スクエニプロデューサー安藤武博氏のブログ“スマゲ★革命”第十二回 「GRAVITY DAZE~スマゲ革命的眩暈~」
2012-03-12 11:12 投稿
●第十二回 「GRAVITY DAZE~スマゲ革命的眩暈~」
今回は引き続き、スマホと携帯型ゲーム機の違い。そして、これらを取り巻く状況について思うことを“ひとつの作品”を通して書きます。表題の通り、プレイステーション Vita用ソフトとして2012年2月9日に発売された『GRAVITY DAZE 重力的眩暈:上層への帰還において、彼女の内宇宙に生じた摂動』。国産のオリジナルゲームとして、これほどのおもしろさを感じたゲームソフトは久しぶりでした。以下、通り一辺倒の感想ですが、あらためて本作がいかにすごいのか、おさらいをしてみます。
まず重力をテーマにした遊びが“新しい”。加速度センサーとタッチパネルを使い、きちんとそのハードならではの存在意義がある。アクションゲームとしても純粋に“おもしろい”。最近は洋ゲーの十八番になっていたオープンフィールドのゲームで、純国産のチームでも十分イケると改めて証明した、歩くだけでもなんだか楽しい空間設計(個人的には『ゼルダの伝説 時のオカリナ』以来の感覚)。バンドデシネ的な演出や海外アニメチックな絵柄など一見、世界を意識しているように見えてその実、独特の日本人的“萌え要素”がある“ドメスティックなワールドワイドキャラ”、キトゥンが最高。彼女たちがキャッキャ言いながら、ドッグファイトするところが実にキャットファイトで魅力的。さらに電源を入れた直後から徹頭徹尾、田中公平氏による名曲のオンパレード。不肖安藤、人生のベストアニメが『トップをねらえ!』なものですから、本作の楽曲があまりにも“THE・田中公平”なのには完全にノックアウトされました。ここまで総合力が高い作品が、しかもオリジナルでプロデュースされているわけですから、いかに難度の高いことを、色々とやってのけているか。創り手としても、ただただ感動&尊敬です。
この作品からは僕が『鈴木爆発』(2000年7月にプレイステーションで出した爆弾を解体するゲーム)を創った時代の、ゲームに対して“新しく”、“おもしろく”、“かっこよく”、“自由”だった、またゲームを遊ぶ方もそれを待ち望んでいた“あのころのソニー・コンピュータエンターテインメント”の香りがプンプンします。リンゴのCM“重力と摂動編”もまさに、SCE黄金期のハッとする広告クリエイティブでした。自戒を込めて言いますが、ゲームに対してのチャレンジ、絶対に忘れちゃいけないですね。やはりゲーム専用機のクリエイターはSNSゲームの創り手に比べて、真似っこばかりしていません。
一方で(あくまで個人的なフィーリングですが)これほど良質なゲームの登場に、なぜか“マニアックなムード”が漂っているのはなぜなのでしょうか? Vita本体の出荷台数からすると、まだハード発売後の黎明期ですし十分健闘しているように見えますが、少し前だったらもっと売れて、ハードの売り上げも、もっと牽引して話題になっているはず。例えが極端かもしれませんが、“ゲーム専用機で挑戦的な新作を遊ぶ”行為が、昔の“アーケードゲームが好きすぎて、基盤を買って家で遊ぶ”くらいのニッチな匂いを“持ち始めて”いないか? と。ゲームLOVEとしては、これは看過できない感情です。スクエニもローンチからVitaにはタイトルを複数供給していますし、なんとか、この“勝手な胸騒ぎ”を杞憂に終わらせなければと思う次第です。が、そのためにもあえて、この感情を今、書いておきたい。なんだがゲーム機が、昔より“遠く”なっている。単純に僕がスマゲを中心にゲームを制作しているからなのかもしれませんが、『アスラズラース』といい、おもしろいものが正当に評価されない状況には眩暈を覚えます。
とはいいつつもニンテンドー3DSは過去最速で本体出荷台数が500万台を突破しましたし、おもしろいゲームがたくさん揃えば、万事解決なのかもしれません。それでもなんだか、ぬぐい切れないこの眩暈。遠く感じられる距離を“近づける”ために、プラットフォーマー側からすれば“言語道断”なことを不躾ながらも提案してみます。「『GRAVITY DAZE』をiPhoneでも遊べるようにしたらどうですか?」。イメージ的にはマイクロソフトのOfficeにMacintosh版があった感じに近い。企業サイドからすればまさに“禁じ手”ながらも、お客様的にはウェルカムだったあのやり方です。実際、僕はマック版のOfficeを長い間使っていました。『GRAVITY DAZE』のジャイロとタッチパネルを使った遊びは、同じ機能を持つiPhoneにぴったりです。
では実際、技術的に“『GRAVITY DAZE』はiPhoneでリメイク”できるのでしょうか? 答えは現時点では“限りなくNo”だと思います。たとえばPSPの『ファイナルファタジータクティクス獅子戦争』はプレイステーション1のゲームがベースになっているのでリメイクできましたが、PSPの性能をフルスペックで使いきった『ファイナルファンタジー零式』は、まだ性能的に厳しいような気がしています。僕はかねがね「iPhoneは、もはやゲーム機である」と様々なメディアで発言していますが、厳密に言うと、ゲーム機に比べてまだできないことも多いのがスマホの実情。現場からすると、特にiPhone4がやっかい。iPhone4は3GSに比べてRetinaディスプレイを搭載し、解像度が2倍と格段に情報量も増え、めちゃくちゃ映像が綺麗になったのですが、グラフィックスの処理能力は3GSに比べて目覚ましく進化しているわけでないので(それらはiPhone 4Sの登場で完全に解決されましたが)、4S基準で豪華なアプリを創ると4では思うように動かず、3GS基準で作ると4Sでは、もの足りないという問題にぶつかります。
僕がもうすぐ発売する『ケイオスリングスII』も見た目は専用ゲーム機に全然負けていない仕上がりになりましたが、実はそのように動かすための、ゲームクリエイターたちによる“見えざる努力”が技術的にも仕様的にもかなりあります。今週発売される“新しいiPad”ではさらに目覚ましく性能が進化するので、いよいよVitaや据え置きのゲーム機とも遜色がない時代が到来しますが、いまはVitaでしか遊べないという理由が厳然とあります。
仮にVitaとスマホ両方に作品が展開される時代が到来しても、“やっぱりこの作品は、ゲーム機で遊ぶのが一番”と思えるおもてなしがあれば良いのではと思います。Officeも結局、互換性など環境の面でもWindows版の方が使いやすかったですからね。もちろんゲーム機には前回書いた“物理ボタン”という大きな武器もあります。逆もしかり。スマホは携帯電話故に、“常に携帯している”という特性があります。ゲーム機に比べると出先に忘れていくことも少ないですし、2台持ちの重さから解放されるという利点もあります。
ゲームデータ自体はクラウドサーバー上に置かれ、“今日はVita”、“明日はiPhone”のように自由に選択できるようになったらサービスとしては最高ですね。実際もう一部のSNSゲームはそうなっています。僕が『探検ドリランド』や『ナイツオブクリスタル』を遊ぶときに、プライベートのガラケーは“auでソニー製”。仕事のスマホは“SoftBankでApple製”なのですが、同じデータでどっちからでも遊べます。その時に“auとSoftBank、ソニーとAppleはライバルだから、これは禁じ手だよなあ・・・。”と思うことはないですからね。とはいえ、スマホと携帯型ゲーム機のハッピーなマリアージュはまだまだ先のような気もしますから、今はみんなVitaと『GRAVITY DAZE』を買って遊びましょう。本当に面白いですよ。なにより本作はクリア後、いかにも続きそうな感じで終わりました。これはSCEと外山さんチームの「これからも、続きをやってやるぜ!」という意気込みと捕えて、次回作を楽しみに待っています。
■追伸
ついに『ケイオスリングスII』が完成しました! いよいよ近日発売となります。再び、スマホ最強RPGといえる仕上がりになりました。ほんとに、もうすぐ発売ですのでご期待くださいね。このブログでも臨時スマゲ☆革命として、“『ケイオスリングスII』発売祭り”を、今週再度アップしたいと思っています。それではまた数日後。
つづく
安藤武博 スクウェア・エニックスのゲームプロデューサーにして、同社のスマートフォンアプリ制作の中核を担う人物。早くからスマートフォン事業に携わってきたことから、アプリに対してはすでに確固たる理論を構築している。それでいて、つねに新たなステージへのチャレンジを忘れないスマートフォン業界の革命児。 |
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