃のバハムートが米国売上1位を獲得したのは希有な存在であり、ARPUを高くするゲームの仕組みと、ターゲットユーザーを引き込む集客導線を確保できたことに起因するのではないだろうか。

(文中の日時は全て日本時間)

【参考URL】
Google Play 『Rage of Bahamut』
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.mobage.ww.a692.Bahamut_Android
ファミ通App記事
https://app.famitsu.com/20120425_57651/

QuerySeeker
http://queryseeker.com/index-jp.html

以上

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